相方を電ノコ開頭してたと思ったら、いきなり冷凍庫みたいな場所に逆さづりにされてたハンニバルとウィル。これは、一体何じゃいな状況説明とともにヨーロッパのロマンス編が終結する第3シーズン、第7話。読み込んでまいります。
誘拐
ソリアート邸を急襲する、アタシのお気に入りなジャン・カルロ・ジャンニーニ男(役名はCommendator Benettiベネッティ警視長)に率いられたポリ公達の騒音。
カニバルとしてのハンニバルを象徴するウェンディゴの幻影が交錯する中、ウィルを開頭を始めていたハンニバルは、電ノコを止めます。ちょっと安堵したようなハンニバル。だったら、もうウィルを傷つけること自体止めればいいのに。懲りない男だねえ。
てなわけで、簡単に囚われてしまったハンニバルとウィル。
残されたジャックは、FBIだと名乗り出ますが、ジャンニーニ男は公務じゃないだろ的に相手にしません。それどころか、
「2人の懸賞金は2倍になったが、あなたに金は出てないから...ハンニバルは今回も逃げて、最後の被害者が残るって筋書ですね」なんて、部下にジャック殺害を命じてハンニバルとウィルを連れ去ります。
ジャンニーニ男も部署ごと買われて、賞金稼ぎに成り下がっていたんですね。どさくさに紛れてジャックを殺害、ハンニバルに罪を擦り付ける算段。
ジャックの命運も尽きたかと見えたところで、ポリ公達は狙撃銃に射止められる。
静観を決め込んでた千代さんが、ジャック救助に現われました。
「君が撃ったのか?」と聞かれて
「勿論。あなたはハンニバルの食卓に招かれた方、ハンニバルとウィルをご存じの方ですから」
サラッと返す千代さん。ハンニバルのしたいことは静観するけれども、ハンニバルの知己が第3者に害されるのは阻止するっていうスタンスですね。要するに正邪は置いておいてハンニバルを守るという、主家に仕える武士の鑑みたいな千代さんです。
千代さんに謝意を述べてから、「そりゃ存じてますよ。2人はidentically different異なる同一物なんですよ」と、いつもの自説を開陳するジャック。そうなんですよね。2人とも殺害しカニバルことの詩的美学に魅入られているけれども、行動パターンへの表出が正反対。異なる同一物なんですね。
「2人はどこに連れてかれたの?」
「アメリカのメリーランドでしょう。住所もお教えできますよ...(ヴァ―ジャー邸がある)マスクラット・ファームです」
そりゃ、視聴者も皆知ってますよ。メイスン・ヴァ―ジャーが懸賞金を掛けたんだから。千代さん以外は、皆知ってます。
ヴァ―ジャー家の人々の思惑
マーゴとアラーナの寝室。マーゴのケータイにハンニバル捕縛の連絡が入たようです。それを聞きながら、天井に揺らぐ影にハンニバルの面影を見出すアラーナのなんとも言えない表情。不安なのか?怖れなのか?無念なのか?長年の友人として自分をだまし続け、最後には恋人になって自分を殺そうとした男の顔。マーゴという恋人はいるけれども、憎しみや怒りに自分を駆り立てていないと、心の傷が開いてしまう。そんな複雑な心境なのでしょう。
「メイスンは欲しいものは何でも手に入れるの」と、マーゴ。
「今度はあなたが手に入れる番よ」と、アラーナ。
「メイスンはハンニバルもウィルも手に入れたわ」
「あなたのお兄さんはサディストよ」
「時間をかけて彼らを拷問して楽しむわ」
「おかげで、私達にも時間の猶予ができるでしょ」いつもの、計算高いアラーナが戻ってきました。今回は何を企んでいるのか?
