エミー賞史上最多の32ノミネートを獲得した『ゲーム・オブ・スローンズ』最終章。12件の最優秀賞を受賞しましたが、プライムタイム部門では2つの最優秀受賞に留まり、残り10はキャスティング、コスチューム、プロダクションデザイン、作曲、撮影、ヴィジュアル・エフェクトなどの制作部門でした。
ということで、今回のエミー賞の気になったところを振り返ってみますかと・・・
残念なような当然なようなゲーム・オブ・スローンズ
エミー賞のようなビッグ・アワードには、政治的だったり、販促的だったり、さまざまな思惑が絡んでるというお話は、「アルフィー・アレンのノミネーション」のところで語りましたが
そのとおりの結果になったと実感しています。
最終章の完成度はイマイチでしたが、2011年からドラマシリーズの最高峰を走っていたことは事実なので、最優秀ドラマ賞は、ご苦労さまのねぎらいと思えます。
で、この迫力ある映像世界を可能にした制作部門のキャスティング、コスチューム、プロダクションデザイン、メイク、作曲、撮影、ヴィジュアル・エフェクト、サウンド、スタントなどはどれをとっても見事というほかなく・・・。また、どんな過酷な環境やスケジュールでも奮闘し続けたスタッフの皆さまの献身には頭が下がる思いなので、制作部門の受賞はとてもうれしい出来事でありました。
ノミネートのみに留まった脚本賞。これは、未完の原作ソースがなくなったところで、作者のジョージ・R・R・マーティンから与えられたアウトラインをつなぐナラティブが短絡的になってしまった。ということで、ノミネート自体が残念賞と考えていいかと思います。
そして、気になる役者部門。主演賞候補となったジョン・スノウ役のキット・ハリントンとデナーリス・ターガリエン役のエミリア・クラークは、脚本の穴を埋めることができなかった!ということでこれも残念賞。
助演女優賞では。サンサ・スターク役のソフィー・ターナー、アリア・スターク役のメイジー・ウィリアムズ、騎士ブライエニー役のグェンドリン・クリスティーはまだ懐の深さがなく、サーセイ・ラニスター役のレナ・へディは最終シーズンで脚本的にしどころがなかったですかと。
助演男優賞を受賞したティリオン・ラニスター役のピーター・ディンクレイジ。できる演技陣が去ってしまった最終回を、語って語って語りまくり一人で物語の展開を支えた功績は評価されるべきものですかと。ジェイミー・ラニスター役のニコライ・コスター=ワルドーは適切に役柄をこなしたという以上ではなかったかと思います。
そして、受賞を逃したアタシの贔屓、シオン・グレイジョイ役のアルフィー・アレン。全シーズンを通して、彼ほどに成長し、出力200%で、どの登場シーンも感動があった彼ですが、最終シーズンの登場時間は全部で10分ほど。短すぎました。
その瞬間的なシーンで誰よりも深い感動を残してくれたことは、奇跡というしかない!
演技の神童とも言うべきアルフィーですが、達人ベン・ウィショーをしても、エミー賞受賞まで20年かかった。ので、しかたがないかと・・・。
というところで、ベン・ウィショーの話題に移りますかと。
突然のベン・ウィショー受賞ブーム?
