エンタメ 千一夜物語

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ハンニバル3.04『アペリティーヴォ』傷を負い、置き去りにされた人々は... 深読みネタバレ

シーズン2最終話『水物』で血の海に置き去りにされ、生き延びた人々は、他の生存する被害者たちはどう立ち直ったのか?ウィルとジャックは、何でイタリアまで来たのか?それぞれの経緯が語られる第4話『アペリティーヴォ』、読んでいきますかと...

 

 

拒絶されるチルトン

このエピソード前半の狂言回しは、ボルティモア犯罪者精神病院の院長だったフレデリック・チルトン。
シーズン2の第7話でハンニバルの罠に陥り、切り裂き魔として逮捕された人物。その上、ハンニバルにマインドコントロールされた元FBI訓練生ミリアム・ラスに銃撃されて弾が顔面を貫通、死んだかと思われたチルトンですが、生きていました。

第1シーズンの内臓摘出以来、どんな目に会っても生き続けるチルトン。生き汚いというか、とてつもない生命力。

とはいえ、逮捕~銃撃~入院~リハビリという長い経過があるはずなので、院長職は失っているようで、かつてのダンディぶりは消えてしまい、草臥れたようなジャケットに皺々したワイシャツ姿。生き残り組でも悲惨極まりないメイスン・ヴァ―ジャーを訪れます。ハンニバルのサイキックドライヴィングに陥って顔の下半分を損壊し、頸椎を折られて半身不随となった大富豪のメイスンですね。

 

ハンニバル・レクターと交わった者は、何かを失います。四肢やら肺やら、腸の数センチとか。少なくとも、死者は喪失したものと対峙しなくても済みますが、我々は…」ハンニバルの蛮行を生き延び、痛み(台本上ではitch:痒みと表記されてます)を知る同士として、チルトンはメイスンに取り入ろうとしているようです。

素顔を見せ合うことを要求するメイスン。彼は皮膚移植で下半分が異形となった顔を、チルトンは、コンタクトや入れ歯やメイクアップで隠している機能不全の左顔半分を露わにします。

素顔を突き合わせて話し合えていると判断したチルトンは、メイスンがハンニバル情報に100万ドルの懸賞金を出しているというネタに言及、法的な処罰を望んでいないだろうと探りをいれます。ハンニバル捜索に協力して、利を得ようとする魂胆が見え見えなチルトン。

メイスンもそれなりに頭の切れる男、ただの精神科医なのにプロファイラーもどきの仕事を狙っているチルトンの助力を拒みます。
「ハンニバルが、地球のどこかでまた人生を楽しんでいるのは察している。...どうやら、あなたの料金外の仕事になりそうだね。私の心理セラピーは他に依頼するよ」と。

なるほど、これはお抱え精神科医雇用のための面接だったのですね。いつもながら、安売りしすぎ、人心掌握の下手なチルトンです。

 

メイスン役の俳優がマイケル・ピットから、『バックドラフト2/ファイア・チェイサー』のジョー・アンダーソンに代わっています。スケジュール調整ができずに降板って公式発表がありますが、ピットは問題児なので様々な憶測が飛び交いました。でも、顔見えてないし、気にならないってのがアタシを含めたファンニバル達の反応でした。

 

次にチルトンが訪れたのは、ハンニバルとのナイフの抱擁に思いを寄せていた入院療養中のウィル
お見舞に、白薔薇と白い紫陽花の花束を抱えてきました。白薔薇と白紫陽花に共通の花琴はinnocense(無垢・無罪)。何の咎もなくハンニバルの蛮行の被害者となった自分たちというところで、仲間意識を得ようと図っているのですね。

チルトン嫌いのウィルですから、「(チルトンの非は)脅迫的な模倣にある」と冷たいです。過度に贅沢な身なりを整えたり、サイキックドライヴィングを試みたり、確かにチルトンはハンニバルの物まねお猿のようでした。だからハンニバルに対する不敬の罪で、切り裂き魔の冤罪を着せられることになったと、ウィルは言いたいのでしょう。

「模倣により、僕たちは他者の振舞に対する理解を深める」なんて理屈をこねていますが、判断基準すら、ハンニバルよりになっているウィルです。

「君には共感(empathy)するよ」と宣うチルトンに、「内臓除去されて、非難されて.、...お揃いの傷ができましたね」なんて答えながら、心ここにあらずなウィル

「君には友達が必要だ」と、チルトンはハンニバル捕縛のための協力を申し出ますが、あえなく拒絶されてしまいます。

 

