ボルティモアの上流社会の寵児であり、高名な精神科医として活躍するハンニバルが、ある時は犯罪捜査のカギとして、ある時は防衛手段で、点のように散乱させてきた数々のコピーキャット殺人。その点が線でつながれた時、ハンニバルがくだした苦渋の決断とは?裏切りと情念に満ちた第11話、読んでみました。
※「普通こんな会話しないよね」なセリフやアートすぎなイメージや音楽も、回が進むほどに重要な意味を持ってくるので、詳しく掘ってます。
- ジョージアの爆弾発言
- You made me chicken soup.
- フレディがつなぐ点と線
- ジョージアの死がつなぐ点と線
- ジャックがつなぐ点と線
- ウィルとアビゲールをつなぐ闇
- べデリアの警告
- ジャックの疑念の矛先
- ハンニバルの苦渋の決断
- アビゲールとハンニバルの再度の裏切り
- アビゲールがつないだ点と線
ジョージアの爆弾発言
前話後半、高熱で失神したウィル・グレアムと同じ病院に入院し、火傷患者のように高
気圧酸素器の中で治療を受けるジョージアを、ウィルは点滴を挿した状態で訪れます。彼女に情が移っているのですね。ジョージアはゾンビ状態から回復して、意識もはっきりしている。ウィルも熱がかなりひいて、平常心になっている。
ウィルは、世の中に受け入れてもらえない、深く心を病む者たちに情が移る傾向があるようです。純粋な共感能力を持つために、自閉症と称して心の壁を築くアウトサイダーの自分と、彼女たちを重ねているのだろうと察します。
アビゲールもそうだったのですが、彼女は意図的な殺人犯。幻覚の中の勘違いで友人を殺してしまったジョージアに意図的な悪意はない。自分の心の闇と闘うウィルにとっては、一条の光のような存在なのでしょう。
そして、2人は不適切な医療の被害者でもあります。抗精神病薬が効かないジョージアは、「医者なんて何も分かってない。さんざん検査を繰り返して、いい加減な診断と治療薬を出すだけなのよ」と言い切ります。これはウィルにも言えること。っていうか、ウィルは病状を隠されているわけですが。
さらにジョージアは、「友達を殺したことは悪夢みたいな感じで覚えているけど、(サトクリフ医師は)あなたが殺した夢になってるの、顔は見えないんだけど」と爆弾発言、ところどころ記憶がとんでいるウィルを不安に陥れます。
You made me chicken soup.
「7世紀以来珍重されている烏骨鶏(うこっけい)のスープに クコの実、チョウセンニンジン、ショウガ、ナツメ、大茴香(だいういきょう)を加えた」という高価な漢方料理を作って見舞いに訪れ、長々と説明するハンニバルを「チキンスープを作ってくれたんだ」とウィルが遮る、爆笑シーンがあるのもこのエピソード。
窓辺の外光の中ででチキンスープを食するハンニバルとウィル。これって第1話でハンニバルがモーテルのウィルを訪れた時の朝食とパラレルです。
「ハンニバルに興味はない」と言って自分を防御していた第1話 から比べると、何でもハンニバルに相談して、何でも頼るようになっているウィル。ウィルに惹かれながらも、依存状態にさせて弄んでいるハンニバル。2人の関係性の大きな深化に、なんともやるせない思いになるシーンです。
相変わらず、ウィルを認知症にしておきたいハンニバル。
ウィルはジョージアを見舞っていることも語り、「彼女は回復したくないみたいだ。自分がやったことを思い出すのを怖れているんだ」と漏らしますが、その時ハンニバルの表情が少し変わる。
やばい!と思いましたね。ジョージアが正気になれば、ハンニバルのサトクリフ殺しが発覚する。ハンニバルはパラノイアックに自分の犯罪の証言可能者を始末する傾向があります。ジョージアの運命もこれで尽きたと。
そのすぐ後、ジョージアの高気圧酸素期の中にセルロイドの櫛が置かれ、何気に髪をとかした櫛の静電気から器内が火の海になり、彼女は炎に呑まれて焼け死んでしまいます。
とても苦しい死に方の上、殺しかどうか判断がつかない。凶器から足もつかない。ハンニバルの残酷で巧妙な手口に、一段とゾッとしました。
フレディがつなぐ点と線
特ダネで稼ぐためなら何でもする。本当にいやらしいけれども優れた観察眼のフレディ。
