海外エンタメ 千一夜物語

もの好きビルコンティが大好きなゲームオブスローンズを中心にゴシップ話も交えて、海外ドラマ・エンタメを一人語り・・・

ハンニバル1.03ポタージュ 加害者の娘というトラウマ ネタバレ深読み

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groomingという言葉があります。"子供や若者と信頼関係、エモーショナルなコネクションを築いて、心理を操って自分の利益や欲望にそうように育て上げる"というような意味。アビゲール・ホッブスと殺人者の父親の関係は、ある種このgroomingに見える。そんな風に育てられた娘の人間性はどうなるのか? 登場人物同士の操り合いはどうなるのか?探ってみました。

 ※「普通こんな会話しないよね」なセリフやアートすぎなイメージや音楽も、回が進むほどに重要な意味を持ってくるので、詳しく掘ってます。 

 

 

 

犯罪捜査物のフリするのやめてるし~

いきなり殺しのシーンがあったり、遺棄された死体を通行人が発見したり、とにかく、冒頭にショッキングな殺害を示すのヴィジュアルがあり、そこに警官がかけつけて、捜査官や化学捜査班が動き出す、というのが犯罪捜査物のお約束。

 

第1話・第2話はこのフォーマットに沿っていた『ハンニバル』ですが、第3話で、早々と逸脱してしまいました。

 

そのかわり、登場人物の心理が丁寧に描かれていきます。

このエピソードの焦点は、第1話で、父親である食人鬼、ミネソタのモズことギャレット・ジェイコブ・ホッブスに殺されかけ、第2話では昏睡状態に陥っていたアビゲール。

 

犯罪者を捕まえるまでは描いても、その家族が抱えることになるトラウマなど、めったに描かれない犯罪捜査のTVシリーズの中で、この展開は垂涎でした。

 

 

まるで虐待の被害者のように、いいなりの娘

紅葉した落ち葉が溢れかえる森で、狩猟するホッブスとアビゲール。仲のよい親子のひとときのはずですが、どうやらこれは、母親には内緒の2人だけの秘密。アビゲールのうつろな眼差しが、異変を思わせます。

娘に猟銃を構えさせ、みつけた雌鹿を撃たせて得意満面なホッブス。虐待されている者が虐待者に逆らえないように、魂のない人形のように父親の指示に従うアビゲール。

 

狩猟小屋で雌鹿の解体作業も娘にうながす父親ホッブス。

殺してしまった鹿の美しさを悼み、鹿は人間と変わらない意識を持つ動物だと抵抗をしめすアビゲールにホッブスは、奇妙な哲学を語ります。

 

They are a lot like us and we will honor every part of her.

俺たちと変わらないから、敬意をしめさなきゃあいかん。

Her hide is going to be a beautiful rug, her leg bones we can carve into knives.
None of her will go to waste.

革は綺麗な敷物になるし、脚の骨はナイフの柄になる。何も無駄にはしない。

Eating her is honoring her.Otherwise it’s just murder

この娘を食うことは、敬意をしめすことだ。でなければ、ただの殺戮だ。

そして、鹿解体作業に被る少女殺人の現場。

 

これは、昏睡から目覚める瞬間にアビゲールが見ていた夢です。

 

近親相姦すれすれに子煩悩なホッブスは、アビゲールが独立することに堪えられず、よく似た娘たちを殺してカニバっていました。そうすることで、アビゲールを貪りつくし、自分だけのものにしたい欲望を抑えていたのです。

その娘たちを呼び寄せる餌として、アビゲールがホッブスの共犯となっていたというのが、ジャック・クロフォードの推測です。

 

それぞれのシーンが、象徴的に機能して、緊密な心理劇を作り出すが見えてきたこのシリーズ。

この観点から見ると、夢の中の雌鹿は殺された娘たちのシンボル。アビゲールがホッブスの共犯として育てられ、それがトラウマとなっていることが読み取れます。

 

 

