エンタメ 千一夜物語

もの好きビルコンティが大好きな海外ドラマやバレエ、マンガ・アニメとエンタメもろもろ、ゴシップ話も交えて一人語り・・・

ハンニバル3.05 それぞれの罪と罰 『コントルノ』深読みネタバレ

因果応報の理を奸計で逃れて来たハンニバル。対して、無礼という罪で多大な罰を与えられてきたハンニバルの被害者たち。そのダイナミックスが狂いだすシーズン3第5話。だんだん明らかになって来た、ウィルの果てしない悪意にも応報が...。

 

 

千代に向けるウィルの悪意

大陸横断列車のコンパートメント、千代がウィルに懐かしそうに昔語り。樹皮を燃やしたその香りで樹木を中てるハンニバルとのゲーム。ハンニバルは「幼い動物みたいに可愛かったけど、ネコ科の猛獣になってしまった」と、メランコリーに浸っています。「大きくなったら、一緒に遊べないような猛獣だね」と、皮肉を返すウィル。

マーゴやアラーナとの件以来思うのですが、ウィルはハンニバルと親しくしていた女性に、冷たいですね。決して彼女たちに同調しない。

千代に関しては囚人を殺すように仕向けたり、意地悪を超えた犯罪的悪意をのぞかせています。千代もウィルを信じてはいない。むしろ敵愾心を持っているように見えます。なんで一緒にいるの?な2人です。

ハンニバルと出会った経緯を聞かれて、千代はレディ・ムラサキのところに行儀見習いの小間使いとして預けられ、「ハンニバルからも多くを学んだ」と答えますが~~

「あの人、最初は指導者の振りしてるけど、人の苦しみを楽しんでるだけなんだ」と、ウィルはハンニバルと他者の関係性を全否定。

「私は苦しんでないわ」と反論されると
「今はね。君は命を奪うに当たっての厳格なルールを誇示してたけど、それを破っただろ。それは心に残ってる?あいつ(囚人)を殺すのを何度も何度も追体験したりする?」と、とんでもなく意地悪な笑みを浮かべて問い続けます。

ハンニバルに唆されたも同然の初めての殺人、ホッブスを殺す感触をウィルは何度も追体験、幻視して、苦しんでた。千代にも同じような経験をさせたいのですね。

「見えるのはあなたよ」と、千代はウィルのせいで原則を破ったことを示唆します。千代さんは、手ごわい。ウィルごときのマインドコントロールには乗りません。

殺人を犯させたり、ハンニバルを恨むよう誘導したり、ウィルの行動はハンニバルの摸倣犯のようです。でも、ウィルの手口は底が見え見え。
ハンニバルもご都合主義ではあるけれど、もっとエレガントに誘惑的にマインドコントロールしてきます。真綿で首を絞めるみたいにね。

 

どうしてハンニバルがフィレンツェにいると分かったのかと聞かれて、「ボッティチェリだ」と得意げに『プリマヴェラ』の絵葉書を見せてくるウィル。

僕の方があの人のこと分かってる的なマウントですか?そんなの、パッツィ捜査官に教わったんじゃないですか?視聴者も皆気づいてますすよ。最初からフィレンツェ行けばいいのに、ハンニバルの故郷に出向いたんでしょう。で、千代に出会って、ご機嫌斜め。なんか、分かり易い嫉妬深さなんですよね、ウィルって。

 

「イタリアに行ったことはないの。想像もしなかった。鳥たちは毎日何千もの蝸牛を食べるけど、中には消化されずに生き残って外に出てきて、世界を旅したことに気づくのもいるの」と、我が身を蝸牛に比肩する千代。
ハンニバルと自分が、捕食者と餌であることに気づいている聡い千代。

「あくまで猛獣の腹の中だよ」とダメ押しするウィル。千代に意地悪なくせに、自分と同じ被害者仲間にしたいんだね。
千代をハンニバルの特別じゃなく、せめて自分と同一線上の被害者にしたい
ってことですかね。性格悪いねえ、知ってるけど。

 

べデリアとハンニバルの優雅な生活 

社内のシーンに続くのは、ウィルが蜻蛉の飾り物にしたた男の死体とその上を這うねっとりした蝸牛の大写し。蝸牛と言えばハンニバルとべデリアの官能的な生活。

 

