エンタメ 千一夜物語

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呪術廻戦アニメ第25『懐玉』・26話『懐玉-弐』…光が眩しいほど闇は深い

©芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

「戻れない青い春」の眩しさ爆裂で始まった『呪術廻戦』第2期第1話、通算第25話話の『壊玉』。どう見ても青春バディの学園バトルコメディが始まるはず。とはいえ、映画『呪術廻戦 0』の大敵である特級呪詛師・夏油傑の11年前にあたる前日譚の転落劇のはず。てことで、ここまでは気軽に楽しめる第26話『壊玉-弐』含めてネタバレ極小にて『壊玉・玉折』の展望を語りますかと…

※表記内容を正確なものにするため、引用はコミックスから行っています。

 

 

 

青春の明暗が浮き彫りに...

薄暗い路地、呪術高専の制服を着た夏油が祓っては飲み込む行為を「吐瀉物を処理した雑巾を丸飲みしているような…」と嘆き「私が見たものは何も珍しくない、周知の醜悪」と述懐し、暗澹とした疲弊状態の夏油を描くオープニング。

から一転、怜悧な一級術師で守銭奴セクシーな冥々利発なビビリ可愛い2級術師・歌姫のホラー味たっぷり、アニオリ満載の心霊スポット探索の行き詰まりで洋館が爆発~~。

で、OPが入る。
現在の目隠し五条悟が薄暗い部屋でバルセロナチェアに座って疲弊した夏油を失った過去を思い起こしている?
ここでキタニタツヤ氏のOP曲『青のすみか』のリリックスが流れてくる。

置き忘れてきた永遠の底に
今でも青が棲んでいる
今でも青は澄んでいる

アラサーになってっも青春の思い出を糧にして生きているような、五条という男の夢なのでしょう。その中では、五条・夏油・家入の高専2年生トリオ、七海・灰原の1年生コンビがワチャワチャ青春真っ盛り
皆第1シーズンや映画と違いすぎる登場人物たち。大人の五条より一回り華奢な悟君はあざとプリティな少年。大人になってからの胡散臭い笑みではなく、満面の笑みで夏油と大暴れしたり、一緒に担任の夜蛾に叱られたり、自転車2人乗りしたり、本当に幸せそう。「心の底から笑えなかった」なんて言って亡くなった夏油も、颯爽と男前で楽しそう。家入も眼の下に隈のできたアンニュイでダウナーなアラサー美女じゃなく、クールだけどキャピキャピガーリー。苦労人の大人だった七海はデヴィッド・ボウイのソックリさんみたい。灰原のホッペにコーラ押し付けたりするお茶目さんだったりします。
青春が明るいほど、10年後の変わり果てた姿を知ってるから、リリックスとの相乗効果で、これが彼らの人生で一番幸せな時だったんだなあと、余計に切なくなります。
この青春があったから、「若人から青春を取り上げるなんて許されていないんだよ、何人たりともね」と言い切れる教師になったのだなと、感慨も深くなります。

 

ガンガン入るアニオリに違和感がないのが素晴らしい!新エピソードを付加するんじゃなくて、原作のエピソード内でスピード重視の作者が描写しなかった部分が、丁寧に描き足されていくんですね。だから、原作の行間がみっちり詰まってキャラが深度化していくんです。

だから、アニオリ満載は大歓迎です。

 

のっけから青春の明暗がクッキリと描かれて、OPまででこんなにドラマチックでいいのか?作画も眼福だしと、苦悩しつつも狂気乱舞なファンでありました。

 

激重な友情とその破綻

OPの曲調は爽やかキャッチーだけれど、リリックスは喪失感に溢れいます。
五条に背を向けて歩き、時折歪んだ笑みを見せる夏油。とにかく幸せそうな五条とはどこかですれ違っています。

どんな祈りも言葉も
近づけるのに、届かなかった

映画で呪詛師・夏油の起こした反乱・百鬼夜行を制圧するため、彼に止めをさすしかなかった五条をを知っている視聴者としては、2人の思いが食い違い夏油が離反する過程が描かれるのだなとこのリリックスを解釈します。

まるで、静かな恋のような
頬を伝った夏のような色のなか
きみを呪う言葉がずっと喉の奥につかえてる
「また会えるよね」って、声にならない声

と続いてくると、たった一人の親友への激重な感情を抱えていても離反を避けられなかった食い違い。友情という枠を超えさえする唯一無二への感情があっても再会は呪いでしかないとい、『呪術廻戦0』への道筋も見えてきます。

 