ベン・ウィショー、今年になってから、ゴールデングローブ賞に続いて2回目の助演男優賞受賞ですね。対象作品は両方とも『英国スキャンダル〜セックスと陰謀のソープ事件』。
自由党の党首、ジェレミー・ソープを政界引退に追い込んだ、同性のノーマン・ジョシフ(スコット)とのセックススキャンダルを描く、ブラックなコメディです。
ベン・ウィショーの才能をリスペクトし続けているアタシなどとしては、何を今更、遅すぎる受賞ではありますが、ハリウッドの政策的には今こそ、そして、この作品こそがベストタイミングということなのでしょう。
数年前のオスカーで黒人受賞者がでなかったことから、マイノリティ差別批判が盛り上がりました。以来、ハリウッドは多様性を示すのに必死です。
この件以来、黒人やアジア人俳優の受賞や授賞式への参加に、大きな配慮が示されるようになってきています。
ただ、どうしようもなく、俳優自身がかたくなに信じているマイノリティ差別は残っています。
「ゲイであることをカムアウトした俳優は、タイプキャストされてメジャーになれない」という心情です。
ザッカリー・クイントとかニール・パトリック・ハリスとか、カムアウト前に異能を認められた俳優や、イケメン枠を確立して40代を過ぎたマット・ボマーなどは別として、女性ファンを頼りにする若手アイドルは、まだ、この制約から抜け出せないでいるようです。
魅力的なレスビアン役が出てこないと人気ドラマにならないみたいな風潮さえある女優陣と、男優はまた別のようですが、それでもカムアウトを避けていると見受けられる女優さんもいるなあと感じています。
で、クイアな役柄を演じた公けにゲイなベン・ウィショーに助演男優賞というのは、ハリウッドの多様性の宣伝に最適と判断されたのだと推測します。
ノーマン・ジョシフ(スコット)役は◎なのか?
で、この役での受賞がウレしいかというと、ウレシクないアタシです。
『ホロウ・クラウン/嘆きの王冠』シリーズの『リチャード二世』役だったら大喜びだったんですけど。
『リチャード二世』はシェイクスピアの戯曲の中でも人気度の低~い作品。キャラ的にも、『ゲーム・オブ・スローンズ』のジョフリー・バラシオンに匹敵するほど、幼稚で未熟で残虐で不適切な少年王と考えられています。
それを「神聖な王権」という理想、ある種「聖なる狂気」に囚われた夢見る王として演じ、「愚者の栄光」とでもいうべき苦いコメディにしてくれたベン・ウィショーの解釈と演技は革新的で、どれほどに賞賛しても足りないと思えるものでした。
それに比較すると、『英国スキャンダル〜セックスと陰謀のソープ事件』は国の階級制度への批判的見解と1967年まで男性間の同性愛行為を犯罪として刑事処罰を科していた暗黒史への風刺に満ちていて、コメディとして面白い。
のだけれど、実在の人物に基づく以上、証言者としての誠実という点では、疑わしいところだらけです。
友人宅の馬丁だったジョシフを見初めたソープが、精神不安定な彼を誘惑して無理やり関係を結び、別宅に囲って愛人関係になったあげく、国民保険カードをを奪って定職つくのを妨げて自立する機会を奪い、事実を暴露しよとしたジョシフの殺害企て、これが明るみに出て政界失脚的に描かれています。さらに、絶対的な加害者に見えていたソープの社会的偏見の犠牲者だったというふうに。
階級制度批判ですから、当然、ジョシフ目線でドラマは成り立っています。震える子鹿のようなベン・ウィショーは、どう見ても被害者です。
でも、なかなかに男性的で喰えない顔つきをしたジョシフ本人の写真を見たアタシは、なにか違うと感じて、事件の背景を調べてみました。
そうすると、最初に相手の殺害を口にしたのは、ソープに飽きられたという疑いにかられたジョシフのほうだという証言がみつかりました。さらに、ソープはジョシフが職について自立できるよう、何度も尽力していました。どちらかというと、腰の落ち着かないジョシフはすぐに仕事を放り出し、経済的にソープに頼ろうと戻ってきてしまう。で、結婚して要職につこうとどんどん離れていくソープを脅迫し始める。ソープもジョシフが邪魔になって、ヒットマンを雇う。みたいな関係性が見えてきました。
ソープの側から見れば、「悪女の深情け」みたいな話です。
ドラマを見たジョシフ自身も、
"I'm portrayed as this poor, mincing, little gay person ... I also come across as a weakling and I've never been a weakling."
「ワシは、可愛そうで女ぽい、卑小なゲイみたいに描かれとる。虚弱者といっていいだろうが、ワシは虚弱だったことなど一度もない」と、憤慨していました。
二人の喰えない男がお互いを利用しようとして破綻する、腐れ縁。その、ドロドロの戦いを公正に描いてくれたら、もっと納得できたと思ったのでした。
ローザンヌやペルミ、モスクワの国際バレエコンクールもそうですが、いろいろな賞は残念な事情がついてまわる昨今です。トホ~~~~