しどけない姿のべデリアと半裸のハンニバルが、夜景を見ながらエスカルゴを堪能しています。多分、ワインはバタールモンラッシェかな。なんて羨ましい美食生活。

子供の頃は蛍を捕まえるために蝸牛の養殖場所を造っていたというハンニバル。

Their larvae would devour many times their own body weight in snails.
蛍の幼虫は自身の身体の重みを蝸牛の中で喰らう。

Fuel... to power a transformation into a delicate creature of such beauty.
なんとも美しい、繊細な生物の変態を生み出す燃料として。

一体何の話をしているのでしょう?蛍の生態をご存じの方なら分かるのですが~~。蛍の成虫は水しか飲みませんが、幼虫は淡水の巻貝などを餌とします。それが、ハンニバルの城では蝸牛だったのですね。さらに「ホタルの幼虫は消化液を出し、餌を体外でで溶かして肉汁にして啜る」という定説が長年信じられていました。このことを、ハンニバルはお得意の難解な言い回しを使って、話していたのです。

餌を摂るのは生物として必須な行為ですが、生きた餌を溶かしながら啜っていくというのは、実にハンニバルらしい残忍なイメージ。他者を犠牲にして成長したハンニバル自身のイメージにも繋がります。
蝸牛の不幸に乾杯するべデリア。

本能のままに生きる昆虫や貝類に比較して、そうできないウィルが話題に上がります。

「昆虫には苦悩の種となるモラルがない。ウィルは不可避な変化に苦しんでいる」と語るハンニバル。アラーナや千代との応対でも分かるように、ウィルはハンニバルに近い存在、人心操作に巧みな殺人者になり始めているようです。先ほども述べましたが、自分の中にあるハンニバルのイメージを模倣する衝動に駆られていると、私には見えますが...。
それでも、変態には痛みが伴いますかと。そこを語っているのでしょうか?

「本能は抑圧できる。牧羊犬は羊を襲わない」とべデリアは主張しますが、
「本当は襲いたいのだ。ウィルのモラルは、もはや唖然とするような状況にある」と、ウィルの変容に自信を持つハンニバル。

「様々な意図の出入りを追い続けると、あなたが座してウィル殺害を待っている間に、彼はあなたを殺しにやってくるということになるわ」と、ウィルの変容にはハンニバルへの殺意が先行することを指摘する、策士のべデリアでした。

 

ジャックの門出とパッツィの思惑

フィレンツェ。サンタマリアデルフィオーレのドゥオモとヴェッキオ橋を望む、その隣の橋。ということは、多分、グラツィエ橋の欄干からベラの遺灰をアルノ河に撒き、ついでに結婚指輪も投げ捨てるジャック。
指輪が、どうも第4話と違う気がするんですけど。あの時のは普段使いの薄い指輪を嵌めてるように見えたんですけど、今回のは超肉厚。ブーっと遠投するには重さが必要なんですり替えたんだなと解釈する視聴者です。

指輪の真贋はどうあれ、ベラに会って恋に落ちたこの街で、この河に遺骨を流して、ジャックはベラに囚われていた人生に決別したのですね。新しい門出ですか?変わり身早いよ、この親父。

 

で、早速パッツィ家のディナーに招かれてるジャック。

パッツィは年の離れたアレグラと新婚ほやほや。自慢の妻を見せたかったのでしょう。若く美しい妻に何でも与えたい、イル・モンストロの件で土がついた捜査局での汚名を挽回したい、地位と財力を取り戻したいというパッツィ。そのために、パレルモまで出向いてのハンニバル捜索でした。

パッツィもハンニバルにしてやられた被害者というわけです。でも、この役者さんだとパッツィが体験しているのはミッドライフクライシス(中年期の精神的危機)に見えてしまいます。

映画『ハンニバル』でパッツィを演じたジャンカルロ・ジャンニーニの役作りの足元にも及ばないなあ。あの人のは狂的愛の悲劇だったと、過去の大スターを惜しむ視聴者。ジャンニーニは揺れる眼差しで、愛に病む男を演じたら随一でしたねえ。映画『イノセント』で妻の不倫に嫉妬して、不義の嬰児殺しに及ぶ貴族役なんて、ゾクゾクしましたよ。そんなジャンニーニのパッツィは、アンソニー・ホプキンスのハンニバルよりも圧倒的に魅力がありました。

