海外エンタメ 千一夜物語

もの好きビルコンティが大好きなゲームオブスローンズを中心にゴシップ話も交えて、海外ドラマ・エンタメを一人語り・・・

『ハンニバル』は、何故2010年代のベストTVドラマなのか? 第1話ネタバレ

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『ゲーム・オブ・スローンズ』最終シーズンや『ウォーキングデッド』の尻すぼみっぷりにあきれ果て、ドラマを見る意欲を失ってしまったビルコンティ。

そこで、最終話までハイクオリティっぱなしだった番組を考えてたら『ハンニバル』があるじゃないかとDVDSを購入、見始めたら昔の中毒状態に戻ってしまいました。

アタシ史上最強の番組だと思ってたら、『スラントマガジン』などでも2010年代のベストTVドラマに選ばれてたりし、その魅力を語り尽くさねばと、急に思い立ち~~

 

映画史上でも悪名高い食人殺人鬼ハンニバル・レクターを描くドラマ・シリーズ。

 

製作は『HEROES』『アメリカン・ゴッズ』のブライアン・フラー。トマス・ハリスの原作シリーズ最大の売り物である『羊たちの沈黙』と主演のクラリス・スターリングの使用権をワーナーブラザーズから獲得できなかったので、同シリーズ『レッド・ドラゴン』の製作権を入手して、主要人物を大胆にアレンジして、その前編となるかたちでTV版をクリエイト開始したのでした。

 

FBI犯罪プロファイラーのウィル・グレアムがハンニバル・レクターを投獄するまでの過程を描くというのが、基本アイデアですね。

その基本が危うくも歪んでいくところに、ブライアン・フラーの天才的離れ技があって、ハマります。

 

もちろん、『ハンニバル』は誰からも愛されるショーじゃないのはわかってますぅ。

犯罪ドラマが性にあわない、ホラーが恐怖すぎ、血みどろ嫌い、正義感過多、道徳至上主義の方々からすれば、おぞましいだけの番組でしょう。

でも、この障壁を超えた先には、オペラ的に壮大で濃密な官能の世界が拡がっているのですね。

 

www.slantmagazine.com

 

 

美と情念の洪水に常識の線引きが崩れてしまう快感 

善悪、美醜の境界線はどこにあるのか?

強靭なモラリストが起こす犯罪という矛盾。

グロテスクな殺害現場とモダンアートが被り、美食の極致を支える残酷が見えてしまう異質感。殺人が親密さを生み、暴力が渇望のシンボルとなり、憎しみと恋、裏切りと求愛の堺がみえなくなっていく・・・。

ここに『ハンニバル』の魅力のキモはここだなとつくづく思います。

 

製作者のブライアン・フラーは、常々天才だと思ってますが、ホントに天才です!

 

こんな番組を、3シーズンとはいえメジャー局のNBCが制作・放映してたのも、奇跡というしかありません。

 

なんともアートな死体の宝庫

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『ハンニバル』は素晴らしい映像美の作品のなのですが、死体描写にはとりわけ素晴らしいのです。

毒をもつ花々がいけられ、桜の樹と合体した男の死体。巨大な鹿の角に貫かれた美しい少女。背中の皮膚で天使のような翼をあたえられた夫婦。人体のトーテムポール。三重の円をつくるように並べられた死体の肌色の違いが生み出すカラーパレット。

『ハンニバル』には、殺戮シーンはあまりなく、殺人の結果として創造された作品が次々にディスプレイされていきます。

それを映す色彩・構図・カット割の見事さは、まさにアート。

 

現代美術は人体を脱構築して表現することが多いですね。さらにコンセプト重視です。

 

これらの脱構築された死体の背後にある、情念的もしくは形而上学的コンセプトをウィル・グレアムは読み解いていきます。

菌類を死体に移植することで、個人という障壁を超えて交流可能な精神のネットワークをつくる。天使という存在に高められた死という救済。神の視点への昇華。

殺人を追体験したウィル・グラハムのキメ台詞は、「This is my design. これが私の作品だ」。

 

コンセプチュアルアートを美と認識するようにならされた現代人は、『ハンニバル』の死体美に酔いしれることになるのです。

 