ウィルに挑戦するアラナ・ブルーム

 第2話で、アラナが自分と2人きりになるのを避けていると、示唆してしまったウィル・グレアム。

この言葉の裏には、自分が男性であるという優位性、弱いジェンダーのアラナがウィル・グレアムに言い寄られ、支配されることへの危惧があるという暗示が存在しているとも受け取れます。

アラナといえば、名門のジョンズ・ホプキンス大学でハンニバルに師事して研修医を務め、友人と認められるまでになり、精神科医となってからは若いのにFBIのコンサルタントにまでなっている人物。高い知性と負けん気の競争心あって初めて可能なキャリアを手に入れています。

そんなアラナが、いつも庇っている相手のウィルの迷言を見逃すわけがありません。

 

ウィルの自宅にアビゲールの覚醒を伝えに来て、Tシャツトランクスという下着姿のウィルが、着替えようとするのを押しとどめて、家に上がり込んでコーヒーを所望する。

 

あなたが裸でも二人だけでも、アタシは怖れたいしない。みたいな、獰猛な意思表示。

純粋な共感能力あるという割には、女心の扱いはできてないウィル・グレアム。ジャックとの緩衝役になってくれと頼んで、アラナの自尊心を満足させますが、

アビゲールに執着しているのに気づかれて、「あなたが親代わりにはなれないでしょう」的に一蹴されてしまします。

 

 

ハンニバルを微笑ませるウィルの共感力

女心が読めないかわりに、連続殺人犯に関しては驚くほどの共感能力がるウィル・グレアム。一般の男性とは、正反対の理解の方向性。

単に社交的気遣いが欠如しているのか?潜在的に殺人鬼にだけ共感する精神構造を秘めているのか?

そんな疑問が湧いてくるこのエピソード。

 

第1話で登場したコピーキャットキラーを「知性の高いサイコパスだから、同じ手は2度と使わない。だから捕まえることはできない」と評するウィルの講義を聴いて、興味をそそられるハンニバル。

「(自分が家宅捜索に行く直前に、それを知らせ一家無理心中においやる)電話をかけた正体不明の人物がコピーキャットキラーに違いない」という見事な推測を知り、コピーキャットキラーであるハンニバルは快心の微笑みを浮かべます。

ここでアタシは第1話で死に際のホッブスの言葉「see(見て理解して受け入れる)」を思い浮かべました。長年の孤独な殺人鬼生活の中で、さまざまな偽装を行ってきたハンニバルが、はじめて偽装の壁を越えて真実に近づける人物に出会った。

ウィルのすぐれた知性への称賛とともに、理解されることの喜びがうかがえる啓示のようなシーンです。

 

シーズン1前半のマッツ・ミケルセン(ハンニバル)は、日焼けしたケンドールのような、彫刻のように整った容貌と端正な佇まいが魅力なのですが、このシーンではキャッチライトで瞳孔が白く光って超自然的な存在に見えてしまいます。

このエピソード だと、背景の人物に見えることが多いハンニバルですが、異様な瞳の輝きで、登場人物の全員を掌握して背後で操ってる感が濃厚になり、ちょっと、ぞっとする感じもあります。

 

 フレディ・ラウンズの暗躍

このエピソードのアビゲールの悲劇の裏側で暗躍するのは、またしても悪徳記者のフレディ・ラウンズ。

ポートヘイブン精神科病院で療養を始めたアビゲールを訪ねて、世間の偏見と闘うべきとけしかけて特ダネを得ようとしたり、ウィル・グレアムはアビゲールの父親を殺したキチガイ男だと吹き込んだり

 

ハンニバルとともにアビゲールの見舞いに来たウィルを挑発して、

「It’s not very smart to piss off a guy who thinks about killing people for a living.

