エンタメ 千一夜物語

もの好きビルコンティが大好きな海外ドラマやバレエ、マンガ・アニメとエンタメもろもろ、ゴシップ話も交えて一人語り・・・

ハンニバル3.10『レッド・ドラゴン ~覚醒~』夢の女、夢見る男達、目覚めた女 

男のロマンなんて言葉がありますが、『ハンニバル』の殺人鬼たちは幻想に突き動かされてますね。で、メインの女たちはハンニバルの酔狂の被害を受けてから、ゴリゴリのリアリストになって男どもの尻を蹴とばすというか…今回はその辺を探ってみました。

 

 

夢見る男の告白

第3シーズン後半、男のロマンに取りつかれた夢見る男といえば自称"レッドドラゴン"のフランシス・ダラハイドですね。
そのダラハイドが、自邸の割れた鏡の前で発生練習。何を企んでいるのやら…
自家用ヴァンのナンバープレートを差し替えて、夜のドライヴ。やって来たのはハンニバルの心療室。デスクに座ってpcで電話に小細工、弁護士バイロン・メトカーフのふりして監房のハンニバルに連絡をつける。
なるほど。前エピソードの電話の場面までいたる工程の描写ですね。巧妙に自分の正体を隠し、偽装し、電話をトラッキングされた場合の対応も考えてローケーションを選び電話をかけてきたと。なかなかの策士ですねえ。

(あなたの)大ファンなんで、ご関心をお持ちいただき光栄だとお伝えしたくて。僕の正体が分かってもあなたは口外しないと信じてますし」なんて、のっけから押してくダラハイド。
ハンニバルの記事があれば熱心にスクラップしてるし、フレディがガンガンすっぱ抜くのでハンニバルが噛みつき魔捜査に加わったと知り、感極まって電話したんですね。
で、自分が"巨大な赤い龍"に成ろうとしていることを伝えます。

いつの間にか心療室で向き合って座り、ハンニバルのセラピーを受けているような幻想に陥るダラハイド。長年かけてスクラップもコンプしている、ハンニバルに関する記事が公正じゃないというダラハイドの意見を受けて、
「君と同様だよ。侮蔑的な仇名も投げつけてくるだろう」と、ハンニバルは噛みつき魔(歯の妖精)という蔑称をダラハイドに告白させ、
「とてつもなく不適切だ」なんて声をかけ、しっかり取り入ってしまう。相変わらずの人誑しハンニバル。

フレディの「殺人夫夫」の記事のことを言ってるんでしょうが、
「あなたもプレスによる歪曲の被害者だと知らなかったら、自分を恥じてしまうところでした」と、すっかり仲間意識を育む誑されダラハイド。
「写真もよくなかった。あなたには、暗鬱なルネッサンス大公の肖像が相応しい
なんともダラハイドは熱烈です。迎えるハンニバルは、
Your speech is bent and pruned by disabilities, real and imagined, but your words are startling.
現実的かつ想像上の障害により君のスピーチは歪に損なわれているが、君の言葉は驚異的だ。 
上げて落として、落として上げるハンニバル特有の対話法。ウィルにもよくやってました。こうやって、相手の隠したい現実の懐深く入り込んで絶対的な理解者となったふりをしてマインドコントロールする、いつもの手口です。
「僕はあなたに認められたいんです」
「バプテスマのヨハネが次に来る者(キリスト)に認められたようにかね」
おべんちゃらが、一段とでかくなるハンニバル。心理操作の最新の被害者はダラハイドになりそうです。

ドラゴンが黙示録の666の獣の前に坐したように、僕はあなたの前に坐したい。
状況が許せばいつの日か実際にお会いして、あなたがドラゴンの力と溶け合うのが見たいです」というダラハイドの畏敬に
「君は何と素晴らしいことか!子羊を創りしものが汝をも創りたもうたか」と応えるハンニバル。

ハンニバルがダラハイドを祝祭の犠牲の子羊と見ているのは確かですが、ダラハイドにも目論見がありそう。お互いに最大の賛辞を贈り合っているようで、最終的には互いを生贄とすることを思わせる。なんとも禍々しいセラピーでした。