まあ、TVドラマではウィルとハンニバルのイケオジっぷりが売りなので、この程度のパッツィで良いんでしょうね。

 

アラーナの捜索方法

場面変わってヴァ―ジャー邸

フランスの名店クリストフルのヴィンテージ銀器やらダマスク織のリネンやらティファニーの食器を並べて、アラーナがハンニバル邸のテーブルセッティングを再現、メイスンにプレゼンしています。

文句のつけようがないハンニバルの美意識の開陳ですね。この素晴らしい美食家の食料購入パターンを追えば、彼の居所を突き止められるというわけです。

「君もあの人の好みだな。…君の味わいはどんなもんだろう。スイートに違いない」と、どこまでもゲスいメイスンの嫌味。そんなものにはビクともしない強健アラーナ。

フィレンツェの高級食料品店に、毎週バタールモンラッシェと白トリュフを買いに来るブロンド女がいると突き止めたことを報告します。

 

その食料品店に現われたべデリアのカットが挿入されます。総てはアラーナの読み通り。お見事ですアラーナさん。裏切られた女の執念は怖い。

かつまた、このドラマの女達は強く聡く逞しい!いいですねぇ。

 

ウィルの罰と幻想

コンパートメントの寝台の上段に、何故か半裸で横たわっているウィル。ローブを纏って下段を使う千代。
節約のため、2人で1つのコンパートメントを使うというのはあるでしょう。でも、何で上半身裸なの?いつも、半袖Tで眠ってたよね。どういう意図なの?さんざん侮り、嘲ってきた千代に、今度はセクシュアルなニュアンスで接したいのでしょうか?と、疑う視聴者。

ハンニバルの信奉者である千代を誘惑したい気持ちはあるでしょう。だって、アビゲールもアラーナもマーゴも、彼はハンニバルに奪われた形ですから。ハンニバルのものは盗りたいでしょう。仕返ししたいでしょう。
でも、君に誘惑は可能なのか?ウィル・グレアム。 

 

長年独りで隔絶した城に住んでたので、「自分の頭の中にあるわけじゃない他人の声を聴くのに慣れてない」と言う千代に、質問します。
「鈍痛のように単調な毎日で、幻覚も見るようになった?君自身の変容とか」
一人ぼっちの生活で、幻聴や変容の幻覚に悩まされてたのはウィルですね。まだ、被害者ごっこしたいんですね。千代との共通点を探したいのか、相違点を見つけて線引きしたいのか?微妙なウィルです。

「私には変容なんてなかったわ。剥製みたいに静止状態だったの」
臓物を抜かれ、別の物を詰め込まれて」と、ウィルはいつもの嫌味を言い始めます。千代をハンニバルに人生を変えられてしまった仲間にしたいのですね。
別の物ではないわ。私はあなたみたいにチョロくない。必要な時には凶暴になれる
ついに、千代さんの巻き返しが開始しました。確かに、シーズン1のウィルはチョロかった。
「あの人を殺さないと、あの人になってしまうんじゃないかって、あなた怖れてるでしょう」

ご明察です、千代さん。ウィルの意地悪が不安に基づいたものだと、見抜いてるんですね。そして、謎のような一言を告げます。

There are means of influence other than violence. 
暴力の他にも、影響を与える手段はあるでしょう。

そうですねえ。暴力とか憎しみや恨み、侮蔑とかも人に影響を与えますが、相手にとっても自分にとっても良い結果は生まない。それより敬意や思いやり、愛の影響は遥かに深く、長く、相手も自分自身を救いますよねえ。でも、自分を被害者だと思っている限り、そのような啓示に辿り着くは酷く難しいのです。

 

