エンタメ 千一夜物語

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『ジョジョ・ラビット』を見た。イタすぎる現実は、笑い倒してもイタすぎる!

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コメディの異才タイカ・ワイティティ監督作品『ジョジョ・ラビット』は、1300万ドルという、助演したスカーレット・ヨハンソンの出演料だけて終わってしまいそうな低予算で製作された作品。

盛大なプロモーションをかけてたわけでもないのに、去年のトロント映画祭で最高賞である「観客賞」を受賞してしまったので注目してました。で、アカデミー賞最優秀作品賞にもノミネート!気になるんでみてきました。

 ネタバレ注意!

 

 

ナチス支配はビートルマニアと同じ仕組み? 

思いっきり脳天気なビートルズ 「抱きしめたい」にモノクロい歴史映像が被る冒頭シーン。

そうか、ナチスとアドルフ・ヒトラーに対するドイツの熱狂って、1960年代のビートルマニアみたいなものだったんだと、クレバーなオープニングだなと思いました。

 

ビートルズのデビュー当時は、ブライアン・エプスタインちゅう有能なマネージャーが仕切っていて、おかっぱ頭やおそろの襟なしスーツなんちゅう、当時は斬新だったイメージづくりでブレイクしたんですね。

 

ヒトラーは感情高ぶるな演説を得意にした名パフォーマーでしたが、ヨーゼフ・ゲッベルスちゅう、えらい切れ者の宣伝相を率いて、大宣伝活動を展開していたのでした。

 宣伝映像とか作り倒して、マニアを作り出したわけです。

 

ジョジョ・ラビットはいじめられっ子の残酷なあだ名

ドイツ敗戦の色濃い第二次世界大戦末期、シングルマザー(ヨハンソン)に育てられている10歳のへっぽこ少年ヨハネス・ベッツラー(ローマン・グリフィン・デイヴィス)も、洗脳されきって部屋中にヒトラーのポスター貼りまくりの、空想の親友もヒトラー(ワイティテイ監督が演じます)なんちゅうマニアっぷり。

 

立派なナチス兵士になろうと参加した少年団のキャンプの度胸試しで、ウサギも殺せない。ウサギなみの臆病者ということで、ジョジョ・ラビットという情けないあだ名をつけられてしまいます。

汚名挽回に手りゅう弾投げの練習に挑んで、間違って自爆。大けがして入院、兵士候補から外されてしまいます。

 

孤独なジョジョ・ラビットといつも一緒にいてくれるのは空想のヒトラー。現実版よりもはるかにクレイジーなユダヤ人差別でジョジョを扇動しまくるのですが、それがハチャメチャすぎて大爆笑!

 

すごく残酷で皮肉なお話なのですが、ひとつひとつのシーンはめちゃ笑える。怖ろしい映画です。

 

ナチスの傘下にいるからって、全員が悪人じゃないのだ~~

 人間なんて弱いものです。

ジョジョ・ラビットみたいに素直な子どもは、簡単に洗脳され切ってしまいます。

 

ジョジョのただ一人の現実の友だち、オチビでデブのヨーキー(アーチー・イェーツ)は友達思いのやさしい少年。ジョジョよりは現実がみえているので、ナチスを信望しているのではないけれど、なにげなく体制に流されている。

 

体制に逆らうのは、大変な勇気と労力が必要です。それがない羊のような民衆は従順に生きてくしかないのですね。

そういうドイツ人も多かったと、当時を生きたユダヤの老婦人がおっしゃてました。

 

 

ナチスの悪を増長する人々

不幸なことに、苦い体験を繰り返して悪意をためこんだり、くど~い支配欲に駆られる人々は確実にいます。

こういう人々は、機会さえ与えられれば憎悪犯罪の先頭を走ってしまいます。

この映画だと、ゲシュタポのディエルツ大尉や少年キャンプのフロイライン・ラームなどが、悪意カテゴリーの典型かと・・・。

 

フロイライン・ラームはユダヤ人をヘビと悪魔が合体した怪物のようなものとして子どもたちに教えます。あまりにも現実離れしているので笑ってしまいます。

 

ゲシュタポとなると笑えない。反体制派の市民を広場で絞首刑にしまくり、さらしものにしてます。このへんから、だんだん笑えなくなってきます。

 

