海外エンタメ 千一夜物語

もの好きビルコンティが大好きなゲームオブスローンズを中心にゴシップ話も交えて、海外ドラマ・エンタメを一人語り・・・

ハンニバル1.05コキーユ 死の受容と内なる悪 深読みネタバレ

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悪夢と夢遊病、天使に見立てられた死体や透視能力が登場するグロ美しい第5話。犯罪捜査シリーズのふりをして始まり、サイコスリラーに変化し続けた『ハンニバル』シリーズですが、ついに、 サイコホラーに!

幼虫がさなぎになり、孵化するように変化し続けるこのシリーズ。どんどん惹きこまれ~~。ハンニバルリユニオンの放送まであと2時間。待ちきれません!

 

 

死の床の究極の救いは天使への昇華

ごく普通のモーテルの一室、柔らかな日差しの中で祈る一対の天使たち…。

ではなくて、剥がされた背中の皮膚を天使の羽に見えるように天井から釣り糸で吊るされ、ベッドの脇に飾り付けられた中年の男女の死体。

宗教的な荘厳と平穏、猥雑な生活空間と残酷な殺人。本来なら共存しないもののイメージがいっしょくたになって、めまいがするような今週の殺人。

残酷美のヴィジュアルに、まず惹きこまれます。

 

エンジェルメイカー(天使製造人)という呼び名を与えられた犯人は、寝ている間に死ぬことを怖れて、見守ってくれる天使をこしらえたのだと見抜くウィル。

さらに、犯人は悪質な犯罪者を殺していること、脳腫瘍を患っていることが判明して、FBIの行動分析チームは、あっさりと行方不明になっている末期癌患者エリオット・ブディッシュにたどり着きます。

脳腫瘍のために、罪人の顔が燃え上がって見えるというヴィジョンを見るようもなっているブディッシュ。そして、このヴィジョンは幻覚ではなくて、事実。超自然な事実です。

天使製造殺人は、罪人である被害者を高度な存在に引き上げる贈り物というところまでは理解したウィルですが、何故、そうする必要があるのか?

 

炯眼なハンニバルは洞察します。

You want to feel such sweet and easy peace.

(ウィル)君も甘美で穏やかな平和に浸りたいだろう。

The Angel Maker wants that same peace.

エンジェルメイカーも同じだよ。

He hopes to feel his way cautiously inside it and find it is endless all around him.
彼は用心深く平和の中に入り込んで、永遠の平穏に取り巻かれたいのさ。

 

さらに、ハンニバルはエンジェルメイカーは脳腫瘍でまもなく亡くなるから捜査の必要はないという趣旨の発言さえします。

 

その通りに、

エンジェルメイカーは性のない天使になるべく自分を去勢して、背の生皮を剥い天使になった自分を空中に浮かせて自殺を遂げます。

 

リアルな犯罪捜査物だとしたら、この込み入った飾り付けも、どうやって可能にしたか理解不能です。

心理的には、

自分の心を乱す犯罪者を天使にすることで気持ちに平穏をもたらし、病気に苦しむ自分を天使に変えることで永遠の心の平安を得る。と、いうことでしょうか。

 

末期がんは恐ろしく苦しいといいます。だから内なる平安を、さらに完全な平安を求める。それは、病を受け入れる一つの方法だと思います。

 

このエピソードでは、さまざまな人物が病に対処する様子が描かれます。

 

そしてこのエピソードの超自然的なリアリティを目撃して、ハンニバルはスリラーを超えてサイコホラーに突入したと思ったアタシです。

 

死に至る尊厳を求めるベラ・クロフォード

このエピソードから、ジャック・クロフォードの妻ベラとして、ジャック役ローレンス・フィッシュバーンの奥さんジーナ・トーレスが大きくフィーチャーされることになります。

 

