ハンニバルにコンタクトを取り、セラピーを受けるようになったフランシス・ダラハイド。なんか第2シーズンの獣人ランドール・ティアーを思わせますねえ。今度はどんな企みをハンニバルは仕掛けてくるのか?その辺を深読みしてみました。
釣られたウィル・グレアム
オフィスでウィルが上司のジャック・クロフォードとボルティモア精神病院長のアラーナ・ブルームに美術館で被疑者がブレイクの絵を喰らい尽くした顛末を報告。指紋から被疑者が噛みつき魔であることは特定されました。
ガイドやウィルを殺さなかった事実を聞いて訝るジャックに、被疑者はやめたいのではないかと進言するアラーナ。相変わらず読みが甘い。ダラハイドがドラゴンに成る儀式に意味付けを持たない2人だから乱暴にどけられただけでしょう。
被疑者が自己破壊の段階に来ていて自殺傾向にあるなら、それも結構てな構えのジャック。相変わらう実利的です。
「彼の死が彼の内なるものにどんな影響を与えるのか、彼は分かっているのでしょうか?」と懐疑的なウィル。
「彼のことを多少なりとも理解できなければ、彼を捕まえられないだろう」と、人を釣る漁師のジャックに煽られて、まんまと釣り上げられ、捜査にのめり込んでいく自分を悟るウィル。
第2シーズン第8話でジャックと釣り人論争をしていたウィルですが、結局よりよい釣り人はジャックだったということでしょう。よき漁夫であるには、ウィルは感情的にすぎますから。
「ハンニバルは何処で彼に会えるか教えてくれました… あの人はドラゴンが誰か知ってますよ多分、治療もしてるはずです」何故か、少し寂しげなウィル。
また、お気に入りがほかもにいると教えてウィルを悩ますランドール案件かい。この2人、成長しないねえ、なんて思う視聴者でした。
セラピーという企みと恋文
ボルティモアにあるハンニバルの心療室の幻想。ウィルの予想通りダラハイドはハンニバルのセラピーを受けています。実際はボルティモアの心療室から、ダラハイドが監房のハンニバルに電話を掛けているのですが…。
レッドドラゴンを始めて幻視した時の驚きを語るダラハイド。
「ブレイクが君の耳穴を覗き込み、そこにレッドドラゴンを見出したように
ドラゴンは君の内側でも外側でも蜷局を巻いている。
ドラゴンとの新たな二重性に眩暈がしているだろう」
ダラハイドの多重人格を蜜のような言葉で表現する誘惑者のハンニバル。
リーバと出会う前はドラゴンと自分の意思は一つだったけれども、出会い以降ドラゴンは別人格となり、リーバを渡せ、即ち殺せと要求してくると、悩みを打ち明けるダラハイド。
孤独と自己嫌悪の中でドラゴンを生み出し、人間を憎悪し幸福な家族の抹殺で溜飲を下げていたダラハイドの中に、リーバは恋する人並みの男であるフランシスを蘇らせてしまったのですね。ダラハイドを人間フランシスに引き戻し、自分の存続を脅かすリーバの抹殺をドラゴンが望むのは当然でしょう。
「だが、君の変身によるパワーがなかったら、ドラゴンがいなければ、君は彼女を手に入れることができなかったろう」
「僕は…あの人の鼓動す心臓に手を置いて、あの人の心音を、生きている声を聴いたんです。生きている女性の...」
感動に打ち震えるようなダラハイド。これまで、彼が経験したのは死体になった女性たちとのセックスだけ。生きた女性に触れることは奇跡のようなものでしょう。
「ドラゴンにリーバは渡したくない」と訴えるダラハイド。
「リーバを生かす道はある。彼女との恋に心配などいらない。ドラゴンには他の誰かを
くれてやればいい」と、セラピーの目的である企みの開示に近づくハンニバル。
「ウィル・グレアムに興味があるんです。
捜査官にはしては変わった風貌だし
あまりハンサムではないけれど、決然としていますね」