アビゲールの手記執筆にあたり、まずは被害者の顔写真を並べて、一人一人の殺害にアビゲールの生の声が必要だと説得します。共犯のアビゲールには隠したいことばかり。
父親ホッブスの死後に起った友人マリッサの殺人もホッブスのっせいにしてしまったことから、アビゲールの隠し事にフレディは感づいてしまいます。
「問題は誰がニコラス・ボイルを殺したかよ」と核心に迫り、アビゲールを脅かします。
ただ、フレディの天敵はウィル。「殺人者には独特な憎悪がある。ウィル・グレアムには、いつもそれが見えるの」
と、つないだ点と線の最後がずれて、フレディはウィルを容疑者だと考えています。
ジョージアの死がつなぐ点と線
ジョージア死亡現場を訪れたFBI行動分析課チーム。ベッド下でウィルを待ち伏せしていたジョージアを、入院中のウィルが見舞っていたことに不信感を隠せないジャック。
ゾンビ状態のジョージアがウィルの自宅を訪れ、林のの中で「See? See? (よく見て、分かるでしょ)」と言いながら燃え上がり、巨大な鹿の角に突き刺される夢をウィルは見ます。
Seeというのは、第1話でウィルに殺されたホッブスが残した最後の言葉。コピーキャット殺人の被害者、キャシーとマリッサは鹿の角に貫かれていました。
ウィルは潜在的にジョージアの死とコピーキャット殺人を結びつけるところまできたのですね。
退院してFBIに出向いたウィルは、ジョージア死亡現場にあったセルロイドの焼け焦げから、それが発火材とする殺人が起ったこと、サトクリフ医師をジョージアの手口を真似て殺害したコピーキャット殺人犯がジョージアを殺したこと、このコピーキャット殺人者がマリッサとキャシーを殺したことを連想ゲームのようにつなげていきます。
「ジョージアは成人以来ずっと誤解されて生きてきた。せめて、その死には誤解がないようにしたい」ウィルの叫びは悲痛です。
ウィルの飛躍的な論理に、ニコラス・ボイルをマリッサとキャシー殺害犯だと公式見解を出しているジャックはうろたえます。
ジャックがつなぐ点と線
困りごとがあると、ジャックもウィルもすぐハンニバルに相談しにいきます。
Can’t see。目前の真実が見えない人々のおかげで、FBIの動向は、チェサピークの切り裂き魔でありコピーキャット殺人鬼のハンニバルに筒抜けです。
今回もジャックは、「精神を病んでるせいなのか、もともと思考回路がちがうのか…ウィルが(物的証拠による関連性がない)殺人事件を想像だけで結びつけて考えるようになった」と嘆き、アビゲールをかばっているのではないかという疑いを口にします。
アビゲールのニコラス殺害隠ぺいを率先して計画したハンニバルとしては、当然言葉を濁します。
そこで、今度はハンニバルがウィルをかばっているのではないかと考えたジャックは、ハンニバルの精神科医であるべデリアを訪ね、ハンニバルとウィルの関係を問いただします。
ここで、ハンニバルから紹介された患者がべデリアを襲い、その最中に舌を喉につまらせて亡くなったという事実が暴露されます。
べデリアを襲った患者、フランクリンとトバイアス、ウィルと、ハンニバルの周囲には特異な患者との奇妙なつながり多いと観察するジャック。
べデリアは屈折した患者は屈折した関係を持ち込むと言葉を濁しますが、ウィルに関しては、「患者というよりは友人。友人が少ないハンニバルは、ウィルには忠実なはず、彼を助けたがっている」と、火に油を注ぐ発言をします。
もともとアビゲール共犯説のジャックはホッブス事件を再検証する気になり。事件前後のホッブスの宿泊先や道路や鉄道の利用状況などを、徹底的に調べる指示をゼラーとプライスに下します。
ってか、これって捜査の基本の基本。なんで今まで放置されていたのか、不思議に思う捜査物ドラマファンのアタシでした。
ウィルとアビゲールをつなぐ闇
ジャックの理解を得られず、一人でコピーキャット殺人を操作することにしたウィル。アビゲールに協力を頼みにいきますが、2人の会話は思わぬ方向に。
第3話でウィルが日にした「殺人は最も醜い行為」という言葉に
「I thought there was something wrong with me because I didn't feel ugly when I killed Nick Boyle.