一方、逆さづりのハンニバルとウィルを、見えない満面の笑みで迎えるメイスン。
「古えの安息日のようだ。救済の匂いがする」なんて、相変わらず宗教的妄想を楽しんでます。
これは、「主イエスの復活」を祝し特別な聖餐を食するキリスト教初期の安息日を指しているのでしょう。ハンニバルを食することが自分の救済になると信じているメイスンらしい言葉です。
さらに、このシリーズを通してハンニバルはキリストにも堕天使サタンにも、繰り返し例えられているのが印象的です。
「君の手下たちは私をフィレンツェで殺していた可能性もあった」と、この期に及んで余裕をかますハンニバル。
そんなハンニバルを、父の形見の豚の脂肪計測用ナイフで背中を刺して
「細身だなあ。多分、もっと太らせた方がいい」と、豚扱いしてコケにするメイスン。
刺されても声も上げないハンニバルの自制心、胆力が凄いですねえ。超人的です。
ウィルの方は薬のせいで意識朦朧。ってか、頭切られて手当もしないで逆さづりなんて、普通だったら出血多量で死んでるでしょ?まあ、またも魔術的リアリズムということで、深く追求はしませんが...
2人を豚小屋に入れるメイスンとコーデル。
「下腹部の傷つけられないように、牙には注意しないと。...グレアムさん、牙のある獣は、本能的に腹を狙ってきますから」と、妙に下半身ネタを振って来るメイスン。
自分の子を懐妊するはずだったマーゴがウィルに孕ませられたのが、余程悔しいと見えます。
「豚フェスティバルで世界中の豚の珍種を見てきたが、君たちが一番だねえ」と、豚扱いの嫌がらせは留まるとこを知りません。
とことん豚として侮辱し、苦しめてから喰い尽くす。これがメイスンの復讐。満足げに床に就く彼の元に、マーゴとアラーナがやってきます。
煩く身辺を嗅ぎまわるFBIのジャックにも恨みを持っていたメイスン。ジャックがハンニバルの最後の被害者に仕立て上げられるの楽しみにしていたようですが、生きていると聞いて悔し気。
医師の守秘義務を持ち出して、総ての事情を知るアラーナにダメ押しの口止めを測るメイスンでしたが、
「ハンニバルを殺してくれるとは有難いわ、私にも利益があることですもの。…食べ物であそぶとね、メイスン、噛みつき返される恐れもあるのよ。...ハンニバルは人を弄ぶのよ」と、いつもの通り一刺し返すアラーナ。
ハンニバル殺害は一騒動になると踏んでるのですね。それに乗じて、企んでるアラーナ。相変わらず。
にしても、ヴァ―ジャー家の内情、様々な思惑が溢れ返っているようです。
晩餐とメイスンの欲望
豚小屋に押し込んだと思ったら、今度はハンニバルとウィルに盛装させて晩餐の食卓に招くメイスン。モーツアルトのピアノコンチェルトなんかが流れて、ハンニバル邸のディナーみたいです。でも、2人に用意したスーツもゴテゴテだし、内装は金ピカだし、メイスンて趣味が悪いんですよね。ハンニバルみたいな、抑制されたエレガンスがないのね。クラウス・シュワブみたいな成金大金持ちの嫌らしさ、卑しさが詰め込まれたメイスンのゴージャス感、反吐がでますねえ。
ウィルを(喰らう寸前に)あなたから奪ってやった」と、自慢気にディナー会話を始めるメイスンに、
「君は(旧約聖書の)イザベルを思い起こさせるね。...イザベルは犬に顔を喰われたねえ、他のパーツに加えて」と、切り返すハンニバル。
イザベルは古代イスラエルの王妃。彼の地にバアル神崇拝(悪魔崇拝)を持ち込み、反乱により殺害されて死体は犬に食い荒らされたと伝えられています。聖書を果てしなく引用しながら非道を繰り返すメイスンに相応しい嫌味であり、自分の顔を自分で喰らったメイスンへの最大の侮辱です。
「救世主の復活とともにあれば、キリストがイザベルに新たな顔を与えたろう。(ウィルが)私に新たな顔をくれるように」
と、メイスンはコーデルによるウィルの顔面を自分に移植予定であることを意地悪く示唆します。
さらに、煽って来るメイスン。
You boys remind me of that German cannibal who advertised for a friend and then ate him and his penis before he died.