見事に、仲間探し2連敗のチルトン。嫌われてます。

 

あの人は...僕のトモダチだった...から

ハンニバルに罰せられ、見捨てられ、病床に伏せる今が「君にとっては、可能な限り最善の世界だ」というチルトンの指摘。それを受けて、ウィルは自分にとっての最善のシナリオを妄想し始めます。

それはハンニバルと共闘して上司ジャック・クロフォードを殺すこと。それも、ハンニバルとジャックが約束していたディナーの席上で。
ハンニバルを裏切って、ギリギリまでジャックの手先となっていたことで今の自分がある。あの時、憎悪と疑心暗鬼に駆られずにハンニバルを選んでいれば、アビゲールも一緒の3人家族になれいたのにという後悔。
ハンニバルと共にあることがどれほど大事だったのか。失って初めて、それに気づく不器用なウィルです。

 

このシーンのなんとも痛ましいBGMは、グリーグの『ペール・ギュント』からの『オーセの死』。貧しい夢想家ペールの奔放で腰が定まらない、アップダウンだらけなんだけど、結局無意味な人生に無常観を託す作品。その中でも彼の放浪癖を決定づけた母オーセの死を描くパート。

あっちにフラフラ、こっちにフラフラの夢想家と言えば、ウィルそのもの。このままだと、彼の人生は無意味に消費されていくということでしょうか?
愛するのか、憎むのか?覚悟を決められるのか?ダメ男の正念場なんでしょうねえ。

 

それから数か月がたち、人里離れた作業場でハンニバルを思いながらボートのエンジンを修理しているウィル

そんな彼をジャックが訪れ、「公的な筋書と(証言が)矛盾しないよう」要請してきます。
『水物』で失敗してハンニバル捕縛劇。逮捕状もなしに一私人として動いたジャック。ただハンニバルに会いたくて、現場に駆け付けたウィル。ジャックは法律を破っていますし、ハンニバルに追っ手が迫っていると電話でバラしたウィルは本来であれば共犯自分たちの大失態をカヴァーすべく、聞こえの良い筋書をジャックとFBIの上部がでっち上げたんですね。そんなジャックの深謀遠慮に無関心なウィル。

「ハンニバルに電話しようと決意した瞬間を覚えているかね?」
こうもり男にうんざりしながら、その本心をジャックは訊ねます。ウィルは独り言のように答えます。
I wasn't decided when I called him. I just called him.
電話を掛けた時には、何も決めてなかった。ただけただけなんだ。
I deliberated while the phone rang.
電話が鳴ってる時に、よく考えた。

I decided when I heard his voice.
声を聞いたら決心がついた

どう考えても、最後に声が聴きたくて電話をかけたのでしょう。で、声を聴いたら未練がでて、本当のことを言ってしまったと。
I told him to leave, 'cause I wanted him to run. 
逃げるよう言ったんだ。だって逃げて欲しかったから。

何でそんな行動をとったのか?
Because... Because he was my friend.
だって...、だって...、あの人は...僕のトモダチだったから。

どもるような細かい息継ぎで、ウィル役のヒュー・ダンシーはこのセリフを吐き出します。認めたくない愛着を、遂に吐き出す躊躇い。ただのトモダチではない、まだ名付けられない恋慕の情。だから、何度も躓くような物言いになる。ウィルの揺れる心が伝わる素晴らしい演技。さらに、突然眼を光らせて、強い決意と共にウィルは告白します。
And because I wanted to run away with him.
それに、僕はあの人と一緒に逃げたかったんだ。  


ウィルが初めて自分の真情を認めた瞬間。もっと早く気づいていれば、可能な限り最善の世界が待っていたはずなのに...。
でも、ウィルもやっとここまで辿り着いたのですね。
常識人のジャックが心底呆れている様子もインパクト大。そうだろうとは思ったけれども、FBIの人間がそれを言うか?ってな、心境なんでしょう。

 

アラーナとウィルの曖昧な拒絶

2連敗中のチルトンが向かった先は、『水物』でハンニバル邸上階窓から突き落とされ、背面をしたたかに地面に打ち付け、複雑骨折したらしいアラーナの病室。相変わらず、白紫陽花のブーケを持って訪れています。
骨盤を損傷し、半裸でベッドに寝かされているアラーナ。その腰回りには半円の機材が置かれ、そこから突き出したスパイク状の器具が骨盤に突き刺されている、シュールな治療風景。 

こうなることは「忠告したはず」と、嫌味なチルトン。 
骨折により、「大量の骨髄が血中に流れ出し、思考プロセスが変化したに違いないと告げられた」というアラーナ
アタシは骨髄の専門家じゃないですけど、そんなことあるんですかね。それよりも、恋人のハンニバルや自分が庇ってきたアビゲールに裏切られ、突き落とされたことで考え方が変化したっていうほうが、精神科医として現実的なんじゃないでしょうか?