極上のサウンドデザイン

そして、映像美を支えるサウンドの見事さ。

殺害現場やその臨場感、殺人犯の動機やそれに感応するウィル・グレアムの心理描写が多い番組ですから、基本的に不気味系の環境音楽的なサウンドが使われています。

思い切り、シーンに引き込む音響ですが、これだけだと、サントラが単調になってしまいます。

 

その均衡を破るのが、ハンニバル・レクターの生活空間。彼の趣味を反映して、そのシーンは、『羊たちの沈黙』でもお馴染み、バッハの「ゴルトベルク変奏曲」に始まり、モーツアルト、ヴィヴァルディ、ベートーベン、グノー、ショパン、マーラーといった、美味しすぎるクラシック楽曲が典雅で趣き深い聴覚美をまきちらすのです。

 

美食を極める〇肉料理

ハンニバル・レクターといえば、もちろん〇肉料理のクッキングや食卓シーンが満載です。

クッキングシーンは、しっかり人体に見えるパーツが切り刻まれていくので、心臓の弱い方にはおすすめできません。

 

これが食卓となる大違い。典雅なダイニングにスタイリッシュな器やカトラリーが並び、フルーツや花々を添えて盛り付けられた〇肉料理はまるでヌーボーキュイジーヌのデリカっぷり。

おもわず、あら美味そう、アタシも食べたいとなってしまいます。

 

同時に、食を追求する我々人間が食物連鎖の頂点にいて、どれほど残酷に他の生物を捕食しているかということにも気づかされ、ドキッとユリイカしたりします。

 

と、視覚・聴覚・食欲のすべてが嬉しく刺激されて、ハンニバル・レクター博士の世界に魅了されてしまうのです。

 

とはいえ、脚本と芝居がまずけれが、『ゲーム・オブ・スローンズ』最終シーズンのようにがっかりっしてしまうのですが、そこも素晴らしい。

その魅力を凝縮した第1シーズン第1話を掘ってみます。

 

史上最強のパイロット「アペリティフ(食前酒)」

異端の美食家である精神科医ハンニバル・レクターを描くシリーズは第1シーズンは、フランス料理のコース名を各話タイトルとして、順番通りに並べていくという趣向。粋な遊び心に思わずほくそ笑んでしまいます。

 

米国のTV番組は、パイロットとして第1話を作成、その成否でシリーズ製作がきまるのですが、大概の番組はパイロットでショッカー効果を狙いすぎて、ただの打ち上げ花火みたいなものをつくってしまいがちです。

「アペリティフ」ストーリーの主軸は、娘のアビゲールを愛するあまりよく似た少女たちカニバってしまう"ミネソタのモズ"ことギャレット・ジェイコブ・ホッブズの捜査です。

ですが、後から見直しても、この第1話に全編の行くすえを方向付ける要素が凝縮されてナラティブとしてしっかり機能しながら、主要人物のエッセンスを紹介していくという完ぺきっぷり。何度見てもゾクゾクします。

 

とりあえず、「アペリティフ」はCSIに始まる犯罪捜査ドラマの約束事にそって開始します。

捜査官たちが右往左往し、撃ち殺された死体が横たわり、血痕が飛び散る現場に、主人公であり、FBI犯罪プロファイラーのウィル・グレアム登場。

 

ウィルは特殊な共感能力を持つプロファイラー。彼が想像する世界で時間は逆行し犯人の心理が、作品としての殺人の意味が解き明かされます。

 

特殊な能力を持つ捜査官というのは、よくある設定ですね。普通の人間だったら対処できなくなるような能力を自在にコントロールして、危険なめにあったり、犯人を殺害したりしても動じない。自信と尊厳にあふれて悪を撲滅し続けますね。

「あんたって超人だわ」と、呆れることが多いヒーロー捜査官たち。

おまけに捜査チームは家族のように仲良くてと、嘘くさい理想の世界が展開するのですが・・・

『ハンニバル』は、もっと人間というものを突っ込んで描いていきます。

 

 