ニコラスを殺しても醜い行為だなんて感じなかったから、自分は変なんだって思ってた
I felt good. That's why it was so easy to lie about it.
気分良かったの。だから、嘘つくのも簡単だった」と、探るように応酬します。
ウィルもついに本心を語る。
「I felt terrified… Then I felt powerful.
最初は恐ろしかったけど、パワフルに感じるようになった」と。
アビゲイルは、「ニックを殺したら、父さんを殺したようで気分良かった。とうとう、父さんを止めることができたんだって」と続けますが、ウィルは
「Neither of us have been able to get away from your father.
僕たちは君のお父さんから逃げることはできないでいる」と、現実を突きつけます。
アビゲールは父親の罪を引きずり、殺人を犯すしかなかったし、ホッブスを殺して以来ウィルはその幻覚に襲われ続けている。2人とも、ホッブスの影響下で殺人衝動に目覚めてしまった。その事実は変わらないのです。
とはいえ、やっと土俵に立った2人。この関係はいつまで続くのか?
べデリアの警告
心療に訪れたハンニバルに、べデリアはジャックの来訪と、ハンニバルがウィル庇っているのではないという彼の疑いを告げ,
「ウィルと何をしているのか知らないけれども、もうやめなさい。あなたは職業倫理の:限界を超えてるわ」と諭します。
「自分たちは友人だし、ウィルには助けが必要なんだ」と、子どものように言い張るハンニバル。
「You can't function as an agent of friendship for a man disconnected from the concept... as a man disconnected from the concept.
友情という概念を持っていない人が、友情という概念からかけ離れた人物に、友人としては機能しないでしょ」
べデリアの指摘はいつもながら論理的には正確です。人間嫌いを押し通そうとするウィルと、人の皮を着ているハンニバル。論理的には、この2人の間に友情は成立しない。ところが、情念という観念から見ると、この2人は深く結びついている。この辺が、精神科医の分析の限界でしょうか?
ハンニバルの反論に、彼の真情が込められています。
「I'm protecting Will from influence.
私はウィルを外的影響から守っているのだ。
He has flaws in intuitive beliefs about what makes him who he is.
彼には、自分が何者であるかに直感的な確信を持てないという欠陥がある。
I'm trying to help him understand.
私は、彼の理解を手助けしているんだ 」
つまり、
ウィルを脳炎による命の危険にさらしながら狂気に追い込むことで、
ハンニバルが現代社会の病理に対する妙薬だと考えている狂気に追い込むことで、
ウィルを人を殺さなくてはならない状況に追い込むことで、
ウィルの核であるとハンニバルが確信している"闇 "、
ウィルが怖れている"闇"を受け入れさせることが、ハンニバルにとってはウィルを救うことなのですね。
やっと、ハンニバルの行動の意味付けが見えてきました。
また、ここで、ハンニバルに紹介された患者がべデリアを襲った件でべデリアがジャックに話した内容は事件の一部にすぎないことも分かります。
真相は何なのか?気になるところです。
ジャックの疑念の矛先
ゼラーとプライスのリサーチで、ホッブスの殺人事件にはすべてアビゲ―ルが同行していたことが判明、アビゲールが父親による殺人の共犯だったことが明るみにでます。そこから、コピーキャット殺人もニコラス・ボイル殺害もすべてアビゲールの犯行ではないかという疑いをジャックは持ち始めます。
アビゲールの事情聴取に入院先の精神病院を訪れると、アビゲールは不在。やはりアビゲールに肩すかしを喰らったフレディから、ウィルがアビゲールを連れ出したこと、行先不明だということを知らされます。
さらに、フレディはアビゲールが語る自伝の内容にはプロットホールが多いこと、ニコラス・ボイル殺害犯はアビゲールではないかと述べ、ウィルは何を隠しているのかと質問してきます。
2人の隠し事を疑っているのは自分だけではなかったと、ジャックの疑念は深まります。
ハンニバルの苦渋の決断
アビゲールと殺人に関する話をして理解しあった直後、
「抗生物質の投与で頭もハッキリし、コピーキャット殺人の件をクリアーに考えられるようになった」と、ウィルはハンニバルに報告しに来ていました。