夢から覚めた女と夢見る男

ハンニバルの魔術にかかって一度は逃避行を共にしたけれども、幻想が破れてしまった、夢から覚めた女であるべデリア・デュ・モーリエ。ヒエロニムス・ボスの絵画『Christ Breaking Down the Gates of Hel:l地獄の門を打ち壊すキリスト』を前に講演を行っています。
逃避行前のべデリアを思わせるストイックなスーツを着ていますが、中に着たシルクのブラウスは胸の谷間まで開けている。逃避行後のべデリアは何かが変わってしまったようです。少なくとも女の色気を武器として使い始めているようです。

ハンニバルのサイキック療法で自分がリディア・フェルだと思い込まされていった過程を語り、
「私たちは自己認識を当たり前のように捉えていますが、私たちが視認し記憶するあらゆる事象は、精神による構築物に過ぎないのです」
なんて言いながら、講堂に入ってきたウィル・グレアムに触れます。ウィルが接触を嫌っているのを熟知した上での先制攻撃。さすがです。

「ダンテは地獄を構築された空間、都市と考えた最初の人物です。ダンテ以前、私たちは"地獄の門"とは言わず、"地獄の口"と言っていました。
私の地獄落ちの旅は、獣に呑み込まれた時にはじまったのです
なんて、心理学的考察に加えてハンニバル好みの韜晦をボスの絵画に結び付けるという衒学趣味をべデリアは発揮して、満場の拍手でレクチャーを終えます。

「お気の毒なデュ・モーリエ博士。丸ごと呑み込まれて、ハンニバルの腸で永遠とも思われる間、煩悶していたとは。
自分を見失ってなんかいないでしょう。あいつの尻の穴から造作もなく這い出てきたんだから。…あなたはフランケンシュタインの花嫁ですよ」と、早速反撃するウィル
あなたも私もフランケンシュタインの花嫁だったのよ」軽いいなしで古傷を抉るべデリア。
「どうやって無傷で逃げ切れたんです?僕は傷だらけなのに」うっかり、本心を漏らすウィル。
「私は私自身ではなかったの。あなたはあなた自身だったでしょ、自分を見失ってる時でも」過激な真実を叩きつけるべデリア。
そう、ウィルはどんなに傷つけられても、いつでもハンニバルと共にありたかった

「僕には適切な鎧がなかったんです」
「あなたは裸だったのよ」
いつも逃げる企みをして心を隠していたべデリアに対して、ハンニバルをイタリアまで追いかけウィルの心は真、彼の心は裸だったんですよね。

ウィルがハンニバルに会いに行ったことも聞き出して、
「あなたって学習しない人ね。それとも、そんなにあの人が恋しいの?
短い時間でウィルの本心を剥きだしにしてしまうべデリア。
「あの人に会いにいきました?」妙に素直になってるウィル。
「私はあの人のヴェールの内側で暮らしてたから、会うのはもう十分。あなたはいつも部外者だったわねえ」と、べデリアはブラフまでかまします。

ウィルとのキャットファイト、この時点ではべデリアの圧勝です。

おまけに話をしたいならアポを取れと、セラピーの予約までさせる辣腕ぶり。 

 

なんですけど、べデリアさんたら無傷で逃げるまではハンニバルのお許しを得てましたが、ハンニバルをネタに銭儲けなんかしていいんでしょうかね。バレたら逆鱗に触れますよ。こういうとこが、ちょっと浅知恵なんですよね。

 

さらに、冒頭のボスの絵は贋作だと言われております。
なんかこのことが、リディアとしてもパートナーとしてもべデリアは偽物の模造品だってことの暗喩に見えるんですよね。皮肉が効いてますねえ。

 

夢の女

リーバ・マクレーンとダラハイドの動物園デート。
ダラハイドは歯科治療のために催眠状態となった虎をリーバに見せに来たのです。盲目のリーバにとって見るとは触れること。リーバは事態を知り、恐怖に眼を見開きます。
虎への感想を聞かれたダラハイドは答えます。
He's striking. Orange and black stripes. The orange is so bright,  it's almost bleeding into the air around him. It's radiant.
衝撃的なんだ。オレンジと黒の縞があって、オレンジ色が輝いて周囲の空気に滲み出してくようだ。光を放っているみたいだ。
画面に横たわる虎はダラハイドの言葉通り、シュールに発光しています。製作総指揮のブライアン・フラーはこれを、眼の見えないリーバがダラハイドの言葉から想像している光景なのだと説明しています。大切な人の眼を通して世界を見る。ロマンティックですねえ。
最初は遠慮がちに虎に触れていたリーバが感触に魅せられて大胆になり、虎の上に横たわり、撫でながら牙にまで触れていく。
それを見て、多分畏怖と感動で吐きそうになるダラハイド
虎を抱きしめ、涙を流すリーバ