この話題転換にはギョッとします。特に、「Not very handsome あまりハンサムではない」というところ。ウィルがハンサムだというのは、ほぼ視聴者全員の見解でしょう。この一言に、微妙な悪意、ダラハイドの嫉妬を感じてしまいます。
そうです。ダラハイドは自分こそがハンニバルの伴侶と信じで、ウィルに嫉妬しているのです。
番組は台本の他にダラハイドの手記も用意していましたので、その一部をここに引用してみましょう。
Dolarhyde’s Ledger: Page Two – Ballad of a Wayward Fannibal
「私たちは本当に似つかわしく、歴史的なベストパートナーになるはずだと信じます。共に何ができるか、あなたにお見せしたい。あなたの友、もしくは恋人になるために、あなたの満足を私は懸命に追い求めます。博士、私たちが互いに愛し合えないなんて考えられません。あなたも、人生をかけたに唯一の人が欲しいはずです。あなたと常に共にある、特別な人間が。博士、それは私のはずでは?そう、私です」
熱烈な恋文ですね。そりゃあ、ウィルが憎いはずです。
「ウィルには家族がいるんだ」
「Save yourself. Kill them all. 自分を救いたまえ。奴らは皆殺しだ」
ハンニバルとしては、モリーとウォルターが邪魔。ドラゴンへの生贄として、ウィルの家族を差し出して消したいのですね。そういえば、チルトンの秘書からグレアム家の住所も聞き出してましたしね。
この企み、リーバを救うという理由が増えて一段と説得力を上げた模様。
ダラハイドも、うまうまとハンニバルの手中の駒となってしまうわけです。
殺人計画と亜麻色の髪の乙女
押し寄せる海のイメージ。十三夜と思しき月の下、ダラハイドが木の幹に中の字を彫り込んでいます。グレアム一家殺害の準備なのでしょう。
シーン変わって、ダラハイド邸。屋根裏部屋でドラゴンの羽をはやすダラハイド。満月が近づき、ドラゴンの力が満ちてきているようです。
ドビュッシーの『亜麻色の髪の乙女』の甘く繊細で、官能的な音楽が流れています。ルコント・ド・リールの同タイトルの詩‐内容は月並みだけれど響きは素晴らしく美しいフランス的恋愛詩の真骨頂‐に寄せて作ったピアノ曲。
フランシスとリーバのラヴシーンといえば、ドビュッシー。マティーニを手に慣れた様子で室内を逍遥し、ソファーでフィルムを見るフランシスに寄り添うリーバ。とても美しい音楽、美しい構図。あり得ないほどロマンチックな恋をする二人です。
フランシスが言うところの夜行性の動物を移したフィルムを見ているのでしょうか?
残念ながら、スクリーンに映し出されたのはモリーの日常。襲撃予定の夜間帯に被害者がとる行動を撮影して、どういう手順で侵入し殺すかをダラハイドは計画していたのですね。
美しい恋人たちと残忍な殺人。ハンニバルを愛するダラハイドとリーバに恋するフランシス。フランシス・ダラハイドのという人物の多重性を見事に表したシーン。
この恋が美しいのは、多分、フランシスという虚構になりつつある男の夢の上に築かれた、幻想であるからでしょう。儚いですねえ。
グレアム家と運命の道化
グレアム家では飼い犬たちの様子がおかしい。
動物病院に駆け一晩ると、獣医さんが「多分中国製缶詰による食中毒でしょう。一晩預けてくださいね」なんてことになる。
ウィルお手製の餌を簡略化して缶詰で代用したことに罪悪感を感じたのか、「お父さんには内緒にしときましょう」なんてウォリーに言いつけるモリー。
ヤバい!と引く視聴者。だめだよ、モリー。この食中毒は、犬を遠ざけるためのドラゴンの策略じゃん。こういう些細な報告こそウィルにしないと。言わないと気づいてもらえないよ。って、老婆心でカリカリします。
一方、エレガントな監房で月の光に手をかざすハンニバル。満月に起こる噛みつき魔の犯行を、今晩こそと楽しみにしてるんでしょうか?