家入もいるのに、何故、五条と夏油が特別なのか?
これは性別の違いによって裸の付き合いができない遠慮であるとか、戦闘員と非戦闘員の立場の違いがあるのだなと思います。
反転術式によって負傷者を治療する家入は後方バックアップの至宝ですが、五条と夏油のように最前線で命を預け合える相手ではないのだなと…
刎頸之交とは、相手のためなら首を切られても悔いはないほどに固い友情のこと。この成句の元となった藺相如と廉頗の友情、遠くギリシアに目をやれば、アキレスとパトロクロス、アレキサンダーとへファイスティオン。戦士たちの、戦場での友情は何にも代えがたいものと様々な文学に謳われていますもの。

『壊玉・玉折編』は、この激重な友情とその破綻の物語なのだと、OPですら感慨が深くなります。

 

「俺たち最強だし」という全能感と不明

なんで、そんなに熱い友情が壊れていくのか?


家入に「クズ」と罵られる五条と夏油のコンビは、「俺たち最強だから」なんてイキリ倒してますねえ。心霊スポット救援では洋館ごと吹き飛ばして先輩・歌姫を「弱い」と煽りまくる生意気五条と、お団子ヘアに拡張ピアスにボンタン穿いてファッショナブルヤンキーみたい夏油は庇うような口ぶりで歌姫の傷口に塩を塗る。
やっぱり、クズな2人です。

 

OP冒頭の眠る五条は、第1シーズンのOP『廻廻奇譚』の山手線に乗車して眠る虎杖とパラレルに見えます。でも2人の意識が向かう方向は真逆。虎杖の潜在意識は待ち受ける呪術師仲間との未来に向かい、五条の方は幸福だった過去に向かっている。共通するのは、2人とも大事な仲間(虎杖は吉野順平、五条は夏油)を失うということ。なんとも皮肉なパラレルです。

でも、虎杖たちの日常が不安を含んで描かれているのに対して、五条世代は学園生活は呑気に土手を歩いたり、ゲーセン行ったり(ED)、普通の高校生みたいにリラックスしてて明るい。
術師は強くなければ自分の意思を通せない、望む生活を実現できない。五条世代がお気楽キャンパスライフできたのも、呪霊瞬殺な五条・夏油の破格の強さあってこそ。そこまで強くない虎杖・伏黒・釘崎たちは、もっと危機意識高い日々でしたねえ。

 

とはいえ、壊玉の時期、底力的には地球全体を滅ぼすパワーがある特級術師・九十九由基が最強だったはず。計略を操れば2人に勝てる異能もいたり…

2年生16歳の五条と夏油。一般人でも意味不明な全能感に囚われ易いお年頃。世の中を知らない不明さゆえに、最強と自称できてたのも確か。突き抜けた明るさは、危ういバランスの上にある。
呪術師として生きる最強とそうではない者たちの明暗が、暗喩的に対象を描かれていると、感じましたよ。

 

また、『呪術廻戦』史上名高い五条と夏油の問答があるのもこのエピソード。

非術師に現場を知らせないようにする帳を下ろさず洋館破壊を行って、夜蛾から鉄拳制裁をくらった五条は、
弱い奴らに気を遣うのは疲れるよ」と、全く反省する気がない。
「"弱者生存"それがあるべき社会の姿さ 弱きを助け強きを挫く いいかい悟 呪術は非術師を守るためにある」と諫める、優等生で理想家の夏油。
「それ、正論? 俺、正論嫌いなんだよね 理由とか責任とか乗っけんのはさ、それこそ弱者がやることだろ ポジショントークで気持ち良くなってんじゃねーよ オッエー」売り言葉に買い言葉的にすかさず突っ込み返す五条は、どこまでもエゴセントリックな本能丸出し、悪ガキ強者のご意見。

呪詛師になった夏油と教師になった五条を知っている視聴者からすると、立場がまるで逆さまになったよう。
忖度なく意見を交わし、拳で解決しよとする。喧嘩するほど仲の良い友達。ですが、成長するにつれ思想の違いは明確になっていき、人はゆく道筋を違えていくものです。

2人の論議がバスケをプレイしながらなされ、正論を語る夏油のキレイなフォームのシュートはハズレ、本音トークしてる五条のメチャクチャなシュートは全部入るという皮肉なアニオリ描写もあり~~
2人の明暗がここでも皮肉な対比として描かれているのに、心が痛みますねえ。


つまり、五条と夏油の友情は思春期特有の傲慢な自信の上に成り立つ連帯感によるもの。成長につれ、思想の違いは明らかに泣ていく。永続するには、よって立つ基盤自体が危うい友情です。