君らは、友人募集の広告を出して、そいつがが死ぬ前にそのペニスを喰ったっていうドイツのカニバルを思わせるね。
ここでメイスンが語っているのは『Grimm Love』の 英語タイトルで映画にもなった「ローテンブルクの食人鬼」。2001年にアルミン・マイヴェスというコンピュータ技術者が起こした実在する事件です。
事件はメイスンの話より、遥かに猟奇的。マイヴェスは「18~25歳くらいの食べられたい男性」を募集、中年ベルント・ブランデスが本気で応募してきて意気投合。ブランデスは自分から陰茎を噛み千切って喰って欲しいと所望。硬くて無理だったので切断して調理し、ブランデスの希望で一緒に食したという。とはいえ、ブランデスは大量出血で弱り切り食事が無理。で、瀕死のブランデスを同意の上で殺害して、マイヴェスは死体を冷蔵庫に保存、何か月も大事に食べていたという。
人肉を喰い尽くしたマイヴェスは翌年同様の募集をかけて逮捕され、最終的は終身刑に処せられましたが、とんでもなフェチの2人が運悪く出会ってしまい、危険なエロスとタナトスがシンクロして起きたなんともエグイ事件。
お前らホモっぽいぞっていう嫌味なんだろうけど、グロ趣味丸出しなメイスンです。
「悲惨なことに、焼き過ぎで喰えたもんじゃなかったというが、僕はあなたを食するのを、あますことなくエンジョイするよ」
「僕の面の皮をつけて、ハンニバルを食べるっていうのか?」
グロく残酷なメイスンとの会話をハンニバルは楽しんで知るようですが、ウィルの方は重なる侮辱と悪意を不快に思っている様子。identically differentの骨頂です。
ウィルはメイスンの児童虐待の件を話題にして一矢報いようとしますが、「グラハムさんはお肌が乾いているみたいだから、モイスチャラザーをお願いするよ、(コーデル)」なんて一蹴されてしまいます。
呑気に自分を食べるときのメニューをコーデルと語り合うハンニバル。
「(ハンニバルを)食べてから、パジャマパーティをしよう。その頃には、ショート下着で充分になってるだろう。…コーデルはできる限りあなたを生き永らえさせる予定だから」と、不気味なジョークを続けるメイスン。ハンニバルがギデオンにしたように、切り刻んで生かしておく以降ですね。
怒り心頭のウィルはコーデルの頬を噛み千切ります。なんで、ウィルはここで怒りを爆発させたのか?気になりますねえ。
ウィルを顔面移植の素材扱いして、ハンニバル相手に卑猥なジョークをかましまくるメイスン。
TVシリーズですと、メイスンは女性とハンニバルを前にすると下ネタが炸裂しますね。
どう考えてもファザコンのメイスンには、パパを思わせる権威の持ち主のハンニバルは性癖を擽るものがあるんじゃないかと、思うんですね。ハンニバルの傍にいるメイスンには、性的興奮が漂っていると感じるのはアタシだけでしょうか?