たってののディナーの誘いに応えて、ジャックとともにハンニバル邸を訪れたベラは、NATOに勤務する自立した女性。

フォアグラに涎をたらしそうなジャックとハンニバルに、(ガチョウに無理やり餌を与えて肝臓を肥大させてつくる)フォアグラは残酷だからパスしたいとやんわり断りを入れます。

これに対して、自分は"倫理ある屠殺人"を使っていると応えるハンニバル。視聴者はハンニバルが殺した死体の人肉をふるまっていると知っているので、彼が自分を"倫理ある殺人者"と認識していると理解します。カニバラれてしまう奴らは道徳に反しているわけです。すごい論理です。

 

最近よそよそしくなったベラが浮気をしているのではないかと、ジャックは疑っていますが…

人間離れした鋭敏な嗅覚を持っているハンニバルは、ワインを注ぐ際にベラの体臭に癌のにおいを嗅ぎつけて、それとなく彼女に伝えます。

 

ベラは心療を受けるという形で、「癌は死のにおいがする」と言い放つハンニバルを相談相手に選びます。それでも初めのうちは、肝心な事実を口に出せない。

 

根気よく耳を傾け、「秘密を持っているようだが、あなたは浮気をするタイプではない。あなたは自分の身体に裏切られた以上にジャックの裏切りを感じているのでは」と、扇動するハンニバルに

思わず「ジャックに裏切られたなんて思っていないし、癌が癌であることに腹をたててもしようがないでしょう」と口走ってしまいます。

ベラと対話するハンニバルの顔つきは、分析的ではあるけれども真摯で、友人の奥さんを思いやる善良な医師に見える、その怖さ

さらにそれを可能にする、マッツ・ミケルセンの微細表情の演技にシビレます。

 

ベラはステージ4の肺癌で余命がないのに放射線治療を受ける決意が持てない、日毎に弱っていくのを感じているけれども病み衰える姿をさらしたくないのでしょう。だから夫にも知らせず毅然としていたい。

 

何よりも死に至るまでの尊厳ある生き方を望んでいる。これも、病を受け入れる一つのあり方だと思います。

 

ウィルの夢遊病とハンニバルへの依存

凍えそうな真夜中の車道を、裸足にトランクスと半袖Tという寝間着姿でフラフラ歩くウィル・グレアム。その背後には彼の悪夢に出てくるカラスの羽に覆われた雄鹿が寄り添って…。

実際にウィルについていったのは雄鹿ではなく愛犬のウィンストンで、ウィルはパトロールの巡査に保護されるのですが。

このエピソードはウィル・グレアムの夢遊病発症から始まります 。

 

ウィルの病の受け入れ方はというと、

翌朝、突然ハンニバル邸のキッチンに、「なんかの発作かもしれない」と不安気な顔つきで立っている。

勤務しているFBIアカデミーがあるクアンティコとは逆方向のハンニバル邸があるボルティモア。1時間半かけてハンニバルのところにいき、また1時間半かけて出勤する。都合3時間の回り道なのにあえて押しかけている。

ここから推測するに、ウィルは自分で対処できないことがあるとハンニバルを頼ってしまうという、依存関係が始まっていると判断できます。

 

病気を受け入れられないから、誰かに依存してしまう。これも病との付き合い方の一つですが、危険な対処法ですかと。

 

雄鹿の幻覚は、第1話のハンニバルの手になるコピーキャット殺人以来ウィルを襲っていますが、雄鹿はウィルのの守護者なのでしょうか?

ウィルの深層意識はハンニバルが殺人カニバルであると同時に、自分の守り手であることに気づいているのでしょうか?

 

ハンニバルの企みは?