 

芥見下々の作家性-はりぼてへの悪意

で、「俺たち最強」の傲慢に何故しつこく言及してるのかというと、芥見氏の作家としての視座に深く関わってくるからです。

芥見氏は湊かなえ氏の作品に愛着深く、小説『告白』に描き下ろしイラストと推薦コメントを寄せています。そのコメントは、

若さを肯定しつつも
はりぼての達観が
青ざめ、挫けていく様を見るのが
私達は大好きなのです。

なんとも残酷な視点ですね。人生という経験値が少ない思春期の子供たちは、視野狭窄から過激な判断に至りやすい。その判断はペラッペラの「はりぼて」であることが多いと、大人であるアタシなぞは思うのです。そして、若さゆえの考え違い、幻想がが現実の中で敗れていくのを見るのは、皮肉屋の大人には面白いことでもあります。

挫けていく「はりぼての達観」といえば、第1シーズンに少年院で虫呪霊に痛めつけられて「人を助けて正しい死を迎える」という虎杖の意志が崩れていくところ、いじめを受けていた吉野の恨みが殺人を肯定する思想に至り、虎杖や真人の介入で何度も揺らぐながら自滅を迎えるシーンなどが思い起されるでしょう。

 

「達観」を「矜持」や「友愛」に置き換えたら、芥見氏のコメントは「俺たち最強」の五条や夏油にも当てはまります。

 

壊玉とは、見た目に反して優れた宝玉(才能)を内に秘めていること。玉折とは、素晴らしい宝玉(才人)が本領を発揮することなく世を去ってしまうこと。
つまり、2人の少年の成長と挫折の物語。この運命の差が友情を破綻させるのね。

成長する過程の中で、はりぼてが「挫けていく様を見」続けることが『壊玉・玉折編』なのよ。と、芥見氏ほど皮肉になれないアタシなぞは心痛め、苦い思いを嚙み締めてしまいます。

 

散見する不穏要素

「はりぼて…が挫けていく」ドラマの緊張感が盛り上がるのは、OPも含めチラチラ入ってくる不穏要素にもよります。
まずは、大人になった灰原を視聴者は目にしたことがありません。

 

高専組をひっそり見つめる不安そうな美少女中学生。どうやら沖縄の美ら海水族館でジンベエザメに向けて救いを求めるように手を伸ばしている。ワチャワチャシーンも盛り込まれているけれど、少女には何故か不幸の匂いが漂っています。
猫足のバスタブに沈んでくとこなんて、ハンニバルに囚われたべデリアみたいでエロ怖いです。

レースが終わった競艇場に居座るワルそうなイケオジ2人。痩せたおっさんはイタチみたいに狡る賢そう。
恵体の方のおっさんはやばいですね。高専の結界の中を平気で歩く強者っぷりなのに、世を拗ねたヤサグレ感が染み出して、1枚30万円分のハズレ舟券捨ててるし。こんなギャンブル人生してたら、いくら金あっても足りないだろ、このクズ!ってなりますよ。
2人とも青春ストーリーには場違い過ぎて不穏です。

 

オープニングだけで、こんなに情報盛りだくさん。この構成、最高すぎでしょ。

 

星漿体の護衛抹消という残酷

25話のストーリー後半では、OPのJCが星漿体・天内理子だと明かされます。

結界術で日本を呪霊の跳梁跋扈から保護している不死の術師・天元が老化により高次の存在になり人間に与する心を失うことを阻止するためには、500年に一度新しい肉体に移る必要があります。星漿体というのはその移動先として同化に適合する人間を指します。同化することで星漿体である天内の自我は沈められ、天元に肉体を乗っ取られるわけです(コミックス第202話「血と油①」より)。

その天内を殺害しようとする組織から護衛し、"抹消する"つまり同化させる任務が五条と夏油に与えられますが、まずここでゾッとしますね。 

 

第26話では、天内は孤児だけれども世話係・黒井美里に仕えられ、ミッションスクールに通う超お嬢で、何でも我がままが通る贅沢な暮らしぶり。
「いいか 天元様は妾で 妾は天元様なのだ!!」なんて、えらそうな姫様言動。これは強がりとも取れますが、アグレッシヴで高慢な勝気なご様子はうかがえます。

とはいえ、天元との同化により女子中学生からその未来を、人生を奪うことで日本という国の安寧は守られている。そんな呪術界のシステムこそが「人の心がない」の思考といえましょう。
さらに、多感な16歳の少年たちに少女の抹消という過酷な任務を与える。最強とイキッていても脳の成長途中にある少年たち。その精神に良い影響があるわけがない。

