海外エンタメ 千一夜物語

もの好きビルコンティが大好きなゲームオブスローンズを中心にゴシップ話も交えて、海外ドラマ・エンタメを一人語り・・・

ハンニバル1.04 ウフ 失われた少年たちは家族を取り戻せるのか?ネタバレ深読み

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 米ネットフリックスで快進撃継続中。6月23日にはzoomでキャスト&スタッフのリユニオンも公開されたハンニバル周り。見逃したアタシは、7月11日のYT公開をまちながら、深読みを続けますかと…

 

 

今週の殺人は連続一家惨殺

第3話で離れた、今週の殺人捜査のフォーマットに戻り

 

小さな少年たちを誘拐して、自分の息子にして母親となり、自分の家庭を築くという執念にかられた女。

この偽母は、偽息子たちに本来の家族を皆殺しにて自分との絆を証明することを要求。そこで起こる一家惨殺という、NBCでは放送禁止になったクリスマスエピソードが今回です。

 

 

明かりが灯された家

とはいえ、このエピソードはウィルがハンニバルの診療室でモノログる、素晴らしく美しい一節から始まります。

Sometimes at night, I leave the lights on in my little house,

ときどき、小さな我が家の明かりをつけっぱなしにして

and walk across the flat fields.

野原を散歩するんだけど

When I look back from a distance,

遠くからふりかえると

the house is like a boat on the sea.

家は海に浮かんだボートみたいに見える。

It's really the only time I feel safe.

本当に安心できるのは、この時だけなんだ。

 

セリフに被って写される、人里離れ、灯に靄のかかったウィル・グレアムの家。なんとも詩的な情景と言葉。

 

明かりのついた家は、待っている家族のいる家。

親一人子一人で育ち、父親がボート置き場に勤めていたというウィルの、少年時代の思い出と関係してくるのでしょう。

私なども少し不安定な家庭で育ったので、夕方遊びから帰って来たときに、家の窓に明かりが灯って夕飯の匂いが漂っていると、とても安心したものです。

大人になって独り暮らしになると、そういう安ど感はなくなります。

はるかな子ども時代にしかない本当の心の平安。そんなふうに受け取れて、とても刺さる言葉です。

 

これに対するハンニバルの言葉は

You stood in the breathing silence of Garret Jacob Hobbs’ home,

君はギャレット・ジェイコブ・ホップスの息遣いが聞こえるような家の中に

the very spaces he moved through.

まさに、彼が動き回る空間にいるのだ。

You could sense his madness, like a bloodhound…

君は血みどろの猟犬のように、彼の狂気を嗅ぎ取ることができる。

 

と、不安な心理を殺人衝動に結びつける刷り込みを続けます。

恐るべき精神科医です.

 

愛されない少年

小さな子どもたちも皆殺しになっているターナー家の殺害現場で犯人に憑依したウィル・グレアムは、「I wasn’t invited 僕はよばれていない」とイライラした様子で語り、母親が最後に殺されたことを察知します。

 

後に、誘拐された少年たちは障害のある子供で、元の家族からは愛されていない、必要とされていないと偽母から刷り込まれて、元家族の殺害に駆り立てられたことが分かります。

母親が最後に殺されたことから、首謀者は少年たちではなく、偽母であることも推し量るのですが…

 

このイライラした様子は、エピソードを通して漠然と続きます。

愛されていないと思いこまされた少年たちの心理に共鳴しているのか?子どもがまきこまれた事件に憤りをおぼえているのか?

 

ウィルは少年たちが本当の家族を殺したことで失ったものを取り戻せないことに怒っているというのですが、これまでのエピソードで、彼の言葉は当てにならないことに視聴はきづいています。

いずれにしても、家族を失った、人生の中で失われた子どもたちは、このエピソードのテーマです。

 

ウィル・グレアムの空虚な生活

出張しているウィルの代わりに、ハンニバルはウィルの家の犬に餌を与えにいきます。

 

ウィルが住んでいるヴァージニア州のウルフトラップとハンニバルが住んでいるメリーランド州のボルティモアは車で1時間半くらいの距離。

遠くに住んでいるハンニバルに頼まなくちゃならないほど、ウィルには友人がいないようです。

 

で、たっぷりとして重厚感のある愛車、イギリス王室ご用達のベントレーに乗って登場するハンニバル。しげしげと部屋の中を見て回ります。

台本の説明書きに、ウィルは引っ越してきたばかりで、前に住んでいた一家が残していった家具をそのままにしていると書いてありました。

置き残しの調律されてないアップライトピアノ、何故かリビングに置かれたベッド、使われていない暖炉の前には犬たちのための電気ヒーターが置かれています。

遺された家具と犬の群れがなければ、多分殺伐とした室内だったでしょう。

引き出しの中には、半ダースほどの白いSサイズのTシャツが几帳面にたたまれ、同じく半ダースほどの白いソックスがしまわれている。個人の趣味や歴史を感じさせない、単に機能しているだけの下着類。