しっかり、ハンニバルを訪問してるウィル。
「I'm not fortune's fool. I'm yours. 僕は運命の道化じゃありません。あなたの道化です」なんて言ってます。
「 fortune's fool 運命の道化」って、高名な『ロメオとジュリエット』のロメオがジュリエットの叔父のティボルトを間違って刺殺した後に吐く台詞で、自分は過酷な運命に翻弄される道化だと言ってるのですね。ウィルにとってはハンニバルが過酷な運命だと言いたいのか...。
でもねえ、いそいそ監房を訪れてロメオの台詞なんて、口説き文句に聞こえるんですよね。懲りない奴だなあ。
ブルックリン美術館を示唆した段階で、研究者のみ受け入れる休館日に自分もドラゴンも行くはず、出会うはずと知っていたハンニバルの隠し事を責めるようでもあります。
「洗練された知性は多くのことを予測できるし、私の知性は十分洗練されている」なんて、すっとぼけるハンニバル。
「ドラゴンの襲来を知らない家族がいるんです。まだ彼らは救えます。ドラゴンが誰か教えてください」と、呑気に協力要請するウィル。
「眼を閉じたら、君の家族が見えはしないかね?」思わせぶりなハンニバル。
「彼らを見殺しにするんですか」
「私の家族じゃないからね。それに、見殺しにするのは私じゃない。君だよ」
ハンニバルの言葉に呆然とするウィル。それ。お前んちのことだから、ボケッとするな、お前の家族が狙われてるんだよ。ボケッとしてないで行動しろよと、またもカリカリする視聴者。
相変わらず、ハンニバルが相手だとウィルはプロファイラーとしてポンコツになってしまいますねえ。ここまで言われてまだ分かんないの?
いやいや、無意識下では分かってるでしょ。本当は新しい家族がそろそろ邪魔になって、始末したいんじゃないの、ウィル君?なんて、意地悪な勘ぐりをしてしいまいます。
急襲
入れ歯を装着、仮面で顔を覆って殺人準備万端のダラハイドが静かにグレアム宅に侵入していきます。
第6感が働いたのか、闇の中で目覚めるモリー。階下で床を軋ませる侵入者に怯える気持ちを堪えて、襲撃を予期して静かにウォリーを起こし、指示します。
「車のそばで私を待ちなさい。100迄数えて、私以外の人間を見たら道路の方に逃げるのよ」
モリーは賢明です。犬の件と侵入者の気配で噛みつき魔の襲撃を予測したのですね。ウォリーに出した指示も的確。
サイレンサーを打ちまくるダラハイドと、自家用車のライトや防犯ブザーを眼晦ましに使って、逃げるモリーの攻防が超スリリング!
公道を走って来た車に救けを求めて、そのドライバーが犠牲になり、モリーも肩を射抜かれたけれど、そのまま運転し続けてなんとか脱出成功。
賢くて胆力のあるモリーが犯したただ一つの間違いはウィルを亭主に選んだこと。
グレアム一家殺人に失敗したダラハイドの咆哮がなんとも不気味な一幕でした。
毀れていく家族
病院に駆けつけたウィルを待ち受けるジャック。
ロビーで手術中のモリーを待つウォリー。
「あのサイコ野郎は父さんを殺そうとしてるの?…父さんは奴を殺すの?」
愛する母親共々ころされそうになったウォリーは、もっともな質問をします。ちょっと間を置いて、穏やかに答えるウィル。
「いいや、僕は彼を捕まえるんだ。そしたら、司法が彼を精神病院に入れる。彼を治療し、これ以上人を傷つけないよう隔離するためにね」
実に正しい回答ですが、視聴者はとてつもない違和感を覚えます。