闇と脆さが交錯して 、壊れかけてるウィル・グレアム

第1シーズンのウィル・グレアムは、強烈な共感能力で人の心が見えすぎて、自閉状態をつくることでなんとか平静を保っている、不安定な人物です。

強い共感能力があると、他人に影響されやすい。操られて利用される危険もあります。ですから、ウィルは孤独の壁を築いて自分を守っているのですね。

演じるのは、繊細な役柄に定評のあるヒュー・ダンシー

 

精神不安定が災いして正式なFBI捜査官になるこもできず、FBIアカデミーで犯罪プロファイリングを教えている。

素晴らしい才能と知性を持ちながら、自信を欠いた人物です。寝ぐせ髪に無精ひげにずれ落ちそうな眼鏡、だぶついて着古したような服に自分を隠しているような人物。

素晴らしい才能と知性があるので当然不遜でもあり、同僚や上司に対して失敬な態度をとり続けています。当然のことながら、友人も少なくカノジョもいない。

おまけに仕事柄共感能力を発揮する相手は連続殺人犯なので、残酷な欲望や光景が頭を離れず、悪夢に襲われ続けてよく眠れない。

アビゲールの喉を掻き切りかけたホッブスを射殺して、そのショックにおののく、なんとも人間臭い弱さに満ちた青年です。

とはいえ、頭脳を持つために、自分の中に殺人犯に共感する闇が存在していることにも気付いている。その闇が現実に浸出してくるのではないかと不安に震えている。

 

おまけに、家族もいない一人暮らしで、シミジミと孤独。なので、何匹も捨て犬を拾って育てて、家族代わりにしている。

犯罪捜査のヒーローでありながら、犯罪捜査の被害者でもあるという複雑な主人公。

人間の暗黒面と対峙するパワーを持ちながら、とてつもない脆さが共存して、壊れる寸前でなんとかとどまっている不思議な魅力を持つ人物として、ウィル・グレアムは描かれています。

 

パワハラ上司のジャック・クロフォード

妙な能力に悩まされず、なるべく普通に近い平穏な生活を送りたいと、捜査の一線から退いているウィル・グレアムを現場につれだす無理やりなFBI上司として登場するジャック・クロフォード。

役者は『マトリックス』シリーズのローレンス・フィッシュバーン。男臭く、体格からして押しが強い。アメリカ人が描く男の中の男というべきフィッシュバーン。パワー指向で単純な正義感を振りかざし、細やかな想像力にかける鬼コーチ的存在。ウィル・グレアムの対極に存在する人物です。

 

ウィルの不安定な精神状態を気にかけた末に、ウィルをハンニバルのセラピーを受ける立場に追い込んでしまいます。

シーズンを重ねるごとに、よかれと思っていても、その無理やりな価値観がウィル・グレアムを苦境に立たせていくジャック。

ウィルとハンニバルの関係性が微妙なので、シリーズを通して真の大敵のように機能していきます。

 

完璧すぎる誘惑者ハンニバル・レクター

寒々とした検死室"ミネソタのモズ"がカニバルだとウィルが語ったところで場面は一転し、「ゴルドベルグ変奏曲」をバックに瀟洒な三つ揃いのスーツに身を包み、黒い縁どりもクールなプレートに盛り付けられた肉料理を賞味しながらハンニバル・レクターは登場します。

独身貴族の城ともいうべき邸宅のダイニング。コバルトブルーの壁面には、とてつもなくエロいブーシェの「レダと白鳥」が掛けられ、重厚なマホガニーのテーブルがしつらえてあります。過剰な装飾を排除しながら、"男のエレガンス"を極め、ストイックでありながら官能性が漂う空間。

仕事場である診療室も同様で、アールデコの室内。壁面はバーガンディに1950年代から60年代を思わせるずっしりした、選び抜かれた家具・調度が必要最小限置かれ、中2階はびっしりと蔵書で埋め尽くされています。

 

アンソニー・ホプキンスのキモくもマンガチックに怖いカニバルっぷりを予想して見ると、"北欧の至宝"マッツ・ミケルソン演じるハンニバル・レクターは、冷静沈着、抑制された官能と暴力を秘めて、周囲の人物を魅了し誘惑して操る悪魔のような紳士として登場するので、驚かされます。

 

外科医から精神科医となり、常に周囲の3歩先くらいを読む明晰な頭脳、文学・美術に造詣深く、すぐた素描家で作曲もこなすハープシコードの名手にして、圧巻のセンスと技量を持つシェフでもあります。