 殺人を考えることが仕事の男をコケにするのは賢くない」と失言させて、スッパヌキの記事を書いたり

 

コピーキャット殺人の被害者キャシー・ボイルの兄で、ホッブス一家に恨みを持つニコラスを「泣き寝入りする必要はない」とそそのかし、アビゲールの覚醒を知らせたり、

 

あちこちで騒動の種をつくる心理操作を行っていきます。

 

加害者の娘の帰郷

ホッブスの殺人に関してさらなる証拠集めをしたいFBIは、家に帰りたいというアビゲールの希望を叶え、ウィル、ハンニバル、アラナが同行する形で帰郷を許します。

 

そこで彼女を待ち受けていたのは、自宅外壁一面の「カニバル:人喰い」という落書き。母親が失血死した玄関のシミ。証拠資料をとして家具や小物が押収されて、むき出しになった台所。

 

父親の被害者をおびき寄せる囮だったのだろうと、しつこく付きまとうニコラス・ボイル。押しかける報道陣。

 

再び起こるコピーキャット殺人。

 

自分たちが被害者を食べさせられていたこと、居間のクッションは父親の被害者の遺体の髪が詰め込まれていたこと、つまり少女たちの死体の加工物に囲まれて暮らしていたことに、アビゲールは気づいてしまいます。

 

もう、戻るべき故郷も安心できる我が家も、自分には遺されていないことを知るアビゲールの心理がが丹念に描かれいきます。

 

人を操ろうとするアビゲール

居所のない、追い込まれた人間は、必死で安全な場所を探ります

ジャック・クロフォードとFBIに父親の共犯であることを疑われ、故郷も我が家もなくなったアビゲールは、まさに居場所のないみなしご。

風にふるえる朽ち葉のように不安げではありますが、人を操る性向があるとアラナに見抜かれたアビゲール。

ホッブスのような父親に育てられたら、本心を隠して従順にふるまいながら、相手を観察して生き残るすべを探って自分を守るようになるのは、自己保存本能による当然の性格形成でしょう。

今にも壊れそうな脆さを見せながら、その能力をフルに発揮して、誰が自分の味方になってくれる人物なのか手探りしているようです。

 

まずは、父親のホッブスを殺してしまった良心の呵責からか、アビゲールをかばいつづけているようなウィル・グレアムの本心を知ろうと質問を重ね、

家族無理心中未遂の現場再現の提案をして、「ウィルはお父さん、アラナはお母さん、ハンニバルは電話の男」と役割分担、直前に電話をかけてきた相手がハンニバルだと気づいていることをにおわせ、

2人の出方を見ます。

 

本音が見えないウィルに近づく崩壊

探られたウィル・グレアムの反応は、

 

ABIGAIL: You do this all the time? Go places and think about killing?

グラハムさんて、いつも、どこに行っても殺人のことを考えてるの?
WILL GRAHAM:Too often.

しょっちゅうね。
ABIGAIL:So you pretended to be my dad?

それで、アタシのお父さんのふりをするわけ?
WILL GRAHAM:And people like your dad.

君のお父さんみたいな人のふりだよ。

ABIGAIL:What did that feel like? To be him?

お父さんみたいになるのって、どんな感じなの?
WILL GRAHAM:If feels ...like... I’m talking to his shadow suspended on dust.

塵の上にかぶさる影と話している...みたい..に感じる。

 

しどろもどろではありますが、とんでも詩的な表現で答えるウィル。これは『レッド・ドラゴン』 からの引用。

この回答、現実とは異なっています。ウィルは想像の中で犯人になりきって、殺人現場を再現しています。そのあとは、ホッブズの幻像に憑りつかれているだけ。

決して、射殺した犯人に話しかけたりしていません。

 

さらに、アビゲールを守って父親ホッブスを殺した件に触れて、

ABIGAIL:Killing somebody, even if you have to do it, it feels that bad?

人を殺すって、その必要があるとしても、悪いことしてる感じ?

WILL GRAHAM:It’s the ugliest thing in the world.

殺しは世の中で一番醜悪な行為だ。

 

第2話でホッブス殺しが気分よかったと告白したのに、次のエピソードでは「一番醜悪な行為」ですか?

アビゲールに対して罪悪感があり、自分をイイ人に見せたいという気持ちがあるのだろうというのは分かります。だから、「犯人に話しかける」なんて、おだやかな表現も使っているのでしょう。

 

人に好かれたいという願いから、つい虚言を吐いてしまうのか?