 

獣である虎を愛し抱擁する胆力、そして官能を持つ女。獣である龍を内に秘めたダラハイドをも純粋でフィジカルな愛で包んでくれるはずの女、リーバ。ダラハイドが夢の女を見出した瞬間だと思います。

魂から湧き上がるエロスで結び付く男女をシンボライズした、感動的なシーンです。

 

そして、ウィリアム・ブレイク好きにも嬉しいシーン。ダラハイドの虎に関する台詞は小説からの引用ですが、原作者のトマス・ハリス自体が「虎よ!虎よ!煌々と夜の森で燃え輝くものよ」というブレイクの詩に着想を得たとしか思えないんですね。

龍虎相搏という四字成句にもあるように、東洋では龍と虎は優れた勇者の双璧ですが、ブレイクの世界観では対となる概念ではありません。にも拘わらず龍を虎に置き換えたハリスの東洋思想への造詣の深さに感服です。

 

巨大な赤い龍と太陽を着た女  

ロンドンの古めかしい邸宅を思わせるダラハイドの住い。
ドビュッシーの『2つのアラベスク第1番』がかかって、軽やかで抒情的な、印象派絵画のような音が煌めいています。

虎の件は、エレガントで雄弁なジェスチャーだったわ。多分、私が知る中でも、最高に雄弁なことね。あの虎も、このお宅も、あなたって期待を超えてくる人ね」
優雅にマティーニを味わいながら、満足気に語るリーバ。 

彼女が務めるゲートウェイ社のスタッフのダラハイド評に話題が移りそうになると、途端に居心地悪そうになるダラハイド。
「僕の外見のこと言ってた?」と訊いたところで、逃げ出してしまいます。自分の容貌、口唇口蓋裂に対する劣等感がとてつもなく、自信がないのですね。
率直なリーバは躊躇いません。
「教えてあげる。ある種硬質で、清潔で身なりがいいって言ってたわ。あなたが自分の顔を気にしすぎだとも言ってる。そんな必要ないのに。一体、どこ行っちゃったの?」

ソファに腰かけているダラハイドを捕らえたリーバは
「私がどう思っているか知りたい?」と問いながら、ダラハイドの顔を愛撫、接吻してから「ショックを受けないといいんだけど」と下肢に沈み込みます。口淫をはじめたのですね。
とはいえ、猥褻さやな誘惑の手練手管を感じさせないシーンリーバの率直な人間性とダラハイドへの好意が自然に性的に発露した感触がいいですね。

唸りながら絶頂したダラハイドは急に大胆になり、リーバを寝室へと抱え上げていきます。

 

このシーンで流れる『2つのアラベスク第1番』のアラベスクという言葉に、視聴者はハッとします。直訳するとアラビア風ということですが、アラベスク模様という意味もありますね。蔓草のように幾何学や植物の模様が絡み合い、果てしなく繰り返されていく洋風の唐草模様を指すものです。
同じメロディを繰り返しながら渦を巻くように展開していく上の楽曲のタイトルは、アラベスク模様のことだなと常日頃考えておりました。
果てしなく同一パターンを繰り返すアラベスク文様はイスラム教徒にはアラーの無限の創造と結びつくようですが、19世紀のフランス人のドビュッシーにとっては肉欲的なオリエンタリズムの粋であったかと推察されます。
永遠的な、イデアルな世界と刹那的欲望の融合といいますか、リーバとダラハイドの魂と肉の結びつきに、あまりにもピッタリと称賛したいBGMです。

場面は寝台で交わる2人となり、ダラハイドの背中の刺青が蠢くので、まるでドラゴンが女を貪っているように見えます。

このエピソードの原題は『And the Woman Clothed in Sun』。上にあるブルックリン美術館所蔵のブレイク作品、The Great Red Dragon and the Woman Clothed in Sun:巨大な赤い龍と太陽を着た女』から取ったものです。
ダラハイドが屋根裏に飾っている作品ですね。前エピソードに出てくる『…太陽の衣をまとった女』の方では龍を抱擁しようとしていた女が、『…太陽を着た女』の方では打ちのめされ龍を恐れているように見えます。ダラハイドの内なるドラゴンは、こちらのイメージを選んだのですね。