これら二重の意味で残酷な任務ではあります。

 

伏黒甚爾という暗雲

天内の暗殺を謀った呪詛師集団「Q」は簡単に下した最強少年たち。
ここのアクションのカッコ良さときたら、高層ビルの窓を割って飛び出す夏油のアニオリとかSクラス!ってか、アクションシーンは総じてSクラス以上ですね。
ですが、2人にとっての人生初の難関はOPに出てきたクズな恵体オヤジ、"呪術師殺し"として悪名高い伏黒甚爾という形で現れます。

アニメの作画だとよく分らないのですが、芥見氏の手になる甚爾の登場シーンはとてつもないインパクトです。
「もう禪院じゃねぇ 婿に入ったんでな. 今は伏黒だ」というセリフの時の薄ら笑いのどアップが狂気じみて禍々しく、それでいて歪んだ色気があり、背筋がゾワゾワしました。

第26話になると、甚爾の屈強なクズっぷりは炸裂してきます。
盤星教からの天内暗殺を仲介するイタチなイケオジ孔時雨から、
「恵みは元気か?」と聞かれて、しばらく考えてから「誰だっけ?」と答える。
やっぱお前、伏黒恵の父親じゃん。名前も覚えてないのかよ?競艇場でモツだのタコ焼きだのをだらしなく食ってる暇に、30万円息子のために使えよ!と、次第に激オコになる視聴者です。

 

なんだけど、暗殺者としての甚爾はプロ中のプロ。禪院家出身だけあり、五条家の坊と呼ぶくらい五条を知っている。六眼+無下限の威力が分かっている。でありながら、暗殺を引き受ける。

なので、甚爾は手付金の3000万円を全部使って天内を48時間以内に狩る懸賞金として闇サイトに挙げ、呪詛師たちを暗躍させて「五条の周りの術師と五条本人の神経を削る」ことに全振りします。

担任の夜蛾やQから救った天内に凹されたのを見ても、この時点の五条は無下限のバリアを常時発動できているわけではありません。危機的状況を作り出し、足元を掬う腹積もり。
ただのクズかと思ったら、恐ろしく頭脳派な作戦を仕掛ける知将。

さらに、負けてただ働きになっても五条と戦いたい意志見え見え。甚爾と五条は因縁がありそうです。

 

イキリ五条と夏油の幸福な青春の暗雲災厄が詰まったパンドラの函を開けるのは甚爾?2人の自信が、急に心もとなく見えてきました。
加えて、『壊玉・玉折』のラスボス甚爾のアクション、PVにもちょっと出てましたがSSSクラスを期待してます。

 

 

余裕の男夏油-頭脳明晰な格闘家、カッコつけの人たらし

『壊玉』の夏油は、とにかくカッコいいヤンキーな見た目に反して理知的で、紳士的。16歳なのに身体も仕上がっていて逞しいのに「私」と自称するソフトな振る舞い。
我儘な天内が天元との同化後は
「友人 家族 大切な人達とはもう会えなくなるんだ 好きにさせよう」と決断したり、天内に家族がいないことを告げる黒井に「それじゃあ アナタが家族だ」なんて声をかけたり。高専夏油にはやさしい思いやりがあって、それをスマートに表現できる。
これはモテる、誑しな男ですよ。

一方、術師として呪霊を使役することで索敵・救援に優れ呪霊を操りつつ近接格闘戦を得意とするという、オールマイティな能力を発揮。五条が選んだ相棒だけあります。

第26話では、自分と同じ呪霊操術の爺さんを相手に、呪霊を囮に近接嫌いと見せかけて格闘戦に誘い込み、体術で瞬殺する頭脳派ファイターでもあります。ここもSクラスアクション

 

瀕死となった爺さんが見る走馬灯に早世した米国軽音楽の父・フォスターの逝去前の名作『夢見る人』が被るのも趣き深いですねえ。貧窮の底で暮らすフォスターが、浮世の猥雑から隔絶して夢の中で生きる(もしくは既に死んでいる)美女に思いを馳せる。この曲自体が走馬灯のようなもの。
美しくも不吉な選曲です。

 

悪童五条のゴリ押し無下限

一方チャペルに押し入って、キラキラの激イケルックスで女子中学生から教師までをノックアウトしてしまう五条。
でも一人称俺だし、乱暴で煽りまくるしなシャベリだから、一人称は「"私"か最低でも"僕"にしな」と夏油から注意されてしまうガラの悪さ。なんかEQ小学生並みですか?みたいな幼稚ジャイアンなんですね。
この時は忠告を無視してますが、夏油離反後に一人称"僕"になっている(多分第29話ででてきますかと)。そういうところが健気というか、根は素直なおぼっちゃま君なんですよね。