極めてアメリカ人的男性性にしばられたもウィルとジャックのドブネズミ色の服装とは対照的に、ハンニバルはカラフルで凝った布地の三つ揃いを次々と着こなしていきます。その立ち居振る舞いの優雅さ。歩いていても料理をしていてもエレガント。

 

他の人間たちは自分より劣った種だから、食物連鎖の頂点にたつアルファなハンニバルは喰ってしまうのだ、って感じです。

 

傲慢に他者を見下す食人殺人鬼でさえなければ、何を考えているのか分からない冷たさはあるけれど"理想の紳士"なのです。

 

 

ハンニバルとウィルの出会いはロマンチックコメディ

 映画『レッド・ドラゴン』のウィルとハンニバルは、あくまでも捜査官と殺人鬼として対決し、憎みあい、お互いの生命を狙っています。

TV版は、ここが大きく異なっています。

 

ウィルの精神鑑定をするためにジャックの執務室で紹介されるウィルとハンニバル。神経過敏状態でうつむいているウィル

「Not fond of eye contact. 他人と視線を合わせるのが苦手なんだね」

と、刺激するハンニバル。興奮して、何故かハンニバルをみつめて視線のウザさを力説するウィル。その反応を"カワイイ、喰っちまいたい"的な笑顔で見つめるハンニバル。

精神鑑定されているのを察して、激怒して中座する失敬なウィル。

「Rude should be eaten. 失敬な人間は食べて罰する」

 のが信条にも関わらず、なぜか手製の朝食なんていうプレゼントを持ってウィルの部屋を訪れるハンニバル。

 

内気なツンデレ女子とプレイボーイの出会いから始まるロマンチックコメディでしかありえないこの設定。

この人たち、いったい何してるんでしょう?なんです。

 

「アペリティフ」の最終場面、一命をとりとめたアビゲイルの病室を訪れたウィルを待っていたのは、意識のないアビゲイルと手をつないで仮眠するハンニバル。

穏やかな愛情に満ちた父娘の幻。二人を見つめるウィルの切ないような眼差し。

家族の温かさこそ、ウィルが心底求めているもの。それをみせつけるハンニバル。

 

とても残酷な誘惑を、ハンニバルがウィルに仕掛けているは確か。でも、なんで?

エピソードがますごとに、誰が誰を追い、狩っているのかわからなくなる、なんとも複雑な愛憎劇が展開していく。

 

そして、ハンニバルが企む誘惑で不安定なウィルがどう変わってしまうのか?

 

危うい心理の綾が示されているパイロット。圧巻の傑作と言えるでしょう。

 

何度見ても、まだ奥がある引用とシンボリズムの宇宙

極上の織物のように練り上げられたストーリーテリングを、映画主演級の役者たちがピタッと役にハマって語りきる。これだけでも『ハンニバル』は見る価値のあるシリーズです。

そこに映像やプロダクションデザイン、サントラの完成度が加わるので、2010年代のベストTVドラマというポジションは当然です。

 

その上、セリフが凝っているので再チェックしたくなる作品。

 

さらに、豊富な引用とシンボリズムで、見るたびに新しい解釈がでてくるのも楽しいところ。

 

映像の引用という点では、第一話だけでも、美しい死体というところでデヴィッド・リンチ、ホワイトアウトしたようなトイレの俯瞰描写がスタンリー・キューブリック的だったり、ハンニバルを見せるライティングがヒチコック的だったりと、映画マニアには垂涎の要素もたっぷり。

 

文化的引用を考えると、ウィルが想像で犯罪を再現する際に、振り子がヒューンと揺れるのですが・・・。振り子とミステリーといえば、エドガー・アラン・ポーの短編『落とし穴と振り子』が頭に浮かびます。そしてポーといえば、ダークなロマンチシズム溢れるゴシック文学の創始者。

ということで、単なる捜査物ではなくシリーズがゴシックロマンスに向かっていくのがこのキーから推察され・・・

 

と、尽きない視聴のだいご味があるのですね。

最近huluにアップしたので、ただのドラマに飽きた方には、ぜひ、見ていただきたいかと💛