「診療時間は決まっているが、キッチンはいつでも友人はオープンしているよ」なんて言いながら、 "ロイヤルバランシングサイフォン"という、複雑でアンティークな道具を使って、砂糖大盛りのコーヒーを淹れてウィルを落ち着かせるハンニバル。

ベタベタに甘やかしてますねえ。

 すかさず、「敵対的な環境に対応できないと夢遊病は発症する」「ジャックにそそのかされて、捜査現場に出てる心理的ストレスが夢遊病の引き金に違いない」「神が被造物を見捨てたようにジャックは部下を見捨てる」「ジャックはウィルの(不安定な)精神を守るはずっだったのに、ほったらかしだ。見捨てられた気がするんじゃないか」なんて言って、ウィルをジャックから引き離そうと画策したりします。

FBI側が内輪もめしていれば、ハンニバルは安泰。

ウィルのネグレクトされた子ども時代を察しての突っ込み、お見事です。

 

さらに、

その鋭敏な嗅覚でウィルの脳内に病が巣くっていることに気づきながらも、事実を隠すハンニバル。何を企んでいるのでしょう?

 

ブディッシュの自滅を語ったハンニバル発言は、正確には

Angel Maker will be destroyed by what’s happening inside his head. You don’t have to be. エンジェルメイカーは脳内で起きていることに破壊されるが、君がそうなる必要はない。

悪夢や夢遊病、脳の病がもたらす変化を歓迎すべきということでしょうか?

どんな変化をウィルに望んでいるのか?狂気がもたらすものであることは確かです。

 

ウィルとジャックの確執

Are you trying to alienate me from Jack Crawford? 僕をジャックから遠ざけようとしてるの?

ハンニバルの企みを察して、

Abandonment requires expectation. 何らかの期待が最初にあってはじめて見捨てられたと感じるんだ(つまり期待のない自分には失望もない)と言い張っていたウィルですが、

第2の殺人現場で、どうやってエンジェルメイカーの被害者を選んでいるかはまだわからないでいるところ、「すぐ説明しろ」とジャックに責められて、「あんたが行動分析課の長なんだから、僕の意見が気にいらないなら自分で考えたらいいでしょう」と、一度も部下に口答えされたことのない権威主義上司のジャックをなじってしまいます。

 

後半、夢遊病の進行を自覚して、「もう役に立てないかもしれない」と泣き言をいうウィル。

I am looking alone. And you know what looking at this does.

たった一人で殺人者を見つめているんだ。それがどういうことか、あんた(ジャック)にだって分るでしょう。

「やめたいならやめろ」と反撃するジャック。 

 

ハンニバルの刷り込みは、ボディブローのように効き始め~~

 

看取る者の苦悩

精神科医のハンニバルには患者の告白に対して秘密厳守の義務があるので、ジャックにベラの病状を伝えることはできません。

ジャックがベラの病を悟るのは、ブディッシュの妻の聞き込み中。

「夫が癌にかかってから、急によそよそしくなった」

という発言を聞いてベラの病を悟り、その場を離れて机に戻り涙ぐみます。

 

ベラと話し合うためにハンニバルの心療室を訪れたジャックは、一回り小さくなっている。大きくて強くて、不動なはずのジャックが崩れていく様子は、とても悲しく心打たれます。

 

癌の告白を受けて「一人で苦しまないで欲しい」と力づけるジャックに、ベラは「ありがたいけれど、わたしにとって慰めにはならないの」 と、気丈に言い放ちます。

 

無力さに打ちひしがれて、FBIオフィスの椅子に沈みこむジャックの異変を察して、

「I’m going to sit here until you’re ready to talk. 話す気になるまで、僕もここにいるから」と、

ウィルは珍しく自分の殻から抜け出して思いやりを示しますが、2人の間の距離は縮まず、それぞれに目の前の空間を見つめて時間が過ぎていきます。。

ウィルはジャックは救えないし、ジャックもウィルを救えない。あまりいに価値観のくい違う二人の苦しむ人間の間には、乗り越えられない、重苦しい沈黙が続くばかり。

 

ハンニバルのウィルを孤立させる計略は、ジリジリ進んでいるようです。

 