「サトクリフ医師を殺したのはコピーキャットで、ジョージアをハメたのは偶然。本来はウィルをハメようとしていた...コピーキャットは捜査に精通したFBI関係者だ...アビゲールを連れてミネソタに再捜査に行く」と意気込むウィル。
「君のパラノイアにアビゲールを巻き込むな」と、ハンニバルはため息をつき、苦しそうに眼をつむります。
ハンニバルが想定していたよりも早く、ウィルが真相に近づいてしまったのでしょう。親しい人間はできる限り盲目状態にしておきたい。やさしく大事にしながら、闇に目覚めさせたかった。念のためにウィルをハメる用意はしていても、実行したくはない。万感の思いがこもったため息に見えました。
そこに、ウィルとアビゲールが共犯関係にあるのではないかという疑いを伝えに来るジャック。最初はウィルをかばっていたハンニバルですが、「ウィルがアビゲールを精神病院から連れ出した」と言われて、愕然とする。
アビゲールはハンニバルがコピーキャットだと知っている。ウィルもそれに気づくのは、もはや時間の問題。ここで、ウィルをコピーキャットに仕立て上げる決断を、ハンニバルは下したのだと思います。
ハンニバルは、「マリッサを殺したような気がする」というウィルの言葉の録音をジャックに聞かせ、ジャックが立ち去った後は、「さて、どういう段取りで始末しようか?」ってな、したり顔を見せます。悪い奴っちゃ!
アビゲールとハンニバルの再度の裏切り
仲よくミネソタのアビゲールの自宅に向かったウィルとアビゲールでしたが、狩猟小屋についた途端に、不安に崩れそうになるアビゲール。死体解体現場へのトラウマなのか、事実発覚をおそれているのか?2階の鹿の角に囲まれたところで、状況が大きく変わります。
釣り人のウィルとハンターである父親ホッブスに育てられたアビゲール。2人の相違点が話題になり、
「Same thing, isn't it. One you stalk, the other you lure.
どっちも変わりないでしょう。ハンターは付け回して、釣り人はおびき寄せるっていう点以外は」というアビゲールのに、ウィルの想像力が刺激されます。彼女が「ハンターなのか釣り人なのか「」と迫るウィル。ウィルの特異な連想ゲームが動き出します。
「All those girls your father killed. Did you fish or did you hunt, Abigail?
君のお父さんが少女たちを殺した時、君は釣ってたのか狩ってたのか?」責めるように問いただす。
「I was the lure. 私はルアー(魚をおびき寄せる疑似餌)だったの」
親しい人物には鈍いウィルにも、ついにアビゲール共犯の事実が明かされました。ニコラス・ボイル殺害隠ぺいに加えて、またも自分にうそをついていたアビゲイル。ウィルは傷つき、寂しげに見えます。
ハンニバルもその事実を知っていながらウィルに告げていなかったことを知らされて混乱するウィル。家族のはずなのに、いつも自分だけが蚊帳の外。寂しさが嘆きに変わっていく。
「ハンニバルはあなたが私を守るって言ったわ。秘密を守るわね」とアビゲールが言ったところで、ウィルは言葉を失い涙にくれ、アビゲールに掴みかかって鹿の角に彼女を突き刺します。ついに、アビゲールの心理操作の手口の汚さに気づいて、嘆きが憤りと殺意に変わる瞬間。ハンニバルとフレディが見抜いた闇のウィルが生まれ出てきたようです。
アビゲール殺害は幻覚なのですが、ショックで精神の平衡をまた失いながらも、
「マリッサを殺したコピーキャットも自分だと思ってるのか」と詰め寄るアビゲールに「君でなければ、君の知ってる誰かがやったんだろう」と、ウィルは連続殺人の核心に迫るのですが、
「あなたが殺ったんじゃないの…あなたって、なんか変だもの」
と言い返されて、頭を抱え意識朦朧としていきます。
アビゲールがつないだ点と線
ウィルの意識はヴァージニアの飛行場で戻りますが、アビゲールはいなくなっている。
アビゲールはウィルの元から逃げ出して自宅に戻りますが、そこで待っていたのはハンニバル。安心したように駆け寄るアビゲール、「心配してたよ」と愛おしそうに抱きしめるハンニバル。
ここで気づいたのは、アビゲールと父娘になっていたつもりのウィルでしたが、彼女との間にスキンシップがないこと。ウィルが他人に触れるのが苦手なのは分かりますが、アビゲールもスキンシップを求めてはいなかった。つまり、この2人は父娘ではなく、まだ探り合いをする他人同志だということです。
疑似的な父娘関係が成り立っているのは、ハンニバルとアビゲールなのです。
「ウィルといても安心できなかった。全部バレてしまった」と、探るように言うアビゲールに「ジャックもだ。見つかったら、君もウィルも逮捕される」と、キビシイ現実をハンニバルは告げます。(ここからの会話はあまりに重要なので全部書きます)
アビゲール:ウィルがマリッサを殺したの?
