エンタメ 千一夜物語

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何故、シオン・グレイジョイはヒーローなのか?アルフィー・アレン讃

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 傲慢で女たらしのふざけた男から、父親に捨てられた不安を抱える青年の顔をのぞかせ、卑怯な裏切り者になり、拷問の被害者になり、人以下の生き物リークになり、トラウマに苛まれる生き残った被害者になり、そこから立ち直ろうと誰よりも高潔でストイックに生きる青年となり、死んだシオン・グレイジョイ。

その困難な旅路がリアルに感じられたのは、アルフィー・アレンという類まれな役者がいたからこそ、今回はアルフィーの軌跡を追ってみたいかと・・・

 

 

リリー・アレンの「アルフィー」からシオン・グレイジョイへ

 

芸能一家に生まれたアルフィー・アレンはゲーム・オブ・スローンズ出演前から、子役として活動していた。

とはいえ基本的に端役が多く、私のような一般大衆が持っていたイメージはただ一つ。

ポップアイドルのリリー・アレンの歌"アルフィー"に出てくる不出来な弟

学校にもいかず、定職にもつかず、ハッパを吸って、部屋でポルノを見てマスをかいているだけの悪ガキだった。

 

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シオン役に抜てきされた時の彼はこんな感じ。

リリーのPVに出てくるマペットの"アルフィー"そのもの。

どの学校も退学になってしまう不敵でおちゃらけ た少年らしい

第1シーズンのシオン・グレイジョイとちょっと被る素顔だ。

 

長い間、父親や姉の名声の陰で生きてきた当人はやる気まんまん

「自分は舞台で"エクウス"の主役も務めたし、シオン役をやりこなす自信がある」的に豪語していたのを覚えている。

 

 

アルフィー・アレンが輝きだした瞬間

大口たたきの小僧と思っていた彼の演技力に驚かされたのは第2シーズン。

シオン・グレイジョイ役をものにしたオーディションでも演じたという父ベイロン・グレイジョイとの再会シーン。

 

"北"軍の勇士として自信満々で帰還したはずが、ベイロンに次々と自分の功績と存在を否定されて気迫がくだけていく時の微妙な変化。

You gave me away

あんたは俺を捨てたんだ!

と、叫ぶシーンで顔は怒っているのに声が泣いていた。

 

その時、若いけれども大変な役者を出会えたことが分かった。

 

ロブ・スタークを裏切ると決めた時から、シオン・グレイジョイの顔は次第に歪んで醜悪になっていった。

剣術の師ロドリック・カッセルを処刑する時の追い詰められた不安な表情とやぶれかぶれの身体言語から、シオンは何の自信もなく鉄の民というイメージに流されているだけの卑怯者であることが身にしみた。

学匠ルーウィンに、スターク家に兄弟を殺されたのに人々からいつも「どれだけスターク家の世話になっているか」を諭されてきたと皮肉を言っているはずが、怒りと後悔で泣きだすところ。

 

第2シーズンのシオンのシーンは、どれも珠玉だった。

サイテーな男を演じながら、その下で揺れる複雑な人間性を見事に見せきったアルフィー・アレンに心の底から感嘆した。

 

この辺のエピソードは原作の第2巻王狼たちの戦旗に入っているが、本のシオンは言い訳がましくて好きになれなかった。

その言い訳を、心の叫びに聞かせる

嫌な奴とは思いながらも、その悲しさも分からせるアルフィーのソウルフルな芝居。

 

アルフィーがシオンを演じなければ、

私はここまでシオンに共鳴することもなく

エピソードを1度見て満足するファンで終わっていたと思う。

 

 

シオンからリークへの見事な変身

原作ではウィンターフェルがボルトン軍に陥落した王狼たちの戦旗』の後、

第3巻にも第4巻にもシオンは登場しない。

第5巻『竜との舞踏』で、既にリークになりきって現れる。

 

ところがTVシリーズでは、第3シーズンもラムジー・ボルトンの捕虜となって拷問され、リークになっていく過程を描く形でシオンは登場し続ける。

 