リーバが主導権を取り返して騎乗位になると、彼女は『…太陽の衣をまとった女』の黄金に輝くヴィジョンに戻り、ダラハイドは満たされた愛の涙を浮かべます。

弱き者である女を喰らい尽くすか、弱き自分が偉大なる女に慰撫されるか?ブレイクの龍と同様、ダラハイドの抱えるドラゴンと人間フランシスは葛藤しているようです。

 

入れ歯と殺意の悍ましい悪夢から目覚めると、隣で眠っているはずのリーバがいません。不安に駆られて家中を探し回り、屋根裏の『…太陽を着た女』のコピーの前で佇むダラハイド。

多分人間フランシスは内なるドラゴンが女性を嫌悪していることを知っています。ドラゴンのリーバに対する殺意、誘惑するふしだらな女への殺意を感じ取っているのでしょう。
ダラハイドの中の人間の部分を、これからはフランシスと呼ぶことにしましょう。
居間のソファで着衣のリーバを見つけたフランシスは、帰るという彼女を引き留めず、ドラゴンから守るように外へとエスコートします。
そうですね、離れている方がリーバには安全。それに気づいたのでしょう。

 

画策する男

ウィルやフランシスのような夢見る男たちの中で敢然と目覚め、欲しいものを手にするために現実を分析し、画策し続ける男ハンニバル

今回は弁護士のメトカーフに掛けると言って、職員に電話を持って来させます。勿論、外部との自由な接触を禁じられているハンニバルには受話器しか与えられません。

その受話器に金属で何やら細工をして、通話先を弁護士事務所からチルトンのオフィスに変えてしまいます。そんなことが可能なのか?と疑いつつ、虎を来園者に触らせる番組だから現実的な理屈を考えるのは諦める視聴者でした。

ハンニバル関連の著書で儲けているチルトンですね。その著書の献本だと秘書を騙して、ハンニバルはウィルの自宅住所を聞き出してしまいます。

 

ダラハイドを手なずけた以上は、監房からも外部に悪さが可能です。
一体、今度は何を企んでいるのやら…

 

夢から覚めた女がセラピーで吐露した殺意

べデリアのセラピーを受けるウィル。シルバーのピンでハイネックの襟を留めた黒いブラウスがなんともクラッシーで色香があるべデリアは、
「キリスト教の祝日と誕生日には、あの人からレシピ付きのカードがくるの」と、いきなりウィルにジャブをかませます。
「あの人が君を食べることになっても自業自得ですよ」カウンターを繰り出すウィル。
ハンニバルを巡る嫁同士の小競り合いは止むことがありません。
「進化があの人に与えたものを行使しても、私はあの人を責めないわ」
カニバられるのが怖くて逃げようとしていたのに、ハンニバルが檻の中だと強気なべデリアです。
進化が与えたものをどんどん行使していたら、殺人もカニバリズムも道徳的に許容されることになる
文明論としても鋭い突っ込みを入れるウィル。
…殺人者やカニバリストやあなたにはね
あなたにもですよ、べデリア。あんたは嘘ばかりついてる。何でそうなんですか?
べデリアにいつも感じている疑念を口にするウィル。
「曖昧なだけよ。ハンニバルは私の患者じゃなかったでしょ。非認可の内密な治療だったのよ…害はないわ」誤魔化しから、本音を零してしまうべデリア。
あんたは害をなしたことはないんですか?
厳密にはあるわね。…職業上の客観性を見失ったのは、初めてじゃないの」

 

ここでべデリアは、かつてハンニバルから紹介され患者のニール・フランクを思い出します。
ニールを演じるのはザッカリー・クイント。小さなゲスト役でもこのドラマに出演したかったとのこと。
ザッカリーもフラー組の役者ですし、ハンニバルシリーズをゲイロマンス化(フラーの言葉ではhomoeroticizeでした)する目論見は、カムアウトしてる彼には魅力的だったと思います。
さて、ニールは軽い鬱と不眠傾向でハンニバルに罹ったところ被害妄想と言われ、重度の鬱と全くの不眠となってしまったとのこと。ウィル同様、光線療法を施されて夢遊病のようなかたちで意識喪失を繰り返し、自分の舌で息が塞がれてもハンニバルは気にも留めなかった。ということで、医師としてのハンニバルに疑いを持ったのことです。