夜は深まり、死体のように見える千代の顔のアップ。ウィルの夢でしょうか?ウィルは千代を死体のように感じているんですかね。

ウィルが目覚めると、千代がいない。何故かスーツでめかし込んで捜しに出るウィル。列車の最後尾のバルコニーにローブ姿で立ち、景色を眺める千代の述懐。
「夜が好き。...昼とは全然違う世界になるから」
「僕達も昼とは異なる存在になる。より隠された、見えない存在に」
なんて、口説き文句のようなことを言い出すウィル。ウィルってそういうとこありますよねえ。女性の傍にいて、何げなく懐いてて、自分からは行動を起こさないけど、誘うような言葉を吐くんですね。
「何であの人を探してるの?何を期待してるの?」
誘いつつ詰るっていうか、ウィルらしい会話パターン。
「探してないわ。ハンニバルがどこにいるか分かってるもの」と、またも見事なカウンターをかます千代さん。そうなんでしょうね。ハンニバルの裏も表も、銀行の裏口座も含めて知ってるんでしょうね。

「言ったでしょう。暴力以外にも影響を与える手段はあるって」と、千代さんはウィルにやさしく接吻します。そのうえで、
「でも、あなたが理解できるのは暴力なのね」と言い放って、走る列車からウィルを突き落とします。

またまた、お見事です、千代さん。物欲しそうなウィルの虚をつくには接吻が、誘惑が効果的。さらに暴力以外の手段として、色事があることを教えるにも効果的

さすがに千代さんハンニバルの、本当の一番弟子だけありますねえ。ハンニバルに対する憎しみを植え付けようと唆すウィルに、見事な罰を与えました。

突き落とされたウィルはというと、何故かクルリとバック転して線路に落ちて気を失っているようですが、例のカラスの羽をもつ雄鹿の鼻面に突かれて起き上がり、雄鹿を追ってフラフラと歩き出します。

 

走る列車から突き落とされて、かすり傷だけですぐ歩き出せるんですか?で、雄鹿に助けてもらうんですか?シュールですねえ。似たようなことがありはしたけど、今回はシュール過ぎます。スーツに着替えてるのも妙だし...。視聴者に見えているのはウィルの幻覚なのかもしれません。

ウィルに関しては魔術的リアリズムってことで、現実には何が起こっているのかとか考えることをあきらめた瞬間。心理的なリアリティだけ追っていこうと決意した瞬間でした。

 

パッツィの企み

一方、パラッツォのライブラリーにフェル博士を訪れたパッツイ。ソリアート教授失踪事件に関しての捜索ですね。フェル博士ことハンニバルが、どうも、ソリアートと最後にコンタクトした可能性がある人物ということで、事情聴取に来たと。

探りを入れるパッツィですが、軽くいなされた上に
「パッツィとは、あのパッツィ家のことですね?」と、反対にハンニバルから問われます。 

「サンタ・クローチェ教会のお宅の礼拝堂にあるルカ・デッラ・ロッビア作のテラコッタに描かれた(聖人の)一人に似ておられますねえ」なんて、ちょっとお世辞めいたことを言われ、
「アンドレア・パッツィをモデルにした洗礼者ヨハネでしょう」なんて気をよくしていると、

「一番悪名高いパッツィは、(メディチ家の)ロレンツィオ・イル・マニーフィコ暗殺を企てたフランチェスコですね」なんて突っ込まれてしまいます。

名門パッツィ家最大の汚点というべき陰謀事件。その惨たらしい処刑は有名ですから、ああ、映画でも名高いあのやり方で殺されるのね。ハンニバルなんかに近づいたらダメじゃんと、先読みする視聴者です。

※メディチ家とパッツィ家の陰謀は第2話のところでしつこく語っておりますので、ご興味をお持ちの方はこちらをご覧ください。

若い頃のハンニバルの顔写真を持っていたパッツィですから、フェル博士がハンニバルとすぐ気づいているはず。捜査本部に戻って切り裂き魔手配写真など開き、現在の顔付を確認したりしてます。
でも、上司に報告しないんですね。

その代わり小銭をたっぷり用意して、公衆電話でどこかに連絡をする。初めから自分のケータイとか使って、足が付くのが嫌なんですね。電話相手も身分を名乗らない。
ハンニバル情報の懸賞金の話しをしてるから、相手はヴァ―ジャーのエージェントでしょうか?「懸賞金なんて国際法協定違反だから、ジュネーヴの弁護士に連絡するように」なんて伝えてきます。随分慎重ですね。。相手もプロですねえ。
この秘匿性の高さを見るに、パッツィはハンニバルをヴァ―ジャーに売るコンタクトをしたのが、よく分かります。もう怖いよ。ヤダヤダ。