流されない信念をもつママの悲劇

いつでも一人で留守番しているジョジョを見て、なにか 変だと思っていたら、ジョジョのママは反ナチスの抵抗活動をしていたのですね。

ママはジョジョを心から愛してます。だから、イタリア戦線から戻らない父親の分もあわせて、ジョジョを守ろうと必死です。ジョジョのヒトラーマニアを心配して、偏見と憎悪を取り除こうと心をくだいています。

 

そして、ママはユダヤ人の少女を屋根裏部屋にかくまっています。

幼いジョジョを危険に巻き込まないため、ママは抵抗活動のことも少女のこともジョジョには内緒にしています。

 

沢山の重荷を一人で抱えてるのに、毎日明るい笑顔とジョークでジョジョの毎日を包むママ。正しくて、勇気があって、かしこくて、強くてお茶目な素敵な女性。

 

こんな人が本当にいたらいいのに、幸せに生きてほしいという観客の思いを握りつぶすように、ワイティテイ監督はある日突然、ゲシュタポにママを公開処刑させてしまいます。

 ジョジョはみなしごになってしまうのですね。敗戦前のヒステリックな粛清の嵐。だんだん残酷な現実が笑いを凌駕していくのです。

 

賢くてクールなユダヤ人の美少女エルサ

 ママがかくまっていたユダヤ人の少女エルサ(トーマサイン・マッケンジー)は、ある日ジョジョに見つかってしまいますが

「ゲシュタポに告げ口したら、ジョジョもママも皆殺しになるだけ」

と、気弱なジョジョを脅して密告される窮地を逃れます。

 

その後も、ジョジョのユダヤ人怪物説にうまく話を合わせてつくり話をでっちあげ、次第にジョジョを魅惑していきます。

「千夜一夜物語」のシェヘラザードみたいで、素敵です。

 

でも、両親は収容所に送られ、自分は何の自由もなく暗い屋根裏で生き残ってくだけの毎日。切なすぎですね。

 

 

笑えてしまうという残酷

ママを既に逮捕しているか、処刑してししまっているかというくらいのタイムラインで、ゲシュタポ一味はジョジョんちに、家宅捜索しにきます。

 

で、エルサの空想物語交えてジョジョが描いた「ユダヤ人怪物図鑑」みたいなノートを読んで大喜び、ジョークをとばして大笑いしあいますね。

 

自分たちが迫害している人々を笑い倒すことじたいが残酷ですが

NOという同胞を殺しまくった後で楽しく笑えてしまうということに気付いて、背筋が凍るような怖さを感じました。

 

暴力、裏切り、拷問、殺人といった行為に慣れきってしまうと、そういった残忍な行為が日常の光景になって、何事もないように過ごせるようになる。

人間性が持つ共感力の羅針盤が壊れてしまうのですね。

 

短い描写で、この怖さを描き切っているのは凄いことだと思います。

 

 

低予算でも迫力ある市街戦は撮れる!

アタシはけっこう戦争映画とか見るんですけど、迫力ありました。

エキストラの人数も爆発シーンも少なく、戦闘地域も限られているのに大変な重さで、シーンが展開します。

 

連合軍が襲来した市街戦なので、市民も戦わなくてはならない。年端のいかない子どもたちも武器を持たされ、誰もが無作為に殺戮されてしまう。

 

戦争のもつ無差別な残酷さを描いているのでこの迫力がでたのだと思います。

 

本当に、ワイティテイ監督の映画づくりのうまさ、醍醐味に感嘆しました。

 

 

 クレンツェンドルフ大尉はなぜエルザを救ったのか?

 なんとも痛ましい映画のなかでも、アタシ的に一番切ないのは少年キャンプを統括するクレンツェンドルフ大尉(サム・ロックウェル)です。

多分、彼をメインにしたレビューは少ないと思うので、詳しく掘ってみますかと。

 

パッと見には、渋いイケメンで勇敢で武術万能、ヒトラー少年隊の子どもたちからみれば、男の中の男みたいな存在のはずですが...