米国ドラマだと、たとえ警官であっても家族に危害を与えられた父親なら、最初は「ぶっ殺したる!」な反応をして、少しづつ自分を抑えていく感じになるでしょう。こんなに、最初から平静な親父はいない。
だから、ウォリーは不安で不満気に見えます。そしてウィルがかつて人殺しをして精神病院に入れられたのは本当かと質問します。
「それを知って気になってたんだね。僕が君のお母さんと結婚したから」
どこまでも、落ち着いているウィル。
「奴を精神病院に入れるなんて生ぬるいよ。殺してやるべきだ。僕は野球をみるから」
と、案の定の捨て台詞で去るウォリー。「野球を見る」って言葉が重要ですね。ウォリーの本当のお父さんは野球の選手。だから、この台詞が来るってのは、この子はもうウィルを見限って本当のお父さんがいいって言ってるようなものですね。
「あの子はフレディーの記事で僕の事件を読んだんだ。僕は11歳の子供に自分を正当化しなきゃならなかった」とジャックに愚痴るウィル。
いやいや、そこじゃないだろ!夫として父として、もっと怒れよ。お前がその子の信頼を裏切ったんだよ。と呆れる視聴者。
「捜査が終わったも僕が正気だでいると、僕が家に帰れると思ってました?」
「最初は君を信じてたよ」
遂に本音を交わすウィルとジャック。2人とも、ハンニバルと再会したらウィルがまた、不可解なハンニバル愛を取り戻してしまうと危惧していたわけですね。アタシもそう思ってましたよ。
体罰と愛の苦悩
いつもの屋根裏でドラゴンに殴打されのたうち回るダラハイド。現実は、自分で自分を殴っているだけなのですが…。
リーバをドラゴンに渡すでもなく、襲撃に失敗して代わりの捧げ物であるモリーもウォリーの殺害も実現できなかったわけですから、ドラゴンは当然ながら怒りに狂い、体罰を与えてくるわけです。
それでもリーバを諦められないフランシスは、彼女を仕事場に訪れ、闇の中に座っている。それを巡っての会話。
「電灯をつけてないって知ってたのかい。灯りを知ってしまってから失うのは、最初から知らないより辛い」
フランシスにとって灯りはリーバであり、愛。ドラゴンに彼女を奪われる辛さに苦しむフランシスは、泣きながら訴えます。
「リーバ、君に何て説明したらいいのか...。君といると、何が自分に起きるか分からなくなる。君は何もしてないけど、僕を脅かすんだ。僕は混乱してる」
リーバを破壊し尽くしたいドラゴンとしての衝動と戦うダラハイド。ダラハイドの狂気を知らないリーバは「皆混乱してるのよ」と慰めますが、
「君と一緒にはいられない。…君を傷つけてしまうのが怖いんだ」
ドラゴンにリーバを殺されるなら、別れて彼女の無事を確保する。それがフランシスができる最大の譲歩であり、自己犠牲なのですが、リーバは障害のある自分が負担になって別れを切り出されたと思っている。
It was nice to spend time with someone who has the courage to get his hat or stay as he damn pleased and gives me credit for the same.
気分次第で立ち去ったり、居座ったりできる根性があって、私もそうだと思ってくれる男としばらく付き合うのも悪くはなかったわ。
Get your hat, Francis. Get it and go.