ハンニバル:FBIはそう思っている。
アビゲール:ウィルは、(父さんが殺された)朝電話をかけてきたのが連続殺人犯だっていってたけど、なんであなたは電話をかけてきたの?
ハンニバルの正体に気づいたアビゲールは、震えながら後ずさります。
ハンニバル:君のお父さんに、ウィル・グレアムが迫っていると知らせたかったんだ。
アビゲール:どうして?
ハンニバル:I was curious what would happen. どうなるのか興味があったんだ。
I was curious what would happen when I killed Marissa.
マリッサを殺したらどなるか興味があった。
I wascurious what you would do.
君がどうするか興味があった。
ハンニバルは、curiousity=単純な興味で殺人を繰り返していたのですね。
誰よりも優れた頭脳と審美眼を持ち、精神科医としてボルティモアの上流社会の寵児として、地位にも名誉にも恵まれ、住いや心療室のしつらえや上等な仕立ての衣服や高価な酒類やパテック・フィリップの時計、愛車のベンントレーから察するに精神科医の報酬をはるかに超える、先祖代々の巨額な遺産に恵まれ、何不自由ない生活を楽しむハンニバルですが、そんな生活が退屈だったのですね。
退屈だから、軽い興味で人を殺して、周囲の反応を楽しんでいるって、まさに悪魔の所業です。あきれて、目の前がクラクラしました。
アビゲール:私にニコラス・ボイルを殺させたかったの?
ハンニバル:そう願っていた。君がどれだけお父さんに近いか見てみたかった。
Nicholas Boyle is more important for you gutting him. He changed you.
ニコラスは君に殺されただけの存在じゃない。彼が君を変えたんだ。
That's more important than the life he clamored after.
彼がしがみついていた命より(アビゲールを変えたことの方)がずっと重要だ。
すさまじい論理です。人の生命は、ハンニバルにとって大事な人物に引き起こす事態で忖度される。悪魔の親玉であるサタンの論理です。こんな論理は常人には読めない。だから、ウィルには切り裂き魔やコピーキャットの殺人が読めないのですね。
とはいえ、ハンニバルは嘘はつかない。事実の一部や伝えたり、話題をすり替えては来ましたが、嘘はついていない。ウィルやアビゲールは、他人に受け入れてもらうために虚言をもらしますが、ハンニバルにはそれがない。
多分、受け入れてもらう必要などない下等な存在の人間たちに、嘘をつく必要はないのですね。サタンです。
アビゲール:何人殺したの?
ハンニバル:君のお父さんよりずっと沢山。
ハンニバルは近寄り、怯えるアビゲールの手を取ります。
アビゲール:私も殺すの?
ハンニバル:I'm so sorry, Abigail. I'm sorry I couldn't protect you in this life.
すまない、アビゲール。今生で君を守れなくてすまない。
ハンニバルは、やさしくアビゲールの頬を愛撫しながら囁きます。これだけの真実を知ってしまった以上、アビゲールを逮捕させるわけにはいかない。アビゲールには、もうこの世に居場所はない。ハンニバルの眼が、いつもの人間離れした空白になっている。
興味から生まれた一連の出来事とはいえ、アビゲールは良心を持ちながらも闇を抱えた殺人者という、ハンニバルには理想の娘。その理想の娘、自分になついている、必死に守ってきた娘を殺してしまうのか?
感情全開のアビゲールの役ケイシー・ロールと抑制されたハンニバル=マッツ・ミケルセンの演技が醸す情念の奥行き。その奥行きに圧倒される最終シーン。
さまざまな点と線がつながって、ハンニバルが自己保全のためには、愛するウィルとアビゲールを犠牲にするしかないところまできた。
次の展開も気になりけれども、歌舞伎の世話物みたいな最終シーンに、胸がつまるアタシでありました。