エンタメ 千一夜物語

もの好きビルコンティが大好きな海外ドラマやバレエ、マンガ・アニメとエンタメもろもろ、ゴシップ話も交えて一人語り・・・

ちょい悪姉御の「グラン・パ・クラシック」 テリョーシキナ/チューディン 動画付き

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 バレエが好きと誰かに言うと、チョイっと前までシルヴィ・ギエムのファンかと聞かれて、ムッとすることが多かったビルコンティ。

で、長年バレエ愛好家がギエムの演目と認識していたのを、最愛のヴィクトリア・テリョーシキナがうっちゃりをかけて爆裂圧勝したのが「グラン・パ・クラシック」。中でも最良のパフォーマンスがyutubeのオフィシャル動画にあるので、ぜひ、ご紹介したいかと💛

 この映像は2010年にダンスオープン国際バレエフェスティヴァルでミズ・ヴィルトゥオーゾを初めて受賞した時のもの。大変、思い出深い映像です。

 

 

 

 

ポンパドゥール夫人の誘惑ってかなアダジオ

なぜテリョーシキナ圧勝と言い切れるのかというと…

世界各地のバレエコンクールに出場する少女たちが、前は、みなギエムみたいな白っぽい衣装を着てたのに、今ではこぞってテリョーシキナが着用している、このカドミウムブルーにシルバーの刺繡を施したチュチュを着ているからです。

 

つまり、今ではテリョーシキナが「グラン・パ・クラシック」のアイコンなわけです。

 

なぜ、それが凄いのか? それは「グラン・パ・クラシック」の成り立ちにあります。

 

「グラン・パ・クラシック」はフレンチスタイルへのオマージュとして創られた、20世紀ネオ・クラシックのガラ作品(全幕の一部ではない独立したグランパ)なのです。

振付を担当したのはロシア・サンクトペテルブルク出身のヴィクトル・グゾフスキーではありますが、フランソワ・オーベールの楽曲を採用してパリ・オペラ座のエトワール、イヴェット・ショヴィレのために創られたのです。

 

オペラ座のバレエスタイルは、上半身の動きは無視して足技重視というのが通念です。

このアダジオにはアラセゴンンド(片足を横にあげるポーズ)やパセ(片足を膝の上あたりで曲げるポーズ)、アラベスクなどの高度なバランスがたっぷりと盛り込まれていますが、キーロフ/マリインスキーのスターたちなどは、上半身を使いすぎるので音に遅れる傾向があります。

「ロシア人が踊るとネチッコクてかなわない」と、フランスのバレエマニアからお叱りを受けるのもしばしばでした。

 

そこに登場したのがテリョーシキナ姉さん

キーロフ/マリインスキーのバレリーナにしては例外的にエポールマン(首や肩をしなわせて使う技術)を多用しない、むしろステップ重視のダンススタイルなので、この作品やバランシンの振り付けにはピッタリ。リフトの後にピルエット(回転)してからパセのバランスを盤石にこなしてを男性の着地までこらえる(1:36あたり)という、ギエムもできなかった大快挙もみせてくれます。

さらに、技から技への移行にはキーロフ/マリインスキーならでは素早い滑らかさがあり、キレイに音楽が表現されているのも姉さんならでは!

 

ロシア人なのにフレンチスタイル代表作のアイコンになっている!ここに、第1のスゴさがありますかと

 

さらに、演技も素敵です。マダム・ショヴィレが言ってました。

「この役柄は、王に愛されている 女性なの。その自信と魅力をみせないと」

 

難しいステップをこなすだけで終わってしまう他のバレリーナたちと違い、テリョーシキナ姉さんは軽やかな遊び心に溢れています。パートナーを見返すところなどでは、ここ一番とばかりに色っぽいエポールマンで艶然と微笑み~~

まるで、ルイ15世の寵姫ポンパドゥール夫人が、舞踏会でお相手する若造貴族を誘惑するようで、本当に素敵です。

 

 また、この動画ではボリショイのプリンシパル、セミョーン・チューディンと組んで、ボリショイスタイルで踊っています。スタイルの異なる劇場の慣れないパートナーと組んで、振りも微妙に異なるのに、余裕の笑顔。

この頃のテリョーシキナは本当にスゴかった!

2:35辺で、姉さんの回転数を間違えたチューディンが変な角度でストップさせたのに、自力で正しい角度に戻ってくるあたり、テリョーシキナの体幹の強さにギョッとします。

 

 

キーロフ・バレエの伝統を受け継ぐチューディン!

 

 アタシは、あまり男性ヴァリエーションを語ってきませんでした。男性ヴァリエーションというのは、絶対的に準拠すべき振付が女子より少なく、皆さま、自分が得意な大技を入れて苦手を誤魔化す的なところがあるので、何を踊っても同じステップみたいな人もいて、比較検討が面白くないみたいなことがあります。

 

それでも、グラン・パ・クラシックの男性ヴァリエーションはロシア人が断然いい

ロシアのダンサーのジャンプは、短いプレパレーション(ジャンプや回転の前に膝を曲げて準備すること)と長い滞空時間を備えていることが多いので、ボールがバウンドしているようで爽快なのです。

 

特に、チューディンはいいですね。大技をかけても上体がエレガントに保たれ~。膝がよく伸びて足の甲が高く屈曲しているので、グランジュテ(前後開脚した大きなジャンプ)の脚も流線型を描いて美しい。

 

まるで、ワガノワ/マリインスキーのプリンシパルみたいだと思ってプロフィールを調べたら、

ノヴォシビルスクのバレエ学校出身ではありますが、元キーロフ・バレエ(現在はマリインスキー)の天才的芸術監督オレグ・ヴィノグラードフに見いだされて2003年にソウルのバレエカンパニーに入り、エフゲニー・ネフに4年間師事していたのですね。ネフはキーロフでも、一番ノーブルでエレガントで、メランコリックな王子でした。その芸風をしっかり受け継いで、今はボリショイを代表するスターになっている。