小説や映画ですと、顔面削ぎ落しの幻覚剤を与える時、ハンニバルは「ポッパーは好みかい?」なんて言って勧めてますね。ポッパーって、日本では「ラッシュ」の商品名で新宿2丁目界隈で販売されたりしてた脱法薬物。今でも芳香剤として販売されたりしてます。使用すると多幸感を導くということなんですが、2丁目御用達のキモは肛門括約筋の弛緩作用。ここまで言えば、何の用途かご理解いただけるかと。
だから、すすめられて飛びついたメイスンはハンニバルに色々されたかったんじゃないかと。小説のメイスンは小児性愛者設定ですし、自分もかつては愛でられる側で、それを期待してたのかなと、勘繰るわけです。
これ、ウィルとしては面白くないですね。誰かに噛みつきたくなるかもです。
いずれにしても、コーデルに噛みついたウィルはメイスンの神経を逆撫で、顔面削ぎ落しの後はすぐに豚の餌となる運命が下されることになりました。
ダイニングから豚小屋に戻されたハンニバルは、裸に剥かれ四肢を拘束されて、コーデルから背中に赤々と熱した焼印を推されます。爛れた皮膚が痛々しい。まるっきり家畜扱いです。
「本当は、メイスンは顔に焼印をおしたかったんですよ」と打ち明けるコーデル。
「メイスンには私が豚同様の経験をするのが重要なのだね」と、激痛に叫びもあげず、会話を続けるハンニバル。とんでもない痛み耐性です。
自分が痛い目に会うと弱りまくる小悪党が殆どの世の中で、ハンニバルの超人的な自制と矜持は、尊敬に値します。
対して、「減らず口が過ぎる...舌は茹でてスライスだね。...(移植手術から)戻ってきたら手足を斬ってやる。...点滴して生かしてはおくが...あんたの年季の入った肉の新しいーツをメイスンに毎日喰わせるよ。一物はウツボの餌だな」なんて、クールに対応し続けるハンニバルにあからさまな脅しをかけるコーデル。なんちゅう月並みなサディスト!こいつにも反吐が出ますよ。
マーゴの逡巡とアラーナの決意
相変わらず独占欲が強いメイスンは、マーゴにアラーナとの関係を知っていること、2人が子供を望んでも、子宮を摘出されたマーゴには産めないことを指摘します。
おしゃべりついでに、自分の精子をマーゴの卵子に受胎させた、本物の”ヴァ―ジャー・ベイビー、僕たちだけの子供"がいることを仄めかします。
勘のいいマーゴは、「代理母はどこにいるの?」と詰問。
「農場のどこかで休んでいるよ。...会うには心の準備が必要だろう。...衝撃的なであいになるから」と、勝ち誇ったように応えるメイスン。
不吉な予感に捕らわれたマーゴは、豚小屋のハンニバルに相談に来ます。結局、ここ一番という時には、ハンニバルを頼るマーゴです。
四肢と首を荒縄で結わえられ、四つ這いで身動き取れない全裸のハンニバル。ポッパー男のメイスンのことが頭にある視聴者には、侮辱的でエロい構図に見えてしまいます。
そんな状況でも、以前と変わりなくセラピー会話を繰り広げるハンニバル。マーゴは「ヴァ―ジャーの赤ん坊、私の赤ちゃん」のことをどうすべきか迷っているようです。
「メイスンはいつものように君(の権利)を否定する。彼を殺す必要があるのは分かっているだろう」と告げ、
「あなたが代わりに殺ってくれると言うの?」と、ハンニバルを信じ切れないマーゴに
「自分で殺した方がセラピー効果が高いはずだ。...君の都合がついた時に殺して、私が殺ったと告白状を書こう」なんてとこまで譲歩します。
現状打破の取引ではあるものの、マーゴの心療時から一貫していた主張を繰り返すあたり、精神科医としてのハンニバルは誠実ですね。
過去にはお互いを裏切り合って呉越同舟のはずなのに、奇妙な依存と甘やかしの関係にあるマーゴとハンニバルは不思議ですねえ。ある種、同族愛みたいなものを感じます。
アラーナはウィルと再会。いつもの救い主口調で