フライフィッシング用のカラフルな羽毛ルアーを作る工具。一人でルアーを創って、一人で川釣りをする。趣味も孤独な男。

 

きらびやかなハンニバルとは正反対の、ストイックで孤立した私生活がうかがわれます。

 

受動的な攻撃性の塊、ウィル・グレアム

ウィルの同僚は、 FBI行動科学課捜査員のビヴァリー・キャッツ、ジミー・プライス、ブライアン・ゼラーの3人。とはいえ、決して一緒に飲みに行くような親しい仲にはなっていません。

特に、一言多いゼラーとはソリが合わない模様。

 

「家族の軋轢は人間の成長にかかせないから(社会性のないウィルは)1人っ子に違いない」と指摘されて、

真ん中の子ども(ゼラー)は上と下の間で生き延びるために必死の作戦を練っているから政治家むきだろう。でなければ、ただのうるさい男だね」

と、ピリピリ言い返します

軽口を受け流すことができない。人と目を合わせられないわりには、少しでも攻撃されたらヒステリックに10倍返しというか、一見、恐ろしく自己中心な行動パターンですが、

壊れそうな自分を自覚しているウィルは、ここでも過剰な自己防衛の砦を築いていると言えるでしょう。

 

ハンニバルとウィル、2人の失われた少年たち

事件がらみで母親の所在を聴くハンニバルにも、涙目で声が裏返るほど神経過敏になって、ウィルは反撃をしかけます。

WILL:That’s some lazy psychiatry, Dr. Lecter. Low hanging fruit.

随分と怠慢な心療ですね、レクター博士。樹木の下側の果実をもぐみたいな。

HANNIBAL:I suspect that fruit is on a high branch, very difficult to reach.

いや、この問題は、手の届かないような高さにある果実なのではないかね。

 

ウィルの嫌味にビクともしない、鋭いきりかえしのハンニバルはウィルが母親を知らないことを聞き出します。

母親の話を聞かせろと反対に食い下がるウィルに、両親が早くに亡くなったので叔父に引き取られるまでは孤児だったと、淡々と語るハンニバル。

映画や小説に親しんでいる視聴者からすると、ハンニバルの両親はソビエト軍の侵攻で殺害され、愛する妹ミーシャもその流れで惨殺されているわけなので、このさりげない口調に、何も感じないサイコパスなのか、自制心と胆力の人物なのかという戸惑いがわきます。

悲惨な子ども時代をあかされても、

There’s something so foreign about family. Like an ill-fitting suit. Never connected to the concept. 僕には家族なんて概念はピンとこない。サイズの合わないスーツみたいにしっくりこない。

と、犬を家族にしている割には、家庭に抵抗を示すウィル。社会的なポジションが隔たってしまった父親とも疎遠なのでしょう。

 

ウィルにとって、家族の話は少年時代のトラウマを引き出すアキレス腱なのかもしてません。とはいえ、器の小さいウィルも次第に心を開いて、ミシシッピーのビロキシーからテキサスのグリーンヴィル、エリー湖と各地のボート置き場を、季節労働する父親について転々とした貧しい少年時代を語ります。

Always the new boy at school? Always the stranger? 学校ではいつも転校生だった?よそ者だったんだね?

畳みこむように問いかけ、母親もなく、貧しく、変わった転校生として多分いじめられていたウィルに巣くう、根強い怒りと反感を掘り起こすハンニバル。

多分、このエピソードに巣くうウィルの怒りは、自分の少年時代に根を持つのでしょう。

 

2人がやり合うハンニバルの診療室での対話は、時に異様な緊張をはらむ、番組中のオイシイ時間です。

 そして、孤独で不幸な少年時代を過ごした二人の孤独な男がお互いに惹きつけらていく、詩的なバブルでもあるのです。

 

2人の失われた少年たちは、同じく家族を失ったアビゲールの保護者のようにふるまい始めていますが…

 

ウィルの痛い家族づくり

ハンニバルの診療室を訪れて、いきなり腹立たし気にキレイにラッピングした包みを投げ出すウィル。

 

アビゲールのクリスマスプレゼントに、ルアーづくりの道具と拡大鏡を買ったのですが、そんな自分に腹を立てている。

狩猟を押し付けた父親のホッブスに代わって、アビゲールに釣りを教えて癒したいという気持ちからのプレゼント。

とはいうものの、釣り好きのウィルがアビゲールと一緒の趣味を持ちたい気持ちは理解できますが、アビゲールがそれを望んでいるかどうかは分からないのに、この勇み足。

相手の立場にたたないで、自分の好みを押し付けるプレゼント。またまた、ウィルの自己中がよくわかるシーンです。

 