「第2シーズンの演技があまりにも素晴らしかったので、制作側がアルフィーをずっと使い続けたかったから」

とうような趣旨を、ラムジー役のイワン・レオンが語っている。

 

因みに、イワンもジョン・スノウ役のオーディションでキット・ハリントンと二人最後まで残り、制作側がなんとしても使いたかった若手実力派だ。

 

イワンとアルフィーが、ほとんど二人芝居状態で対決し続ける第3シーズンは、演技という観点から見て本当にスリリングだった。

 

「本当の父さんは王都で死んだ」と、犯した罪の重さを告白するシオンの真摯。

それを聞くラムジーの思い深げな表情と時折ギラつく眼差し。

 

身体言語の差、台詞の間、二人が視線を合わせたりそらせたりする様子。

ちょっとした動作が緊張感を盛り上げ、密室の二人芝居が千変万化する。

 

斜め十字に磔刑にされ、乾きと空腹、痛みと恐怖で次第に弱り壊れ、リークであることを受け入れていくシオン。その変化する過程の説得力。

邪悪なユーモアを交えながら、シオンの苦痛を楽しみ味わい尽くすラムジー。彼の顔は、どんどん怪物的になっていく。

 

驚く程残酷なシーンの連続なのに、何故か画面から目が離せない。

とてつもないケミストリーだった。

 

第3シーズンの撮影はアルフィーにとって、精神的にも肉体的にもきつかったという。それを励まし支え続けたのがラムジー役のイワンだったと知って、二人の濃いケミストーが納得できた。

 

第4シーズンでリークになってから、アルフィーの身体とその言語は劇的に変化する。少年のように細くなり、前かがみに背が縮み、痛みで足元がもつれ、不断の恐怖に痙攣し続け、痛めつけられた犬のようにいつも唸っている。

 

アルフィーのシオンは、毎シーズン別人のように変化しながら

その核にある苦悩する魂は最後まで変わらずに輝いていた。

演技でシオンが経験する痛みや恐怖、孤独と苦しみが、まるで自分のことのように、こちらの内臓を抉るように伝わってきた。

 

アルフィーという類まれな役者を見るために、私はゲーム・オブ・スローンズに釘付けになった。

 

 

abuse(虐待)の被害者たちとの繋がり

 

この頃から、アルフィー・アレンがゲーム・オブ・スローンズに出演する最上の役者であるという評価が、共演者や制作スタッフの談話として語られるようになってきた。

 

ここで止まっていれば希に見るレンジを表現できる役者の唯のサクセス・ストーリーなのだが、シオン=リークの説得力と意味付はもっと大きくなっていく。

 

2015年のインタビューで アルフィー・アレンが語った。

「ある女性が話しかけてきたんだ。『夫はいつもあたしを殴るの。他所の人には分からない場所をね。ゲーム・オブ・スローンズであなたが虐待を受ける様子は情けなくなんてない。あたしには力を与えてくれるの』それで、役者の僕にも社会的な義務があることが分かったんだ」

 

私も、シオン・グレイジョイのファンダムの皆さんと時々話すが、やはり、abuseを経験している人は多い。上の女性はdomestic abuse(家庭内暴力)の被害者だが、いじめの対象になった人や、drug abuse(薬物中毒)など、さまざまに傷ついた人たちがいる。

 

そういう自分自身も、睡眠導入剤への依存から立ち直ろうとしているところだ。

 

我々、道に迷ったり傷ついたりしている者たちは、何故かシオン=リークに吸い寄せられてしまう。

シオン=リークとシンクロすることで、ダメ人間の孤独感から解放され、癒されているのだと思う。

 

だから、シオン=リークは心を病むファンにとってはヒーローなのだ。

 badassに大暴れするからヒーローなのではない。

ハラグに立ち向かった時も、亡者を倒しまくる時も、ナイトキングに突貫する時も

シオンのアクションはカッコイイとはいえない。

普通の人間が負けを覚悟で

なけなしの勇気を奮い起こして抗えない圧力になんとか応戦しようとしている

その姿があまりに実物大だから、彼は超人的ではない一般人のヒーローなのだ。

 