「あなたは自分で自分をコントロールできないから、私はその前にハンニバルにリーチをかけようと努めたよ」なんて、冷たい顔でご託を並べますが、
「(メイスンの)拷問と死に加担することでね」と、やり返されます。
「...ジャックとFBIが、救けにくると思ってたの」なんてウィルの救済は人頼みが明白なアラーナ。自分を疎外し続けるウィルとハンニバルに、良い感情はなさそうです。
「君もそろそろ進化すべきなんじゃないか、アラーナ。手を汚したらどうだい、間接的であったとしてもね」と、ほぼ死に体のウィルから忠告されてしまいます。
ハンニバルとの三角関係を経てからの2人は、友人面した仇敵みたいです。
ウィルに煽られて行動を決意したアラーナは、銃で見張りを殺した上でハンニバルに会いに来ます。見張りのポケットナイフを渡すよう言うハンニバル。
「あなたからウィルを救おうとしてきたけど、もう救えるのはあなただけ。救うと誓ってちょうだい」憎悪とも思われる表情で、命じるように請うアラーナ。自分を殺そうとしたハンニバルの裏切りが、本当に許せないのですね。
救出を誓い、メイスン殺害の現場証拠とするように自分の髪を頭の皮ごと毟り取らせるハンニバル。マーゴもそこにいるのに、メイスン殺害のための汚れ仕事をまずアラーナにさせるとは、ハンニバルはどんな時でも冷静に人間を観察し、理解していますね。アラーナの方が肝が据わってますものね。
解放された獣の業
ナイフで荒縄から自由になり、首枷を外したハンニバルはとても悪い顔をしますね。虜囚であった時には抑えていた怒りと復讐心を解放した瞬間。猛獣のハンニバルが顕現したのですね。
施術台を並べて移植手術をされようとするウィルとメイスン。
「移植するのは、君の顔に限る。いい顔だ。...君は信仰を受け入れたかい、グラハム君?」なんて、ご機嫌なメイスン。顔をそぐ痛み総て感じるようにと、麻酔薬ではなく運動能力のみを奪う薬剤をウィルに注射するコーデル。楽しそうなサディストたちと辟易するウィル。
血みどろながら着衣も済ませ、様子を伺うハンニバル。
顔面引きはがし手術を見守るウィル。
農場の一室。眠る雌豚の子宮に人間の胎児が格納されているのを知るマーゴとアラーナ。代理母は雌豚だったのです。
Is he alive? その子は生きてるの?
悩ましげに尋ねるマーゴ。
しっかり人型になっているのに、胎児心音はありません。成育していない胎児を、保存しているだけなのですね。豚の子宮で人の胎児が成育するのは無理でしょう。
死んでる胎児のことを生きてるかのよう告げたのは、マーゴに発見させて嫡男がいない哀れな女の運命を再度自覚させるためだったのでしょう。どこまでも残酷なメイスン。憎いメイスンの子だけれども、我が子でもある。マーゴの苦しみを思うとやるせない。
Take it out. Take it out!
残忍な所業に涙目になりながら、胎児を取り出すようアラーナに命じるマーゴ。
ここで、マーゴが胎児をhimではなくitと呼びますね。胎児が我が子から死んだ物になる瞬間でしょう。
心音のない胎児を抱くマーゴとアラーナ。なんとも痛ましい場面です。
それぞれに、復讐の意志をさらに固めたことでしょう。
麻酔から目覚めたメイスンがコーデルの名を叫びますが、鏡に映した新しい自分の顔はウィルではなく、コーデルのもの。その新しい顔面すら、デロッと剝がれていきます。
コーデルはハンニバルに始末され、施術者から移植素材になってしまったのですね。
解放されたハンニバルが天誅を下す!目には目を、残忍には残忍を。実にハンニバルらしい手口です。
宴の後の生死
雪原。ウィルを姫抱っこしたハンニバルが歩いていきます。その命を狙う追っ手を千代さんの狙撃銃が倒していく。
ハンニバルはウィルを守り切り、ハンニバルが危機に陥るとどこからともなく現れ、救出に来る千代さん。千代さんだけヒーロー映画の世界に生きてるみたいでカッコいい!