片目の視力を失って最前線から少年キャンプ統括に降格され、アルコールに依存しながら勤務をこなしているようです。

 

ナチス思想にも傾倒できず、敗北感にあふれた人物。

なぜ、そうなるのかバックグラウンドを探ってみました。

 

どう見ても40代後半で、職業軍人のクレンツェンドルフ大尉。ナチス国家の樹立は10年ほど前の1934年ですから、彼が軍属になったのはヴァイマル共和国時代でしょう。

不器用そうなクレンツェンドルフ大尉。ヴァイマル共和国軍がナチス軍に再編されたときもそのまま軍隊にいたのだと思われます。

彼も流されて生きている人なんですね。

 

その流されて生きてるクレンツェンドルフ大尉が、反逆罪になる危険を冒して、ママが処刑された日に家宅捜索にきたゲシュタポからエルサを救います。

 

まともな軍人なら、敗戦間近なのは知ってます。だからユダヤ人の少女を救った?それだけでしょうか?

 

 

ピンクトライアングルの悲劇

アタシ的な意見としては、ナチス思想の中では大尉はエルサと同じ立ち位置、いえ、エルサ以下の立ち位置なのです。

 

カジュアルに見てると分からないと思いますが、大尉と副官のフレディ・フィンケル(アルフィー・アレン)は恋仲です。なぜこう言い切れるかというと、アルフィーのインタビューを見て知っていたからです。

子どものジョジョの目から見た世界だから、大人のやっていることは、ぼんやりとしか伝わらないのです。だからよくわからない。

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19世紀のドイツ帝国の憲法発布以来、男子同性愛は禁止事項でしたが、ナチス政権下では刑罰化が進み、ゲイであり突撃隊を率いたエルンスト・レーム粛清後は、迫害は一段と厳しくなり、同性愛者は収容所送りになった上に、ピンクトライアングルの識別胸章をつけられて最下層の扱いを受ける大罪となっていました。

 

集団ヒステリー状態の敗戦間近でゲシュタポにみつかれば、即刻、絞首刑みたいな状況です。

 

なので大尉とフィンケルの恋愛は絶対の秘密。注意深く見てると、じっと見つめあう眼差しやプールサイドや執務室で寄り添う姿に熱い思いがこめられています。一瞬でつらい恋を見せきるサムとアルフィーの演技力、脱帽です!

 

同じ弾圧され仲間なのに、自分を偽り、軍人という立場でおいしく暮らしている大尉は、エルサにひけめを感じたでしょう。

連合軍がくれば、レニングラード占領時の悲劇に怒り心頭のソビエト軍にナチスの兵士だというだけで死刑にされかねない。

 

とすれば、せめてエルサに生き残ってほしいと、善人の大尉は思いますかと。

 

ピンクトライアングルの栄光

市街戦となった日に、大尉とフィンケルは偽りの姿を捨てて、本当の自分になって決戦に挑みます。

どピンクの羽飾りつきヘルメットにキラキラ軍服に濃い~メイク、ヴァイマル共和国ベルリン時代のキャバレー芸人みたいないでたちの大尉。ピンクトライアングルをつけまくったフィンケル。

「俺たちに明日はない」状態で、本来の自分を主張して死にたい。武士道は死ぬこととみつけたりって、日本人のアタシなどはジ~ンとしてしまいます。

 

戦闘終了後の捕虜収容所で、フィンケルのちぎれたマントを握りしめている大尉。フィンケルは死んじゃって、大尉だけ生き残ってしまったのがわかりました。

 

戦闘員と間違われて連合軍に捕まってしまったジョジョと出会うと

「心配するな。家に帰って姉さん(エルサのこと)の面倒みるんだぞ」

と励まし、ジョジョがユダヤ人だと言い張って逃し、自分は処刑される運命を受け入れます。

 

愛するフィンケルがいなくなって処刑も目前でボロボロなのに、ジョジョとエルサを思いやる強さと思いやり。立派な最期ですね。

クレンツェンドルフ大尉には、思い切り泣かされます~~~

 

ボウイの『Heroes』

ナチスが崩壊して、未来へ向かうエルサとジョジョの最終シーンに被るのは、敗戦後のドイツを東西に分断していたベルリンの壁崩壊に捧げられたデヴィッド・ボウイの有名な楽曲。

今では不自由な国々からの移民が目指す永住の地がドイツであるということもあり、とても感慨深いものがあります。

 

I, I will be king  僕は王様になる

And you, you will be queen 君は女王様だよ

Though nothing will drive them away やつらを追い払うことはできないけど

We can beat them, just for one day せめて1日くらいは打ちのめせる

We can be heroes, just for one day せめて1日くらいはヒーローになれる

 

この曲は、生き延びたエルサとジョジョだけでなく

生き残れなかったママやクレンツェンドルフ大尉やフィンケルにも

捧げられていると思いたいです。