自分でも、自分の気持ちがよくわからず混乱しているのか?

と、ウィル・グレアムの人間性に、またまた、疑問を持たせる発言です。

 

そして、このやさしい嘘がアビゲールをウィルに引き寄せる。とは、ならないのですね。殺人の共犯であるアビゲールは、そんな自分を受け入れてくれる人を探っているわけです。だから、ウィルの道徳的な回答はアビゲールに響かない。

 

共感能力が、ここでも何の役にもたっていないウィル。

 

アビゲールとともにミネソタに来てからは、ホッブスが娘の喉を掻き切る悪夢にうなされて、ぐっしょりと寝汗に悩ませるウィルも崩壊寸前に見えます。

ウィルが心を開けば、壊れかけている者同士のアビゲールとは特別な絆ができたはず。心を開けないウィルが、実に残念です。

 

操り返すハンニバル

ウィルが悪夢にうなされている間に、ニコラス・ボイルに小石をぶつけたり、母親をビッチと罵る無礼なマリッサ・シュールを狩猟小屋の鹿の角に飾り付ける第2のコピーキャット殺人をしかけるハンニバル。

 

ウィルとは反対に、ハンニバルは甘い言葉でアビゲールをなだめたりしません。

ハンニバルが電話の男だと分かっているとアビゲールがにおわせた時も冷静沈着に無反応。そのかわり、アビゲールを観察・分析して、その本質を見抜いて操り返します。

 

ハンニバルはニコラスがマリッサを殺害したと情報操作をしてはいましたが、ニコラスにしつこく迫られたアビゲールが彼を刺殺したときも、えぐるような刺し傷から、それが単なる自己防衛ではなく、殺人衝動だと察知。FBIにばれたら、共犯疑惑が決定的になると、隠ぺい工作をアビゲールに申し出て説得、さっさと処理を始めます。

Hannibal: I’ll keep your secret.

君の秘密は守るよ。

Abigail: And I’ll keep yours.

あたしも、先生のを守るわ。

 

支配的な父親に従って生きてきたアビゲールが求めるのは、支配的な男性に守られること。だから、ミネソタからボルティモアに戻ったあとも、ハンニバルの診察室に忍び込んで、彼に近づいていくのですね。

 

虐待された人が、同じタイプのパートナーをまた求めるように、アビゲールも同じように支配されるサイクルを選ぶのでした。

 

やはり、人を操る手口ではハンニバル圧勝なのです。

 

ハンニバルの冷酷

ちょっとしたディテールからハンニバルの恐るべき残酷さが見えるのも、このエピソード。

第2のコピーキャット殺人の被害者マリッサに、やや無礼だというほかに何の落ち度があったのか?と、不思議になります。第1のキャシー・ボイル殺人はウィルに事件解決の手がかりを与えるためと読み込めましたが、今回はその隠ぺい工作。

ハンニバルは行き当たりばったりの欲望に駆られて、必要な場合は罪のない者も平気で犠牲にできる、自己中な策略サイコパスなのかという疑問も湧いてきます。

 

一番恐ろしかったのは、取り乱して現場に現れたマリッサの母親を、ハンニバルがやさしく抱きしめて、慰める短いシーン。娘を残虐に殺しておいて、母親にはやさしい紳士として何ごともなくふるまえる。

本当に、本当に、残酷な人でなしだと思いましたよ。

 

それから、アビゲールのニコラス・ボイル殺害現場に出くわしそうになったアラナの側頭部を壁に打ち付けて気絶させるシーン。

まるで、ガチョウを締めるように何げなくブチ倒す。

ここから、一面、ハンニバルがアラナを残酷な真実から目隠しさせておこうという意図も見えますが、

障害になるときはサッサと消去していい手駒だと、アラナを見ていることもわかります。

 

アラナはハンニバルを大切な恩師で友人だと考えているわけですから、本当に冷酷です。

 

 

と、登場人物の人間像がより多面的に描かれる第3話、

サイコ・スリラーへの決定的な飛躍として、とても楽しめました。