エンタメ 千一夜物語

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シオン・グレイジョイ/リークに捧げる In The Woods Somewhere by ホージア

今週のお題「わたしの好きな歌」

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もの悲しげなのに不気味なギターのフレージングに戦いのドラムのように威嚇的なパーカッション。そこに震えるようなホージアのヴォーカルが被り、深い闇を感じさせる"In The Woods Somewhere"。聴いた途端に魅せられました。

そして、何故かシオン・グレイジョイ/リークの物語が脳裏に浮かんだのでした。

 

 

私的にはホージア屈指の名曲

 

2013~15年にかけて"Take Me to Church"が世界的な大ヒットとなったアイルランド出身のインディー・アーティト=ホージアですが、この曲が入ったセルフタイトルアルバムのデラックス版にリスティングされているだけの"In The Woods Somewhere"。あまり耳にすることがない楽曲だと思います。

 

メロディラインもビートも、すごくアイリッシュ・フォークっぽいのに、ゴスペルが本来あるべき荘厳さも備え、私的にはツボにはまっちゃった曲です。

 

"深い森のどこかで"というタイトルだと、私は決めています。ハイキングして和むイメージの森ではありません。

例えば、富士山の樹海のように暗く陽がささないほどに巨大な樹木と、静寂に押しつぶされそうになるような空間。

外から見える静けさとは反対に、昆虫や動物たちが食物連鎖の戦いを繰り広げている。広大な地面の下には、いくつもの死体が埋められて、犯罪者たちが隠れ住んで新しい獲物を待ち受けている。そんな"闇の異界である森"です。

 

私的には蠱惑の世界観なのですが、困ったことに・・・

 

私には訳せないリリックス

なのです。

優れて象徴的な詩というものは、そのシンボルの意味付が明確でないと訳してもよくわからないのです。

 

で、ホージアの思考回路が理解できていない私としては、その時の気分でシンボリズムの体系が変わってしまうので、気分によって歌詞の意味が変化してしまいます。

 

ちょうどこの歌と出会った頃、私めはシオン・グレイジョイ/リークがオブセッションになっていました。

 

原作の第5巻"A Dance With Dragons"のエピソードで、

ウィンターフェルを占領していた時に妾にしていた女性のカイラの手引きで、シオンはドレッドフォートの牢から逃げ出すことになるのですが、これはラムゼイの計略でした。まんまと術中に陥った二人は森で、ラムジー一行と猟犬たちの人間狩りの対象になり、カイラはシオンの目の前で猟犬に喰い殺されてしまいます(TVではタンジーが狩られる物語)。

これがトラウマになってシオンはラムジーの手から逃げるのを考えることすらできなくなりました。

 

リークになった彼が、この悪夢に苦しみ、彼の中のシオンを抹殺する物語のイメージを持って聴くと、この詩が急にリアルになったのでした。

 

 

シオン/リークの文脈に沿って解釈してみると

My head was warm

My skin was soaked

I called your name 'til the fever broke

 ラムジーに付けられた傷跡が化膿して熱にうなされ、汗に濡れそぼったリークはシオンの名前を呼び続けます(心の底で、リークはシオンに戻ることを願っています)。

 

When I awoke

The moon still hung

The night so black that the darkness hummed

目覚めると 月光の夜ですが、森はどこまでも暗く、闇がリークに囁きつづけます(私の空想では、リークは悪夢にうなされ続けています)。

 

I raised myself

My legs were weak

I prayed my mind be good to me

起き上がろうとしても膝が震える彼は、シオンではなくラムジーの善きリークであることを祈るばかり。

 

An awful noise

Filled the air

I heard a scream in the woods somewhere

(悪夢の中で)ゾッとするような叫び声が森にこだまします。

 

A woman's voice!

I quickly ran

Into the trees with empty hands

殺される寸前の女の声、カイラの叫び声だと気づいたリークは、なすすべもなく木々の陰に逃げ込みます。

 

A fox it was

He shook afraid

I spoke no words, no sound he made

ところが女だと思ったのは、息も絶え絶えで恐怖に声も出ない狐でした(狐は童話などでは人を騙す存在、変節者のシオン自身です)。

 

His bone exposed

His hind was lame

I raised a stone to end his pain

狐の傷は深く骨が露出して歩くこともできない(手足の指を切り取られたシオンのように)。

痛みから救うために、リークは狐を石で殺そうとします(シオンである限りは痛みは続く。だからリークは内なるシオンを抹殺ししまわなければならない)。

 

What caused the wound?

How large the teeth?

I sure knew eyes were watching me

狐を襲った獣を、その牙をリークは恐れます。そして、獣が見守っていることに気づきます(獣は猟犬たちであり、ラムジーです)。

 

The creature lunged

I turned and ran

To save a life I didn't have

獣に襲いかかられてリークは逃げ出します。内面は既に死んでいる自分の命を守るために。

 

Deer in the chase

There as I flew

Forgot all prayers of joining you

狩られる鹿のように逃げ出すリーク。シオンと一体化したいという願いは消えてしまいました。

 

I clutched my life

And wished it kept

My dearest love I'm not done yet

リークは生にしがみつきます。まだ死にたくないと夢の中のカイラに願います。

 

How many years

I know I'll bear

I found something in the woods somewhere

これから先何年もラムジーの虐待に耐えなければならないことは分かっていても、まだ死にたくない。

それが、リークが森で得た教訓でした。

 

 

 

不思議なほど、シオン・グレイジョイ/リークの痛みと悲哀にハマる歌詞と音楽性です。

 

でも、別のシチュエーションに出会ったら、私にとってこの歌の意味はまた変化するでしょう。

そういう変容を遂げるのが、豊かな音楽、リリックスだと私は信じています。

 

 

 

 

 

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