 

韓国を通してキーロフの伝統が チューディンのなかで花開いていると思うと、感無量です✨

 

さらに、細かい足技もよいですね。最後の連続アントルシャシス(垂直に飛んで空中で脚を3回交錯させる技)もクリーンで、大変気持ちいいです。

甲がしなやかなので、アントルシャをする時に膝の裏が伸びているのに両足のつま先はくっついているというのが、私の理想のラインなのですが、ここもできている。

 

チューディンはリリックで美しいと、いつも思います。

 

 

 超難関ヴァリエーションも遊び心いっぱいのテリョーシキナ

 

※ミズ・ヴィルトウゥオーザの授賞式が入っているのでヴァリエーションが始まるのは1:00くらいからです。

ギエム以来、エカルテバランス(片脚を上げたバランス)にハイアラセゴン(脚を高く横にあげること1:48あたりです)を入れるということになり、超難関となってしまったこのヴァリエーション。

テリョーシキナはあまり脚を上げません。脚を高く上げるには、それなりの時間がかかります。そこで、音楽が全体に間延びして、重苦しくなってしまうのです。

 

テリョーシキナはスピーディで軽やかで自在。最初のパセのシーケンスはエポールマンやちょっと腰を使って、セクシーに決めてきます。ダイアゴナルのアティテュード半回転の最後には余裕の3回転ピルエットも入れてます。

 

超長いバロネ(両膝の屈伸を片足を上げたままで行う)のシーケンス(2:05~2:37くらい)も重苦しさがありません。

注意してみると、プリエ(膝を曲げた準備動作)が浅くて短く、軸足が完全には着地せずにやや踵が浮いてます。この状態からガンガン動けるのがテリョーシキナの強みですし、技の移行が驚くほど滑らかになる秘訣ですね。

 

ポワントに降りるシャンジュマン(前後の脚の位置が変わる垂直ジャンプ)から右脚をポンと動かすところ(2:42あたり)など、まるで体重がないかのよう。

 

まさに、妙技です。

 

心臓破りなボリショイ式コーダ

グラン・パ・クラシックはコーダも難関。

チューディンはは流線型にしなうブリゼ・ボレ(ジャンプして脚を前後で交差させる技)からアントルシャ、巨大なシソンヌ(両足で踏み切って前後開脚するジャンプ)からグランピルエット(片脚を上げた回転)も見事。この技術と体力を使い切るシーケンスをパワフルかつ優雅にこなしてくれて、夢のよう。

 

テリョーシキナのグランフェッテは、グランピルエットにダブル回転が入る、ギエム以来の伝統を、相変わらずの笑顔でこなして、もうもう極楽!

 

で、この後はオペラ座やマリイスキーのスタイルですとピケアラベスクでシメです。ピケアラベスクって、ある程度脚が上がる人は、自然とバランスが取れるのでケッコウ休めてラクです。

 

でも、ボリショイ式だとその後に高速連続アントルシャが待ってます。クタクタなところにアントルシャって、普通人には地獄です。

それをピタリとシンクロさせるお二人。特に、普段はやらない負荷がかかってるのに、笑顔のテリョーシキナ。感動です❤

 

芸の極みですねえ~~~~

 

 

テリョーシキナ十八番(順不同)

横綱バレエのテリョーシキナではありますが、それでも、苦手演目はあります。ジゼルみたいなか弱い少女とかハマりませんし、オーロラも王女というよりは女王様なのでヘンだったり、オデットではロットバルトを自力でやっつけてしまうみたいな舞台もありました。

自分の心に正直なのですね。

じゃあ、どの辺の演目が横綱なのか、十八番考えてみました。

 

白鳥の湖 オディールのグランパ

     (若い頃のトンベ~クペ~ソドバスクが忘れられません)

白鳥の湖 第1幕第2場ヴァリエーション(最高のダブルロンデジャン)

ドン・キホーテ 第3幕グランパ

ドン・キホーテ 第1幕ヴァリエーション(空中で止まるピルエットがギョッ!)

ドン・キホーテ 第2幕 ドゥジンスカヤ・ヴァリエーション

        (全幕でこれが踊れるのはテリョーシキナだけです)

海賊 第2幕グランパ(大回転のメドーラヴァリエーションが絶品)

海賊 花園のヴァリエーション(最後に4回転ピルエットっての感動でした)

バヤデール ニキヤのモノローグ(ポワントのままのパンシェアラベスクが奇跡)

バヤデール 影の王国のニキヤ(3回転からアラベスクが唯一無二)

愛の伝説 メフメネのモノローグ(昂る感情に合わせて振りが大きくなってく~~)

バフチサライの泉 第2幕 (メフメネと同じ)

グラン・パ・クラシック 

パキータ トゥリルビー・ヴァリエーション 

    (回転とジャンプのシーケンスを円上でやるってコムレワ以来かと)

眠れる森の美女 第2幕夢の場(幻になりきるのが上手ですね)

チャイコフスキー・パ・ドゥ・ドゥ(2010年くらいが絶品です)

バレエ・インペリアル (チャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番にハマりすぎ!)

タランテラ (サラファノフと4回転競争してたのがわすれられません)

シンフォニー・イン・C 第1楽章 (なんでこれがスムーズに踊れるの?)

 

こんなに横綱演目があるなんて、反則~~~❤

とはいえ、舞台生活20年のテリョーシキナ。いつまで踊ってくれるのか?

それだけが心配なアタシです。

 

 

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