さっさと帽子を被って出ていきなさいよ、フランシス。
ドラゴンとフランシスの葛藤を知らないリーバの逆鱗に、ダラハイドは触れてしまったようです。
そうなると、彼にできることはハンニバルに相談することくらい。ダラハイドといい、ウィルといい、シーズン1~2のジャックといい、皆ハンニバルに相談事をしては弄ばれるというか、操られるというか。
ハンニバルったら、凄腕精神科医すぎます。
ドラゴンと海の獣
ハンニバルの方はといえば、これまで弁護士に電話すると言っていた、その相手は噛みつき魔だったことがアラーナとジャックにバレてしまい、噛みつき魔は本来レッドドラゴンと呼ばれるべきだとばらし済み。
次の電話セラピーは、2人の監視下で行うよう手筈を整えられていました。
盗聴下で掛かってきた電話。フランシスは啜り泣き、話せないでいます。
ドラゴンはダラハイド自身、彼の上位自我であるのだから恐れる必要はないと宥めるハンニバル。
「僕がドラゴンより強くないと、リーバは殺されてしまうんです。…別れを告げたのに、彼女は家に説得に来るかもしれない。…ドラゴンも来るかもしれない」呻くように、悩みを打ち明けるフランシス。
「リーバは簡単に引き裂かれてしまう。彼女を生贄にしなかったら、ドラゴンが僕に何をするか考えてばかりいます。…リーバは僕を優しい人だと言ってくれたんです。
リーバの心臓の音を僕は聞かなかった。聞かなかった」
リーバをドラゴンから救おうとしたら、ドラゴンはフランシスを吸収してフランシスに彼女を殺させる。リーバには優しい男でいたいのに、彼女に触れて、心音を聞いて親密な時を過ごしたいのに、なにも叶わない。
フランシスは父親に打ち明けるように、ハンニバルに心の内を曝します。だというのに、返って来たハンニバルの言葉は
「奴らが盗聴している」
この言葉で、フランシスはハンニバルがFBIの手先となっていることをここで知るのですね。
ここにきて、このエピソードの原題が「...And the Beast from the Sea」であることに思い至りました。原題はワシントン・ナショナル・ギャラリー所蔵のブレイクの絵画『The Great Red Dragon And the Beast from the Sea 巨大な赤い龍と海から上がってきた獣』に基づいています(下図)。
7つの頭に冠を戴き10本の角を持つ巨大な赤い龍が、同様に7つの頭と10本の角を持ち海から這い上がってくる獣の上に立ち塞がっているような構図です。
このドラゴンと獣の表現は、旧約聖書の黙示録に記された通り。流布している解釈ではドラゴンはサタンの象徴(偽の父なる神)、獣は反キリスト(偽の子)の象徴。神々しいようなドラゴンと醜悪な獣が対照的に描かれています。
これまでのハンニバルに対するダラハイドの恭しい態度に鑑みると、ハンニバルは永遠の伴侶であるとともに、ダラハイドの人生にはいなかった父なる存在であったと推察されます。
サタンであるドラゴンになろうとしてしているダラハイドは、父なる神であるハンニバルとともにあることで、最も美しい大天使であった本来の栄光に至ることができるという願望があったのではないでしょうか?
ところが、ハンニバルは反キリスト、偽のキリストに過ぎなかったとダラハイドは気づいてしまったのではないかと思うのです。
父なる神は強大な力を有しています。サタンとて父なる神には及ばないものの大きな魔力を持っている。対してキリストが持つ最も大きな力は人々を説得する言葉です。偽キリストであるハンニバルも同様。その上、偽物であるから言葉も偽物。まやかしで人を操る詐欺師のようなものと、ダラハイドは気づいてしまったのではないでしょうか?
これは、FBIのスパイであるよりも甚大な裏切り。これ以降、ドラゴンによるハンニバルへの復讐が始まるだろうとゾクゾクした視聴者です。
夫婦の終局
野球中継のTVを見ているモリーの病室を見舞うウィル。ここにも、もはや元夫の影が…
ウォリーも犬たちも無事だと伝えるうぃるでしたが、
「あなた変わったみたい。(捜査から)帰ったら同じではいられないって言ってたわね」と、心変わりを察して涙を堪えるモリー。
「私が行くように言ったんだし、誰も責められないわ。自分とジャック・クロフォード以外はね」
モリーは賢いですね。ジャックの甘言に自分が乗せられたことも理解している。
「ジャックは自分が何をしてるか分かってたんだ。僕もだ」妙に素直なウィル。