 

パッツィの処刑

フェル博士ことハンニバル邸。
いつもの、”ピアノよりハープシコードが好き論”のついでに「ピアノには思い出のクオリティがある。今日は思い出のクオリティだ」なんてほざきながら、ハンニバルは流暢にモーツァルトのピアノソナタなんぞを弾いています。

パッツィの来訪をべデリアに告げ、「若い頃にボッティチェリ愛を共有して、ウフィツィ美術館の『プリマヴェラ』の下で相見えた」なんて言ってますから、パッツィがイル・モストロの件で自分を捜索していたことを覚えているんですね。

パッツィが自分に気づいていること、再会の時点では、どうすべきかまだ決断できていないことにも気づいている。

べデリアは、「誰かがハンニバルの首に懸賞金をかけている」と告げる。全部お見通し。侮れないカップルです。

軽快なピアノソナタが、なんとも不釣り合いな雰囲気です。

 

ガセネタではないとヴァ―ジャー側から信頼されたらしいパッツィは、TV電話でメイスンと対面。メイスンはハンニバルの生け捕りに300万ドル、前払金10万ドルを約束しますが、それには確たる指紋提出が必要と要求します。
ハンニバルがフィレンツェにいると掴んでいるわけですから、居場所を確定したいヴァ―ジャー達。強気です。

アラーナも加わって「それはハンニバルを拷問と死に追いやることだってご承知?」なんて脅しをかけて来ますが、パッツィは、不法行為がフィレンツエで起こらなければOK的な、覚悟を見せるだけ。
ハンニバルの危険度と凶暴さを知っているアラーナとメイスンは、パッツィがハンニバルに殺されることを見越しています。逆に、パッツィが虐殺されれば彼の捜索個所にハンニバルがいるということ。300万ドルの無駄払いも起こらない。

アラーナとメイスンのペアも、侮れません。

 

パラッツオ2階にあるライブラリーを再訪するパッツィ。封建時代の拷問具コレクションが好きなハンニバルに、 先祖伝来のscold's bridleを持ってきます。

scold's bridleって、何と適切な訳語がないんですね。エピソードを見た方には鋼鉄製の顔面拘束器具だと分かって頂けるますが、「叱責の手綱」なんて直訳は意味不明です。

奴隷だの魔女と判断された女性を辱めるために考案された器具だそうです。現代はBDSMでも使用されてますので、我が国のBDSM界のボキャブラリー増殖にもっと務めていただきたいなあと、界隈の方々には願います。

白ワインと相性抜群の洋梨をナイフで嗜んでいたハンニバルは興味深々。早速検分を始めますが、玄人らしくゴム手袋を嵌めてしまう。その手袋を盗むパッツィ。さらに、ハンニバルが離れた隙にナイフも盗みます。

このシーンのBGMはロッシーニのオペラ『泥棒かささぎ』の序曲。銀食器を盗んだと冤罪をかけられた女中奉公のヒロインに、主家の恋人やら横恋慕の代官やらが絡んで、あわや死刑の大騒動、最後に犯人は鳥のかささぎと分かってハッピー・エンドみたいなお話。パッツィが泥棒かささぎっていう皮肉でしょうか。洒落てますね。

 

ハンニバルは、陰謀に失敗して捕えられ、腹を斬られて腸を垂らしながらヴェッキオ宮殿の窓から吊るされて晒し者にされたフランチェスコの浮彫をパッツィに見せます。「他の奴らは腸を出していなかったが」と、付け加えて。

この処刑の様子は、ボッティチェリが克明なフレスコ画を描いていたそうですが、この後メディチ家が追放された際に廃棄されてしまったとのこと。レオナルド・ダ・ヴィンチが遅れて処刑された郎党ベルナルド・バンディーニの素描を残していますが、これを見ると腹を斬られた様子はない、ただの絞首刑の晒し状態。いつもながら正確なハンニバルの知見のお披露目です。

ここまで来ると視聴者は映画の名シーンへの期待が、さらに高まります。

 