このシーンの撮影、大変だったと思います。ハンニバルを演じるマッツ・ミケルセンが元ダンサーで怪力なのは分かるんですけど、踊りでガンガンにリフトをキメられるのは、バレリーナさんが体幹を引き締め、引き上げてポーズして、場合によってはジャンプをしてくれてたりするので上方向の力が働き、運び手にとって実際の重量より軽くなるからなのです。
このシーンだと、公表178cm/73kgの男性が脱力状態なわけですから、73kgの砂袋を抱えて歩くのと同じ大変な力技。リテイクが何回もあるから、疲労困憊のはず。
ウィルとハンニバルのロマンティックな関係性を表現するために、俵抱きとかしないで姫抱っこにしたマッツのプロ根性。感動です。
コーデルを呼び求めるメイスンの元にマーゴとアラーナが訪れ、コーデルと手下の死、ハンニバルの逃走を告げます。
「代理母はみつけたわ。あなたが私にくれるって約束したものは、いただくわ。必要なものは全部あなたから手に入れたし」恨めし気に言い放つマーゴ。
嫡男がいなければマーゴに遺産は残らないという脅しをメイスンはかけますが、
「牛追い棒で前立腺を刺激したらどうなると思う?」
ポッパーネタに近い話題が戻ってきました。ハンニバルが人工授精用の精子をメイスンから採取したことを告げ、体液がたっぷり入った試験管を憎々し気に見せるアラーナ。
アラーナの顔付がどんどん敵役みたいになってくのが、大迫力ですねえ。
アラーナを銃で撃とうとするメイスンに飛びかかるマーゴ。床下のガラス張り水槽に落下するメイスン。もがくメイスンを押さえつけるマーゴとアラーナ。息をしようと開けたメイスンの口に入っていくペットの巨大ウツボ、原作に近いグロい死に方。
豚の品種改良や実妹への仕打ちで生殖という行為を嘲り、弄んできたメイスンが前立腺刺激で精子を奪われ、ウツボとの疑似セックスのような形で殺される。とてつもなく因果応報で大満足な死にざまです。
千代との別れ
雪原の朝をウィル宅のテラスで迎えるハンニバル。その傍らには千代がいます。
もう城には帰らない意志の千代ですが、ハンニバルのことはこれからも見守るという。
「籠には入れないわ。閉じ込めたらいけない獣もいるでしょ」
千代はハンニバルのことをよく分かっていますね。多分、彼は閉じ込めても意味がない。小説では、獄中のハンニバルが言葉巧みに受刑者を死に至らしめる描写がありました。閉じ込めても、意味がないのです。
「(ミーシャ)を食べたの?」という質問に「食べた。でも、殺してはいない」と答えるハンニバル。さらに、彼は続けます。
The most stable elements, Chiyoh, appear in the middle of the periodic table,roughly between iron and silver.
最も安定した元素は、千代、周期表の真ん中、鉄と銀の間辺りにある
これは、原作にもあり論議を呼ぶセリフです。科学的な整合性はありません。原作ではクラリスにかけた言葉で、貧しい労働者階級の出自(鉄)と否めないエレガンス(銀)の間に成立する彼女の動かしがたいパーソナリティを暗に示しているという解釈などもあります。ここでは「それが君には相応しい」というハンニバルの言葉が続くので、鉄格子とエレガントな生活(銀)の間で揺れ動くハンニバルを、どちらにも影響されない中庸の場所から監視し続ける、ハンニバルの人生にとって不変の存在が千代であると言っているのだとアタシは考えとります。
そして、この謎めいた一節が、2人の長い別れの言葉となったのです。
博士が求めた数式、ウィルとの別れ
いつもの壊れたティーカップのイメージの後で目覚めるウィル。室内に戻り、ベッド脇に置いていた手帳を手に取って傍らに座るハンニバル。
「ティーカップと時間の話でもしようか?それから無秩序の法則について」
手帳には数式のようなものがビッシリ書き込まれています。
この手帳と壊れたティーカップの話は、強く結びついています。マッツと製作総指揮のブライアン・フラーは、ここに書かれているのは時間を巻き戻す数式だと言ってます。
「重力は時空を歪ませる」という一般相対性理論の「重力が大きい場所では、小さい場所よりも時間の進行は遅くなる」ということは実証済みですが~~
量子物理学になると、「陽電子は反物質であり、時間を遡る」なんて考えも出てきております。この現象が観察されたという報告をどこかで読んだことはありますが、この現象が数式化されているというニュースや論文などは目にしたこともないので、ハンニバルは一晩中、あり得ない時間遡行の数式を求めていたということでしょう。。
「ごめんね。私の行為は間違いだらけだった。できることなら時間を戻して、もう一度君とやり直したい」なんて素直な言動は、死んでもできないハンニバル。あり得ない数式を説くことで謝罪に代えているわけです。
そんな自分勝手な言動を許せる人なんていませんよ。だからウィルは
「ティーカップは壊れてしまった。もう元には戻せない」と、すげなく言い放つ。
Not even in your mind?