ウィル・グレアムの光と闇

宗教的なイメージが溢れるこのエピソードですが、第2の殺人現場に登場するウィルは、背後のパトロールカーが放つ青いライトの光背に包まれて、まるで、聖画の中の天使や聖母のように見えます。死体に近づくと、ライトはは完全な光輪に。

ジャックを含め、周囲の行動分析課員はまったくこの光の中に入って来ないので、このライティングは意図的だと考えられますます。

天使であるとしたら、神であるジャックの意思を体現し続けるのか?地上に堕ちてしまうのか?聖母であるとしたら、カトリックの祈りにあるように、罪人に許しを与える存在となることができるのか?

それとも、ハンニバルという神に仕える天使なのか?

いずれにしても、興味深いイメージです。

 

エピソードの終盤、エンジェルメイカーの自殺した納屋で、ウィルは自分の顔が燃え上げる幻想を見ます。エンジェルメイカーから見たら、ギャレット・ジェイコブ・ホッブス殺害に喜びを感じ、殺人鬼にだけ共感能力を持つウィル自身も罪人になるのでしょう。

第1話で、他人と目を合わせることができないというハンニバルの指摘に対する返答の意図が明らかになります。

You won't like me when i'm psychoanalyzed. 心理分析したらきっと僕を嫌いになる。

目を覗き込んだら、殺人に惹かれる自分の内面が悟られてしまうと、ウィルは考えていたのでしょう。

「いつまで役にたてるかわからない」発言には、いつ捜査側から犯人側に回ってしまうか分からないという含みもあるようです。

 

I will give you the majesty of your Becoming. あなたを崇高な変身へと導きましょう。幻視の中のブディッシュはささやきます。

 

ウィルは狂気の中で内なる闇に目覚めていく。ハンニバルはそれを望んでいるのだと、このシーンで確信しました。

 

光り輝やく聖なるものであり、同時に闇に住む罪人でるというウィル・グレアムの2重性。眼が眩むような歓びに浸るアタシでした。

 

Did you just smell on me?

とググると、山のようなハンニグラム(ハンニバルとウィルのスラッシュなシップ名)のミームがヒットする名高いセリフが出てくるもこのエピソード。

 

ハンニバルがウィルのにおいを嗅ぐシーンでのところで、スクリプトの文脈からすると単純に病のにおいに反応していることになるのですが、このシーンの微妙な流れというか、微妙な編集でなぜかエロく感じてしまうファンが多くでて、ミームが炸裂してしまったのですね。

 

ハンニバルの診療室で大きな角を持つ雄鹿の鋳物を見つけたウィルが、第1話のコピーキャットによるキャシー・ボイル殺害を思い出す。いわゆる犯罪捜査物だと、ここから

ハンニバルとコピーキャットが結びついてお縄頂戴となるのですが、そうならないのがこのシリーズ。

なぜか2人の会話は、前述した心の平安や脳腫瘍のネタに移り、「君がそうなる必要はない」と言った後に、ハンニバルがベラにしたように背後から肩越しにウィルのにおいを嗅ぎ、ウィルが「僕のにおいをかいでるの」と聞いて、

ハンニバルは「Difficult to avoid」変なにおいのアフターシェーヴだから、嗅がずにはいられなかったとかいって誤魔化しますが、

ここで意味もなくウィルの息遣いが荒くなり、なんかエロいニュアンスになってしまう。

 

ということで、分脈を離れて独り歩きしてしまったシーンとセリフ。

 

脈絡なくエロく情念的なシーンが入ってくるというのが、この後、ハンニバルシリーズの一つの特徴となっていきます。

何でそうなってしまったのか?

「ブライアン・フラーは編集段階で好き勝手やってる。邪悪な、邪悪な人物だよ」とヒュー・ダンシーがジョークを言ってましたが、第3シリーズまで見ると全部納得できるのが凄いところ。

主な出演者と製作スタッフが集まるズームリユニオンが待ちきれません!

 

 

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