「一緒にグループセラピーするのが、我々には有益」と勧めるチルトンに
あなた、関心があるのは”我々”のうちの1人だけ。その1人はあなたに興味ないし」とつれないアラーナ。
そのたった1人はウィル・グレアム。「ウィルには突破口が必要だ」と言い張るチルトンに、「壊れてしまったことが彼には突破口よ」と、アラーナはやんわり断りを入れます。でも、第2シーズンまでのアラーナは、こんな辛辣な意見は言いませんでした。確かに彼女は変化しています。

ウィルの突破口はレクター博士。放っておけば、あの2人はまた一緒になる。良い見物席がないとは残念だ。ウィルを救うためにもね」と、今度は情に訴えるチルトン。

That would require some manipulation. 
それには、いささかの心理操作が必要ね。
ウィルを救うという言葉で、やる気になった様子のアラーナ。にしても、心理操作が必要なんていう、人の悪い考え方を過去のアラーナはしていませんでした。本格的に、アラーナの思考パターンは変わってしまったようです。

 

数カ月後。
『水物』で経験したハンニバルの凶暴さや殺意を思い起こし、記憶に苛まれながらもアラーナは車椅子でハンニバル邸へと出向きます。

凶行が行われたキッチンのキャビネットの前、血の海だった床に座り込んでいるをウィルをアラーナは見出します。「何をしているの?」と聞かれてウィルは答えます。
懐かしい友人達に会いに来た。...皆のために記憶の宮殿に部屋を拵えてるんだ
自分が腹を捌かれた場所に座って、皆のための思い出づくりですか?ハンニバルとアビゲールのためなんじゃないですかね。未練がましい上に、素直じゃないウィルです。
ハンニバルとの友情なんて、愛にまで高められた脅迫状でしょ
「最善を楽しみ続けるために、お互いの最悪の部分を無視する暗黙の協定だよ」
あんなことがあったのに、最悪を無視できるの?

2人の言い合いは続きます。ハンニバルの凶行は2人にとって全く意味が違うのです。
ウィルにとっては裏切られたが下した罰、愛ゆえに起こったやり直したい過去。アラーナにとっては、邪魔な女の単純な排除。許せない過去。2人はどこまでも平行線。

「申し訳ないけど、1人になるためにここに来たんだけど...」

 

ウィルはアラーナの救いの手を拒絶します。アラーナは多分、チルトンに触発されてウィル救う気になり、彼を犯行現場に訪ねねたのですね。でなければ、アラーナが思い出したくもない場所に、わざわざ来る必要ありません。犯行現場への立ち入りはFBIの許可が要るはずなので、そこは簡単に割れたでしょう。アンチ・ハンニバルな人たちと、ハンニバルが恋しいウィルが仲間になれるわけがない。

それにしても、不自由な体をおして会いに来たアラーナに、ウィルの態度のなんと冷たいことでしょう。第2シーズン、アラーナがハンニバルと付き合ってから、何気に彼女に冷たいウィル。その意固地な性格が良く分かるシーンですね。

 

そして、アラーナが去った後。ウィルの隣に座っているのは、空想のアビゲール。ただ1人、ハンニバルの愛を説き、ハンニバルと共に生きることを示唆するアビゲールがいます。悪戯をたくらむ子供たちのように微笑み合う2人。
ウィルと空想のアビゲールが、イタリアにハンニバルを訪れたのは、第2話。ハンニバルを肯定してくれる仲間が、ウィルは欲しかったのですね。

 

ヴァ―ジャー家に近づくアラーナ

ウィルから袖にされたアラーナが、なんとか杖をついて歩けるようになって訪れたのはヴァ―ジャー邸。
往年のハリウッドスターみたいなヘアメイクに真っ赤なルージュ、オレンジのコートを纏ったアラーナは、もはや冷酷そうな美女。親しみやすく、微笑みが可愛らしかった第1、2シーズンとはまるで別人になってます。

そんなアラーナが出会ったのは、乗馬から帰ってきたマーゴ。ウィルの子種で妊娠してメイスンに子宮を摘出された、レズビアンのヴァ―ジャー家妹

アラーナとマーゴ。美女2人が並ぶとゴージャス、花がありますねえ。おまけに2人の間には、何やらスパークするものがあって、なんとも眼福です。
狡猾い策謀家というイメージだったマーゴですが、気難しいメイスンとの「橋渡しが必要なら私に言って」的な申し出をしたり...。ヴァ―ジャー家内で味方をつくろうという魂胆でしょうか?