ニールに対して、ハンニバルがサイキックドライヴィングの実験をしていたのは確実なのに、その治療方法を庇いだてするべデリア
ハンニバルの影響を受ける前のべデリアは、高価そうだけれども冴えない服装をしています。ハンニバルはべデリアが持つ美しさと官能性を引き出したのですね。

 

べデリアの回想に「なんで共感に値する患者とそうじゃない患者がいるんです?」というウィルの詰問が被ります。
自分の共感に道義的な一貫性がないのは分かっているわ。なんで共感に値する殺人者とそうじゃない殺人者がいるの?」抉られたら抉り返すべデリア。
「ハンニバルのヴェールの内側で暮らしてた時、既に患者殺しをしてたんでしょ?
多分、シーズン2のFBIとの交渉で免責となったのは業務上殺人の嫌疑だったとウィルは言いたいのでしょう。

私とハンニバルの関係は、あなたと彼のもの程情熱的じゃなかったわ。あなたは過去の炎に戻って来たんでしょう。あなとハンニバルがどれほど親密な相互理解を持っているか、奥さんは気づいてるの?」べデリアはウィルが抱える問題の核心を問います。
「十分に気づいてますよ」抵抗するウィル。
「ハンニバルを救えなかったあなたが、新しいパートナーを救えるの?…ハンニバルの関心を惹きつけた経験は、根深く有害で魅力的でしょ。だからあなたの理性的思考能力を弱体化するのよ」べデリアは陶然と語ります。ハンニバルの影響下で暮らしたべデリアだから断言できるハンニバルの影響の恐ろしさ。彼女は覚醒したけれども、ウィルはまだ魔法が解けていないということですね。
ウィルの反発も、次第に力を失っていきます。

 

「私は理性的に考えてます」回想の中のニールは反論し、ハンニバル糾弾をニールが実行するか否かががセラピーの論点になっていきます。
ハンニバルを庇い続けるべデリア。
なんであなたを紹介されたか分かりましたよ。あなたはハンニバルと同じくらい歪んでいる」興奮して叫びだすニール。
悪意ある治療に対する非難の矛先が自分に向いて、ハンニバルと一蓮托生の糾弾を受けそうになるべデリア。

シーンはウィルとのセラピーに戻り、べデリアは尋ねます。
「通りを歩いていて、怪我した鳥が草叢にいるのを見たらあなたは最初にどう思う?
弱ってるから助けたいと思います」至極真っ当な考えのウィル。
「私もまず、弱ってると思うわ。それから握り潰したいって。弱さの原初的な拒絶は育もうといいう本能と同じように自然なのよ。勿論、行動には移さないけど」
べデリア本来の残酷さが明らかになった瞬間。

 

また、回想に戻って「自由意志を奪われた」とニールの怒声が続きます。興奮したニールは、前言通り舌で息が詰まってしまったらしく、ゼイゼイと喘ぎ出します。
興味深げにその様子に見入るべデリア。
「助けるから大人しくして。気道を確保するわ」
倒れたニールに駆け寄ったべデリアはニールの喉の奥深くまで手を入れて、気道を塞ぎ彼を殺してしまいます。
ハンニバルは共感すべき患者で、ニールは握りつぶすべき弱った鳥だったのですね。多分、ハンニバルに唆され続けて、べデリアの残忍が行為となって表れた。べデリアが自分の夢に地獄に呑み込まれた瞬間。
こんな冷酷さがあるから、ハンニバルは彼女を選んだのですね。

再度、ウィルとのセラピーにシーンは戻り、べデリアは語ります。
私がハンニバルから学んだ事柄には、虚偽と真実の錬金術もあるわ。それでもって、あの人はあなたを殺人者だと説得するのよ

巧みな言葉の錬金術により殺人衝動を実行に移し、プチハンニバルを演じて逃避行の片棒を担いだけれども食人にはついていけなかったので夢から覚めた女がべデリアってことですね。だから、ハンニバルをネタに稼いで憂さ晴らしをしてるんでしょうか?