で、格闘シーンでは術式順天の蒼を使いまくって、天内を吸い寄せて持ち運んだり、宙に浮いてガラス窓を吹き飛ばして分身呪詛師を追い詰めたり、とにかくゴリ押し。ここは原作よりも盛りに盛ったアクション。SSクラスのシーンです。

 

人間性も戦い方も、絶妙なコントラストで相互補完的な2人です。一緒に大人になったら無敵だったのに~~、と嘆いてしまいます。

 

ところで、五条が無下限の説明を始めると数学強者じゃないアタシはいつも宇宙猫状態になってしまいます。
「アキレスと亀」って、「(俊足の)アキレスは離れた地点にいる亀に追いつかない」っていうゼノンの有名なパラドックスですよね。細かい論議は「五条語り」の回にしますが、日常生活の中でアキレスは亀に追いつくんです。だから、五条の無下限の仕組みは、あくまでも概念としての無限を操るものだと解釈しとります。

収束する無限級数を強化するとマイナスの自然数になるというのも???。収束する無限級数も「アキレスと亀」と同じで、数列が増えていくと数値は限りなく0には近づくけど、マイナスの数列になりはしないし…

無下限という術式の数学的美しさが大好きなファンとしては、この論理の組み立てだけはしっかりして欲しいなあと願い続けています。

 

いずれにしても、この時点の五条が使えるのは全自動ではない「アキレスと亀」原理の"無限"バリアと、収束のメカニズムを用いた引き寄せる力術式順転"蒼"のみ。発散のメカニズムを用いた術式反転"赫"は使いこなせていません。

威勢はいいけど、何かと心もとないから「俺達最強」してる五条&夏油。
未来は不安ですねえ。

 

パンドラの函の底に残ったもの 

ということで、黒井誘拐の情報で終わった第26話。どう考えても、奸智に長けた甚爾が「俺達最強」の幻想というパンドラの函を開けてしまうのは見え見えなところで、崎山蒼志の『燈』が流れます。

僕の善意が壊れてゆく前に
君に全部告げるべきだった 

リリックスは闇落ちしていく夏油の心象だと理解されます。
無下限が常時発動できないので、傘を差して楽しそうに歩く五条。憂鬱気に石段に腰かけている夏油。2人で待ち合わせしてるんでしょうか?
麒麟橋を渡る五条現代最強へと昇り詰める彼はまさに麒麟児、壊玉の人
光の中を歩く五条と家入、影へと入っていく夏油。彼は玉折の人なのねと、シンボリズムが溢れかえるED
登場する2尾の熱帯魚はベタ。プラチナホワイトのボディに青い目を持ち長いヒレが優雅なトラディショナル種が五条。一方、黒くてヒレがギザギザなクラウンテール種は夏油。五条はクラウンテールを見つめているけれども、夏油はトラディショナルから目を背けてしまう。夏油をみつけた五条が笑顔で駆け出しじゃれつこうとするのを夏油が追い返す最後の方では、クラウンテールだけが残っている。

ベタは美しいけれども、縄張り争いで殺し合うから水槽の中には一匹しか飼えない闘魚
両雄並び立たずの諺どおり、最強は一人のみ。孤独に生きるしかないということでしょうか。
並んで橋の下を歩く2人の夏油側には先に続く道はない。道半ばで倒れる運命の暗示

突如映し出される花々も気になりますね。
一方は金木犀。気高い人・真実の愛・初恋なんてところが花言葉。もう一方は赤い彼岸花。情熱・あきらめ・悲しい思い出・想うはあなたひとり・また会う日を望むなんてところが花言葉。
初恋のように情熱的な友情が破綻して悲しい思い出になってしまうけれども、想いは変わらず、再会を願っているというところでしょうか?

指し示されているのは、どこまでも悲劇なんですよ。でも、『壊玉・玉折編』は『呪術廻戦』全体の中でも屈指の完成度を誇るパート。
パンドラの函を開けてあらゆる災厄が飛び出してしまった後には、希望が残っているんですよね。

なんてったて、バルセロナチェアで寝こける五条から始まる以上は、きっと「別に♡」で終わるはず。

小さな小さなものだけれども希望はあるのね。だから救済はあるんです。  

ということで、アタシめは小さな希望を支えにこの悲劇を堪能いたしましょう。 

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