ついでに、「メイスンがチョコレートを渡そうとしたら、丁重に断って」なんて、忠告したりします。第2シーズン第11話で、チョコレートはメイスンの小児虐待の象徴でした。だとすると、アラーナに渡されたらハラスメントをすることになるのか?と、嫌な未来をアラーナに想像してしまう気味悪い件り。やはり、マーゴには毒がある。

一方、ハンニバルの半殺しから立ち直ったアラーナは、もはや全身を完全武装した女。チルトン同様、面接を受けに来てるわけですが、メイスンの破壊された顔面にもたじろがず、いつもの宗教話の前振りにも~~
「信仰は残ってません」と、チルトンと違って何も媚びない
で、聖書の例えから離れないメイスンは「自分は今や自由だ」と言い張り、映画でも有名な台詞を吐きます。
I'm right with the Risen Jesus and it's all okay now.  
私は将に復活したキリストと共にあり、何も問題ない。
And nobody beats the Riz.
それに、蘇りし者を誰も打ち据えられない。
メイスンは懲りない男ですね。ギラギラな復讐心をかかえているのに、聖書の話に沿えて「レクター博士は、我々の誰よりもあなたの内部に到達したそうな」なんて、意味深な話題を振ったり、
「あなたの場合、ハンニバル関連の情報はFBIと共有するはずでは?」なんて探りを入れて来ます。
アラーナの立ち位置が分からないから、復讐心があるかどうか疑わしいから信仰話という搦め手から本心を探っているのでしょうが、下卑てて回りくどいんですね。
ウィルに差し伸べた救済の手を拒絶されて、今や覚悟ガン決まりのアラーナは負けてません。メイスンのグダグダ語りにファイナルパンチ。
旧約聖書の復讐という概念を寿ぐのに、私は信仰を必要としません

自分の復讐への決意と共に、比喩でしか語れないヘタレ男をブチ倒す発言。アラーナの意志はメイスンより遥かに強かった。メイスンには、強い味方出現てとこでしょう。これは、大喜びで採用決定ですね。

 

ジャックとベラの永訣

『水物』では、ハンニバル邸で失血死しかけていたとっころ、愛妻ベラからの電話を受けていたジャック。その療養生活はというと、なんとベラと並んだベッドで、手を繋いで治療を受けている。

ええ、そんなのありですかぁあああ?と、我が目を疑う視聴者。それにしたって、ジャックは外科でベラは癌病棟でしょ。こんな我儘な融通が利く病院ありですか?ってなりますよ。シュールな光景です。

にしても、末期癌のベラは清々しいような美しさで、「私と一緒に死ぬ必要はないのよ」と夫を気遣ってくれる。
ジャックは一緒に死ぬというロマンチックな考えを吐露します。
「俺は死んだ。死ぬしかなった。でも、君の声さ聴こえれば、俺達は一人で死なずに済むと思ってた」と。

私は死を怖れてはいないわ。死んだらどうなるか怖れなくなったの。私ね…絶対的な自分の在り方よりも... こうしたらどうなるっていう方に興味があるの

死を絶対的な事柄として怖れるのでなく、こう生き続けたら、こう死んだらどうなるかに興味を持つようになったということでしょう。
悟りの境地を語っているのでしょうか?本当は生きるのがもう辛いと、言外に伝えたいのでしょうか?ジャックを病人の自分から自由にするための方便なのでしょうか?どれも当てはまるような気がします。

あなたも自分の首を絞めるものを、切り捨てなきゃあ」と、夫に生きる指針を与えさえするベラ。病身の自分を切ってもいいとも、ジャックの精神的不調の原因であるハンニバルを倒しに行きなさいともとれますね。これも、両方にかかっているかと。
2人のラヴストーリーはドロドロ愛と騙し合いのドラマの中で、何処までも美しく尊い。なので、心現れる夫婦愛に免じて、このシュールな療養状況も良しとしましょう。