パッツイ家では、  夫の安否を気遣う新妻とジャック。

 

期待を裏切ることなく、パッツイはハンニバルに気絶させられて、台車に縛り付けられる。首に縄を巻かれるパッツイ。歴史的場面再現の機会を与えられたハンニバルが、カニバリストとはいえ、臓物喰らいなんて誘惑に負けわけがありません。

アタシ的には、ハンニバルは何よりも芸術愛好家なんです。

「あなたは私をヴァ―ジャーに売ったね」と問い質すハンニバル。さらにフィレンツェの捜査本部には情報が洩れていないことも確認します。

そこに響くパッツィのケータイの音。電話を掛けて来たのはアラーナ。「ハロー・アラーナ」という、ハンニバルの冷たい声にアラーナは震え上がります。
パッツィの生死を確かめようとする通話を、サックリ切ったハンニバル。

「腸は出しとく?しまっとく?出すだな」と言って、パッツィを首から下腹部まで切り裂き、2階の窓から突き落とします。
フランチェスコの処刑図再現が果たされました。ってことで、ルネサンスヲタは大喜び。

 

ハンニバルに下された罰

ですが、ここでハンニバル大勝利とならないのが第3シーズン。多分、奥方の心配に動かされてパッツィを探しに来たジャックが処刑シーンを見ていたのですね。

反射的にハンニバルを追うジャック、逃げようとするハンニバル。第2シーズンから恒例のハンニバルvsジャック、即ちマッツvsローレンスのファイトシーンを視聴者は期待するのですが~~、そうはならない。

『泥棒カササギ』のレコードをかけて靴を脱ぎ、気配を消して忍び寄るジャック。ハンニバルの戦法をよく学習して自分のものにしていますね。さすがにファイターなジャックです。
こうなると、体格差から圧倒的にジャック有利。隙をついてハンニバルに掴みかかり、ガラスの拷問具展示ケースにハンニバルを投げつける。ガラス片で傷だらけのハンニバルを殴る蹴る、ヘッドバット、車裂きの車輪で腕をへし折るような間接外し。
ジャック無双状態ですぅ!
おまけに、分銅鎖の先端に使うような三又の分銅というか鎌というかな、エグい鉄器でぶん殴り。

不思議なんですけど、ハンニバルはジャックを迎え撃つ用意もしてないし、反撃もせずグッタリしたまま。うらめしげに睨みつけて嫌味を言うばかり。
I brought Bella back from death and you returned her to it.
私はベラを死から連れ戻したが、君は死へと送り返した。
Is that where you're taking me, Jack?
私のことも死へとおくりたいのか、ジャック?
How will you feel when I'm gone?
私が死んだら、君はどう思う?

ジャックにしてみれば、ハンニバルは殺人鬼のくせに親友面でベラの生死に介入してきた。ジャックを殺そうとしたくせに、ベラの葬儀には愁傷気にお悔やみを贈ってくる。腸の煮えくり返るような裏切り者です。
なんですけど、このジャックの乱暴狼藉に殺意は感じられないんですね。鋭利な三又を手にしているんだから、ぶん殴る代わりに急所をブッ刺せばハンニバルも瀕死になるでしょう。状況的にジャックの正当防衛も通る。

なのに、ジャックは動物的な怒りを爆発させているだけに見えます。

ハンニバルも必殺の反撃の代わりに、友人としての自分を強調して、いなくなったら寂しいだろう的な恨み言を口に出すばかり

 

『水物』のアビゲール殺害後、ハンニバルはジャックを殺す僅かな余裕があったのに、最後のとどめを刺さなかった。だから、あれは自分を裏切った親友への懲罰

この2人は、多分、友という絆に未だ囚われている。だから一層、ジャックはハンニバルが憎い。でも、懲らしめたいので殺したいわけではない。
ハンニバルも敢えて罰を受けることで、謝罪の意を表したい。

アタシには、そんな風に見えてしまいます。

 

だから、三又の殴打で2階から突き落とされたハンニバルはパッツィの死体を伝わって逃げてしまう。

拳で決着をつける男の友情の美学というか...。

ハンニバルとジャックも、なかなかにややこしいペアだなと思いました。ハァ...