ドラゴンが来襲したのは、ハンニバルが唆したからだと打ち明けます。それを「纏わりつくようなキモさ」だと言うモリー。そうでしょう。そうでしょう。ハンニバルの行為は嫉妬がらみだから、キモいですよね。
「ウォリーも私も死にかけたのよ。あいつのせいだって分かってた。…私だって、あなたが新聞に載ってるの見たんだから」
モリーも、ハンニバルとウィルが深い仲だと察していた。でも、見て見ないふりをしていたと。それは自分しか責められない。
自嘲的に笑うモリーに
「こんなの嫌だ。ごめん」なんて、通り一遍の謝罪をするウィル。ハンニバルのグレアム一家惨殺の仄めかしに、あの時対抗措置をとらなかったの何でですか?そこ、とぼけてますか?卑怯だなあ。
「時間はかかるでしょうけど、私達、家に帰れるわよね」というモリーの問いに肯定を返しはしても、殺されかかった家族の父親としての怒りの熱が、なんともウィルには欠落しています。
「幸せにしがみつくのって、大変ね。掴みどころがなさすぎるわ」というモリーに、「Slick as hell」と返すウィル。slickって、「滑りやすい」というのと「言葉巧みで狡猾」って意味がありますね。「とんでもなく不安定な状況」とも「あの人はとんでもなく狡賢いから」のどっちとも取れるダブルミーニングですな。
グレアム夫妻は、結婚生活がもはや破綻している。というか、最初から破綻してしたことを認めるしかないところに来てしまいました。
語られた言葉とは裏腹に、もう会うことはないんでしょう。酷い話です。
再出発
ドラゴンが通話に使用していたボルティモアの心療室にも捜査が入り、ドラゴン相手のおいたがバレて、机やベッドに書庫、トイレというこれまでの生活環境を取り上げられたハンニバル。
『羊たちの沈黙』みたい拘束台に括りつけられた彼の元に、ウィルがやって来て、
「あなた達みたいなサイコ野郎には疲れ果てました」と詰りますが
「人間の持つ最悪な本性はサイコ野郎にではなく、大衆の顔の中に見出される」と、いつもながらの韜晦癖を披露。モリーってハンニバルからすれば一般大衆の権化のようなもの。この辺もあて擦ってますねえエ。
「Save yourself. Kill them all.」とドラゴンに伝えたと悪びれないハンニバル。家族への残酷な仕打ちににも拘わらず、そんな男に吸い寄せられていくウィル。
モリーがドラゴンの魔手を逃れたことにも
「ラッキーというよりはピンチを切り抜けたんだ。彼女をどう思うね?」なんて、賞賛とも、潰えてしまった普通の家庭という幻想を暴くともつかない問いかけをします。
「レッドドラゴンに成る前は、内気な子供にこんな事はできなかった」
「今では何でもできると思ってますよ」
2人の掛け合いも絶好調。
「あの子は、君も自分と似たり寄ったりのモンスターだと思っている」
「これって競争なんですか?」と、問うウィル。
競争でしょう。いつだって競争なんですよ、ウィル君。君を立派な殺人鬼にするための競争ですよ。
「一つの胸に、ああ、二つの魂が宿っている。一方は片方の兄弟を振り捨てようと足掻いている。
偉大なる赤い龍は、彼の外皮を、声を、鏡像を脱ぎ棄てるための自由そものだ。
新しいボディを築いて自分自身を疎外し、人格を分裂させる。すべて有効で意図的だ。
彼は変化を切望している」
そうでした。ダラハイドは鏡に映る自分が嫌で鏡を割っていましたね。彼に取って鏡像は壊すべきものです。孤独で自己嫌悪に苛まれた男が、レッドドラゴンに変わる必要性を説く。いつもながらハンニバルのプロファイリングはブリリアントです。
「彼は一家殺しを行ったのではなく、変化させたのですね」
やっと、事件の本質に迫ったウィル。
「彼は君も変えたいのだ。変化が欲しくはないかね、ウィル?」
ウィルが抱えている問題の本質も暴いてしまうハンニバル。そう、彼は、平和で些末な家族生活に飽きてしまったいたのでしょうね。だから、ハンニバルが与えた、家族を加害する手掛かりにも気づかないふりをしていたと。
ハンニバルに近づけばこうなることは分かっていたはずなのに、まんまと手中に陥るとは…
ウィルは懲りない奴ですね。ていうか、ハンニバルから離れられないんですねえ。
ハンニバルの家族殺害計画を明かされても、恐れと悲しみは見せるけれども、怒りや嫌悪を見せないのがその証拠。
懲りない男たちの、傍迷惑なロマンス再出発。困ったものです。