元気になったジャックを待っていたのは、FBIからの辞職勧告。退職にあたりオフィスで私物を纏めるジャックの元にもチルトンはやって来ます。

「ハンニバル・ザ・カニバル」なんてキャッチフレーズの特許を取ったチルトンは羽振りが良くなったらしく、スーツもパリッとしています。

国土安全保障省が転職先として用意されているようですが、これにも関心を示さないジャック。
腹を裂くのは、あの2人(ハンニバルとウィㇽ)の間では恋の戯れみたいなもの。ウィルを追えばハンニバルは見つかる」なんていうチルトンの誘い文句にも、全く乗ってきません。

 

というのも、ジャックはベラを自宅療養させることにしたため。住み慣れた2人の寝室でベラを手ずから看護をするジャック。小さなダイヤの婚約指輪も結婚指輪も、病床で付けているベラ。同じく2重に指輪を嵌めているジャック。愛ですねえ。

ジャックが瀕死のベラを抱きしめるシーンなんか、本当に胸に迫ります。ベラに触れる様子など、痛々しいほどに優しい。
ジャック役のローレンス・フィッシュバーンとベラ役のジーナ・トーレスは実際にご夫婦なので、フィッシュバーンも思い余るものがあったのでしょうね。切ない名シーン。

苦しそうな呼吸のベラ。もう、喘鳴と言っていいくらいです。何か決意したようなジャックは、ベラの点滴に薬剤を注入します。適量なら痛みを和らげ、大量なら安楽死へと導く薬剤、モルヒネでしょうか?
そして、静かに眠りにつくベラを、悲しく愛し気に抱擁するジャック。

 

突然、場面が変わって~~。以前のような華やかな美しさで白いドレス姿のベラが寝室に現われ、「白を着てる君が好きなんだ」と感嘆するジャック。
それはジャックの幻想で、アラーナがベラの死装束を持って来てくれただけでした。

 

ここで、視聴者はジャックがベラの安楽死を選んだことを確信します。中には、ハンニバル捜査を再開するために、ジャックはベラを死に追いやったのだと言う人もいます。
クローゼットに保管されていた大量のモルヒネを見るに、ジャックは手ずからベラの緩和ケアをすることで、少しでも長く一緒に暮らそうとしていた。ジャックは、それほど共に生きることに執着していたのだとアタシは読み取りました。
でも、日々弱り病状を悪化させるベラの姿に堪えられず、彼女が最初から望んでいた苦しみからの解放することを選んだと、考えています。

ジャックは不器用で愛に一途な男だと、シーズン1から何度も確証を見ているのですから、不純な動機を疑おうとは、アタシは思いません。

 

葬儀の行われる教会。ウェディングドレスを着てヴァージンロードを歩んでくるベラを幻視するジャック。結婚式のような最後の接吻を納棺されたベラに贈るジャック。
ここまで妻を愛し執着する男が、キャリアを取り戻すために妻を殺す意味がないという思いを、一段と強くした視聴者でした。

 

ジャックの覚悟

牧師も弔問客の姿も見えない葬儀場。最初から呼ばれなかったのか?儀式が終わったら、ジャックに追い出されたのでしょうか?侘しいというよりは、他者の介入を拒むようなジャックとベラだけの時間。

そこに届いていたゴージャスなフラワーアレンジメントに差し込まれたカード。
I'm so sorry about Bella, Jack. 
ベラの死を深く悼みます」とも「ベラのことは本当に済まなかった」とも取れるカードの送り主はハンニバル。

シーズン2第4話で、ベラの自殺を阻止して彼女の延命に向けたジャックの願いを叶えたはハンニバルでした。

ハンニバルにとって、それにはジャックの関心をウィルから逸らすという意図もあったでしょう。ですが、ハンニバルがクロフォード夫妻を友として大切にし、2人の生活を守ろうとしていたのも事実です。でなければ、2人は既にディナーか芸術作品になっているか、何かの罪を被せられて密かに殺されていた。そんな算段はせず、バトルの末にガラス片をジャックの首に突き刺すという蛮行に及んだのは情があったからだと思います。今回は、本当に悲しんでいるから弔いの花を贈ったのだと。