君の精神界でも無理かね?
Your memory palace is building. It's... full of new things.
君の記憶の宮殿は建築中だ。...沢山の新しい経験で一杯になって
It shares some rooms with my own.
私の宮殿とも共有の部屋がある。
I've discovered you there, victorious.
その部屋で、私は勝利に輝く君を見つけたんだ。
諦め悪く食い下がるハンニバルですが、ウィルの拒絶に打ちのめされて涙目になってるようです。マインドコントロールなんかせず、最初から正直に心情を吐露してればよおかったのに。ハンニバルは知性と教養に溢れた、救いがたいアホウです!
「僕たちの間には、決定的勝利なんてありませんよ」
「ゼロサムゲームだね」勝利者のいない得失点0換算のゲーム。相次ぐ拒否に、今度は経済学用語で追いすがるハンニバル。懲りないなあ。
確かに、ハンニバルは法規も超えて命がけでウィルを救ってきました。でも、それ以上に裏切り、苦しめて来た。ウィルも遂に決定的な別れの言葉を口にします。
I miss my dogs. I'm not going to miss you.
犬がいないと寂しいけど、あなたがいなくても寂しくない。
I'm not going to find you. I'm not going to look for you.
あなたを探さないから見つけることもない。
I don't want to know where you are or what you do.
あなたがどこで何をしてるかなんて知りたくない。
I don't want to think about you anymore.
もう、あなたのことは考えたくない。
You delight in wickedness and then berate yourself for the delight.
あなたは邪悪に喜びを見出し、そんな自分を咎める。
You delight. I tolerate. I don't have your appetite.
あなたは歓喜し、僕は耐える。僕にはあなたみたいな食欲はないんだ。
Goodbye, Hannibal.
さよならだ、ハンニバル。
言葉は冷たいけれども、ため息を付きながら辛そうに語るウィルも目が潤んでます。
ハンニバルを追ってヨーロッパまで行き、裏切りへの怒りや疑いに苦しみ、殺したいと思っても殺せず、反対に殺されそうになり、ハンニバルの因果が導く暴力沙汰にどうしようもなく巻き込まれていく。どんなに好きでも一緒にいたら幸福は望めない相手。ウィルも傷ついているのですね。別れるしかないことに傷ついている。
それに、ハンニバルを逃したいから心を鬼にしているのでしょう。
時間が巻き戻らない限り、2人に未来はないのでしょうか?
勝ち誇った投降
ハンニバルが立ち去ったと思われる真っ暗な夜、ジャックとFBIが漸くウィル宅を捜索に来ます。
「あの人はもういないよ」と迎えるウィルの言葉に
「ジャック、私はここだ。とうとうチェサピークの切り裂き魔を捕まえたな」と出て来るハンニバル。
「私が捕まえたんじゃなく、君が勝手に投降したんだ」と、呆れるジャック。
「私がどこにいるか、どこで私もみつけられるか、いつも君に分かってて欲しい」と、勝ち誇ったようにウィルに語りかけるハンニバル。
監獄に入っていれば、居場所はいつでもわかりますから、ウィルの思いへのとんでもない当てこすり。別れないぞな意志満々。
今度は、ウィルが打ちのめされる番。打ちひしがれて家の中に引っ込むウィル。何一つ、思いは叶わなかったのですね。
自首することでウィルを逃さず、ゼロサムゲームを続けようとするハンニバル。悪女の深情けってやつですか?業が深すぎる男の恋路は実るのか?
なんともやるせない、ミッドシーズンのエンディングでした。