「あなたは殺人者じゃないけど、あなたは道義心があるから正義の暴力を奮うことはできるでしょ。極端に残酷な行為には高度な共感力が必要なの。今度誰かを救いたいと思ったら、その代わりに捻り潰すことも考えてごらんなさい。随分と手間が省けるわよ」言葉の錬金術に関しては師匠の道を踏襲し続けるべデリア。その果てしない悪意を悍ましく思うウィル。

ハンニバルの嫁同士のキャットファイトですから、血みどろな悪意の開陳になるのは当然といえば当然。

それにしても、べデリアはなんともエゲツないですねえ。

 

ハンニバルの誘惑 

べデリアに散々釘を刺されたのに、噛みつき魔連続殺人へのアドヴァイスを仰ぎに監房を訪れるウィル。
監房を上から俯瞰すると、机に座るハンニバルとそこへ向かう廊下を歩くウィルを中心にレッドドラゴンを表す中の字が浮き上がってきます。粋な演出ですね。


ジャコビ家の庭木の幹にあった中の字の写真を見せ、麻雀牌とレッドドラゴンの関係を説明するウィル。
ダラハイドとの電話で彼が巨大な赤い龍になろうとしていることを知るハンニバルは、
「これほど特異な悪魔的肉欲の、悪夢のような電荷を放出する西洋美術は稀だねえ」なんて、ブレイクの『巨大な赤い龍と太陽を着た女』を話題に載せます。

ダラハイドが執着する『巨大な赤い龍と太陽を着た女』のタイトルがエピソード内で明言された記念すべき瞬間と、ブレイク好きな視聴者は歓喜します。
被害者家族が噛みつき魔を惹きつけ、栄えある変身へと男を高揚させたのだと説明し、次の満月にまた犠牲者がでることを預言、
「私はこのドラゴンが気に入ってるよ、ウィル。彼は極めて正気だ。彼の眼を通して物事を見るのは素晴らしい」なんてウィルを焚きつけます。

獣人ランドールの時のように、2人をライヴァル化して争わせたいんですかね。


ウィルはまた煽動されてしまうのでしょうか?初心なダラハイドはもうされてますね、きっと。

夢見る男たちの激突

美術史研究家のふりをして休館日にブルックリン美術館を訪れ、ブレイクの水彩保管室に案内させるダラハイド。

なんだか新古典様式なふりしてますが、セットがブルックリン美術館にみえないんですけど。せせこましい、一般のビルディングに見えてます。
女性ガイドが『巨大な赤い龍と太陽を着た女』を保管庫から出すと、彼女の気絶させたダラハイド。古びた水彩を取り出し、匂いを嗅ぎ、頬ずりしたあげく…むしゃむしゃ食べてしまいます。
礼拝する相手の身体の代替となるものを食することで、相手の力や聖性を自らに取り込む。カトリックの聖餐にみられるような、原始的カニバリズムの象徴的儀式ですね。
『巨大な赤い龍と太陽を着た女』を食すことでレッドドラゴンになるパワーを得るという、いかにもハンニバル信者らしいダラハイドです。

 

時を同じくして、ブルックリン美術館を訪問するウィル。ブレイクの水彩画を収蔵する階に到着、エレヴェーターの前で他人の気配を察知。閉じようとするエレヴェーターのドアを押し止めて覗くと、そこにはダラハイドが隠れている。
2人の初顔合わせ。 
犯人の特定がまだできていないので、疑いつつも怪訝なウィル。のっけから嫌悪を隠さないダラハイド。お気持ちわかりますねえ。
ダラハイドはフレディの記事でウィルのことは熟知しているはず。ハンニバルの栄えあるパートナーに選ばれたことに感謝もせず、ハンニバルの寵を得ながら裏切り続ける卑怯者。そりゃあ、憎たらしいでしょう。妬ましいでしょう。
なので、ダラハイドはウィルの首を鷲掴みにして壁面に打ち付け、エレヴェーターから投げ出します。

ブワ~~~ンと放られるウィル。いつもの超人ぶりで、このドラマのシュールさ際立つ怪我一つしてません。
ですが、追いかけた時にはダラハイドは消え去り~~

 

ハンニバルの嫁対決に続き、ハンニバルに夢見る男対決が見られて、虎の美麗シーンやブレイクの引用もたっぷりで、満足至極なエピソードでした。

 

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