腹の底に怒りを貯め込んだような、難しい表情でカードを読むジャック。彼にしてみれば、犯罪者に騙されて親友だと思い込まされ、妻の心療を委ね、その生き死にに介入された。聖なる結婚の絆を侵犯されたような気分を、このカードで思い知らされたことでしょう。
ジャックにハンニバルを誅する覚悟ができのはこの時だと思います。 

 

ただ1人、弔いにやって来たのはウィル・グレアム。
...今朝までベラの死を予測してはいなかった。...妻は望んでいたけれども... ...心臓が止まるまで、...脳死となるまで私は縋りついていた
安楽死させたという事実でなく、そうせねばならなかった心情を吐露するジャック。愁傷気に慰めるウィルに向けて、さらに続けます。
あれは俺の傍で死ななきゃならなかったShe had to die on me)。死が近い未来にあることは分かってたが、まんまとやられたよ」
ベラの生に固執し、その死すらも我がものとせずにはいられない。そんな夫の執着が垣間見えます。そして、「die on」を使ってウィルにも忠告をするジャック。

「君も、自分には何が起こるか分かってるだろう。君まで俺のせいで死ぬ必要はないYou don't have to die on me, too)」
ハンニバルのカードをウィルに渡してジャックは去っていきます。
ジャックは自身の執着を通して、ウィルとハンニバルの確執をよりよく見られるようになったのではないかと、感じた視聴者です。
ウィルはハンニバルを追っていく。その執着を止めるの自分であるという気持ちがハンニバルへの憎悪の中に芽生えたのも、この時ではないかと思うのです。

 

メイスンの復讐計画  

ヴァ―ジャー邸でメイスンの世話をするのはお抱え看護師のコーデル。禿げあがり、いかにも怪力そうな巨体で、金のためなら何でもする系の悪党ヅラ男
治療用のフェイスマスクをザリッと剥がされたメイスンが痛がっても謝らず、「痛いなら神経が生きてんだから、いいじゃないか」で、おしまいです。

 

カットインする、皮膚移植によるメイスンの顔の再形成手術の禍々しい様子。マーゴの子宮摘出手術と対をなすようなシーンに、ギクッとします。

 

「世界中の聖餐では、信者たちが聖変容を通して、キリストの血と肉を食べていると信じている」なんて、いつものメイスン節。
聖変容ってのは、司祭が聖別するとただのワインとパンがキリストの血と肉になるっていうアレですね。気取った言い回しですけど、結局は「ハンニバルを喰ってやる」のが、メイスンの復讐なわけです。
キリストの聖餐の比喩とは、ハンニバルも名誉なことです。

それを聞いても、「調理方法はどうしましょう?」なんて、平然としてるコーデル。メイスンの人選は見事ですね。

 

アラーナはというと~~。
レクター博士がちっとも見つからないと嘆くメイスンに、
ハンニバルみたいな大金持ちが腰を据えるのはヨーロッパ。ワインでもトリュフでも、特別な好みがあるんです。名前を代えても嗜好は変わらない。そこから、あの人を見つけられるわ」と、自信たっぷりに捜索方法を開陳します。
「あなたは彼の好みだったんでしょう?」と、下ネタになりそうなゴシップモードにメイスンが入ってもビクともせず

「私のことは面白がってただけ。面白いかそうじゃないか、あの人はそれだけ。...あなたは...おめがねに適わなかっただけ...」と、鷹のような眼差しでシバき返すアラーナ。

その鉄面皮に強力な助っ人を感じ取ったたメイスンは満足気。アラーナは巨万のな金蔓を掴んだってわけです。

 

ハンニバルは、面倒な敵をどんどん増やしています。

 

大西洋を渡るウィル

ウィルの自宅に様子を見に来たアラーナとジャック。ところが、そこはもぬけの殻。
多分、手がかりを探りに来たアラーナ。心配しているであろうジャック。
ハンニバルに傷つけられ、置き去りにされた人々の様々な思惑が交差する中、ウィルは只管ハンニバルに会いたい。会いたいあまり、手持ちのボートに乗って大西洋を渡っていく。

 

ロマンチシズムの極致といえば聴こえがいいけど、めちゃドラマクイーンなウィル。自分に酔ってますねえ。

愛する妻を失って、騎士道精神に生きることができるようになったジャックは、ドラマクィーンを追ってパレルモに行く。
アラーナは、ワインとトリュフの情報網を張り巡らせる予定でしょう。

 

男はロマンに走り、女は復讐の鬼となり~~。なんか、ベタな展開ですねぇ、ウフ。

 

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