「Feeling paternal, Will? 父親みたいな気になってのかいと、尋ねるハンニバルに「あんたはどうなんだ」とやり返しますが、「当然思ってるよ」と、軽いうっちゃりをかけられてしまいます。

 

自分の気持ちを素直に認められないのもウィル・グレアムの特徴。それで疑似家族づくりがうまくいくわけがありません。

 

 着々と疑似家族計画を実行するハンニバル

自分の欲望に忠実な操り魔のハンニバルの方は実行あるのみ

 

当別に醸造したビールを用意して、すっかり飲み友達になっているアラナはアビゲールの担当精神科医でもあります。

アビゲールを自分の家に連れてきたいとアラナに申し出てて、トラウマから立ち直っていない少女には不適切な行為と指摘されて、一旦は引き下がりますが、

やっぱり連れ出して、アビゲールの好きな手料理を作ってしっかり手なずけ

 

挙句の果てに、「父親の犯罪に加担したと世間に思わている自分には未来はない」と信じているアビゲールのトラウマな記憶を、ポジティヴなものに置き換えると言って幻覚剤入りのお茶を飲ませたり…

 

花のようにキノコがクリスタルのポットの中で開くところ、ハイになったアビゲールがプラチナの縁どりがある高価なティーカップを落として壊してしまうスローモーション。印象的なヴィジュアルが詰め込まれたシーンです。

特に"脆いティーカップ""壊れたティーカップ"は第1話以来、番組の重要なモチーフとなっていくものです。 

当然ですが、ハンニバルの越権行為を知ったアラナは激怒してハンニバル邸を訪れ、抗議します。それに対して、I'm sorryと意外にも簡単に非を認めるハンニバル。

さらに、抗議にくるにしては薄物前開きラップワンピのアラナ。彼女の後姿を見て舌なめずりするハンニバル。

 

ここに、ハンニバルとアラナの微妙な距離感が読み取れます。

ハンニバルにとって彼女は、美しく才気あふれた魅力ある友人であり、敬意に値する同僚。抑圧しているけれども、お互いに、微妙な欲望を抱えている。

ハンニバルは、アラナとの間の友情以上恋愛以下の微妙な関係を保ちたいけれども、第3話で見たように不都合が生じたときには、彼女は切って捨てられる駒でもある。

ハンニバルの自己中は、実に人間離れしています。

 

アラナの機嫌をとるために、アビゲールとの夕食に誘うハンニバル。

幻覚の中で、アビゲールはハンニバルとアラナに父親と母親を見出します。

 

家族は取り戻せるのか

元の家族を銃撃する直前に救出されたクリストファー少年はジャックに尋ねます。

「僕は家に帰れるの?」

ジャックは冷静に答えます。

「多分、長い間家には帰れないだろう。…君は家族を殺しに来たんだ。皆そう思っている」

「僕、殺すつもりはなかった」

「大勢の人と話して、君が何をしようとしていたのかを理解しなくちゃならない」

 

トラウマを抱えてしまった子供が家族を取り戻すには、長く苦しい道のりが待っている。なんとも象徴的な結末です。

 

妖しすぎるハンニバルの行動 

ところで、ハンニバルとアビゲールの夕飯の食卓には3人分の食器が用意されていました。アラナは自分が来ることを予期していたのかと尋ねますが…

3人目の食器はウィルのためのものだったと、台本には書かれています。 

 

ハンニバルが描く家族は、第1話からも推測されるように、ウィルとアビゲールとの3人家族なのです。

アビゲールは娘の位置づけとして、ウィルの役割は何なのか?

 

ウィルの家を訪れたハンニバルは、引き出しを開けたり、ウィルの私生活を嗅ぎまわります。ここまでは、何かを企んでるでアタシの推理は終わっていましたが、

ウィルが作りかけていたルアーの針を自分の指に刺して、傷口に湧き出た一粒の血を口に含んで味わうという、なんともセクシュアルなシーンがあって、

お父さん、それじゃあ、まるでストーカーじゃないですかとギックリ!

 

さらに、診療室のレクター博士が、歩き回るウィルのお尻と股間を眺めて、舌なめずりする短いシーンがあったりします。男という生物は単純なので、自分の性欲の対象を熱心にチェックするという性質がありますね。

これまでの3話で、無駄なシーンは一つもない緊密な構成であるのが分かったこのシリーズ。なおかつ、マッツ・ミケルセンはいつでも、とんでもない確信犯な役者だというところからみると、

ウィル・グレアムはハンニバル・レクターの欲望の対象なのだというサブプロットが読み取れます。

第1シーズンのインタビューでブライアン・フラーは、「ハンニバルはパンセクシュアル」といってますが、うなずけるエピソードです。

 

 

ここを読みそこなうと、話の展開が見えなくなるのだと、振り返って思うアタシでした。

 

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