アルフィー・アレンもそれに気づいている。

そう思うと、とても安心する。

 

 

役柄への深い共感

 

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アルフィー・アレンの驚くべき演技力は、役柄への深い理解と共感からきていると、私は確信している。

 

シオン=リークからシオン・グレイジョイへと立ち直っていく過程でも

シオンの痛み、苦痛が常に感じられた。

 

アルフィーはシオンのことをいつも考えてしまうと語っていた。

「じっと部屋で考えてみるといかいうことじゃなく、たとえば階段を登る時にシオンの新たな面がみえたりする。役者ってそういうもんだよ。自分を苦しめることになるけど・・・」

「自分の気持ちに正直じゃないといけないと思う。こんなこと経験してないって最初は思ってても、ふとした瞬間に、ああ、あの時の気持ち(自分の実体験で)ってこれに近かったて気づいたする。」 

 

シオンというつらい大役にこれだけ入れ込んで、心を病んでいるファンベースへの責任も感じていたら大変なことだろうと察する。

 

シーズンを重ねていくうちに、

シオンは深く眉間に縦ジワが入った憂鬱な表情になってきた。

 

なかでも、不思議に印象に残っているのは

デナーリスの船団が初の航海に出発するとき。

晴れがましそうだったり、闘志溢れるキャラたちの中で

シオンだけは悲しそうだった。

 

上昇志向にかられて失敗し続け地獄を見たシオンは

戦争で権力を追求することの無益さを知っている。

 

シオンの戦いは愛情を持ってくれるヤーラを守るためのもので

攻めるためのもではない。

 

ワンショットでこれだけ語れる役者は、多分、ほとんどいないだろう。

 

 

 

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表情を考えると、

コミックコンなどの席上でも当意即妙のウィットとドライなユーモアは相変わらずだが

アルフィーからおどけたパーティ野郎の気配は薄くなり

上の写真のように物憂い顔つきが多くなってきた。

ひとつの役柄と向き合うことで人間がここまで変わるのかという、心配になるくらい別人の顔つきになった。

 

 

カタルシス溢れる死を迎えた大役シオンの撮影も終わり

私生活では1児の父親になり、

最近はbro(男友達)な交流に勤しんで~~~

本人の言葉を借りれば

「つまらない、ごく普通の人間」としてまったりしているようだ。

 

シオン=リークが死んでしまったのは寂しいが

この、またとないキャラクターを作り上げてくれたアルフィーには感謝、感謝である。

 

 

人間は壊れるているもの。アルフィーからのメッセージ

 

最後に

去年の国際メンタルヘルスデイにアップされたアルフィーのメッセージをつけておく。

 

You are not a movie character with an air-brushed soul.

君は、エアブラシで小綺麗に直された心を持つ映画キャラじゃない。

You are not a robot, with stability programmed in.

君は安定をプログラムされたロボットじゃない。

You could not escape the pain your parents tried to shield you from.

親御さんが盾になって守ろうとしている痛みから、君は逃げられない。

No-one dodges the bullet of self-doubt, of fragility.

誰も自己不信や脆さという弾丸を避けることはできない。

To be human is to be damaged.

人間だっていうことは、ダメージを受けるってことなんだ。

The trick is not to fight it. Let it out. Marinade in it.

そいつと戦わないのがコツだ。ダメージを外に出して、マゼコゼにすればいい。

Go down the rabbit hole of crazy. There’s treasure down there.

狂気といううさぎの穴に飛び込んだら、そこにある宝も分かる。

Let it become a tailwind rather than a deadweight.

それを重荷にしないで追い風にしよう。

Your imperfections are the bits that people will love you for.

君が不完全かだら、皆が君を愛するんだ。

Ok, inspiration over, time to get back to being morose. 

この辺で演説をやめて、ただの不機嫌な男に戻るよ。

 

こう言えるアルフィーが、私は大好きだ。

この精神が演じたシオン・グレイジョイは私の救い、ヒーローだ。

 

 

www.biruko.tokyo

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