エンタメ 千一夜物語

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マッツ・ミケルセンは『ファンタスティック・ビースト3』を救えるのか?

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物語の核となるゲラート・グリンデルバルド 役のジョニー・デップが"家庭内暴力男"の汚名返上裁判に敗訴してワーナー・ブラザースから切られ、後釜にマッツ・ミケルセンが決まって、「マッツの方が適任」とか「ジョニデに失敬だからボイコットする!」とか、ファンダムを騒然とさせている『ファンタスティック・ビースト』の第3弾!

マッツファンとしては、マッツのしどころがどんだけあるのか、シリーズを振り返ってみるかと…

 

 

中途半端な映画なのよね

 ハリー・ポッターシリーズからは落ちるけど、第1弾『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』が約8億ドル、第2弾『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』が約6.5億ドルと、圧倒的な興行収入でワーナーのドル箱になってるシリーズですが…

 

ターゲット年齢が、まず不明かなあと。

ハリー・ポッターシリーズに馴染んで大人になった世代と今シリーズを読んでる、見てる子どもたち。その両方を囲い込もうとしているはよくわかるのですが。それがキビシイですかと。

エディ・レッドメインが演じるニュート・スキャマンダーと魔法世界の動物たちが繰り広げるコミカルで心温まる世界とグリンデルバルドが潜む闇の世界が水と油みたいに分離してしっくりこないんですね。ハリー・ポッターシリーズは児童文学の枠内で巨悪や黒魔術を扱っているので、全体がまとまってるんですけど、ファンタビだと、児童向けファンタジーと大人向けダークネスが分離してしまい、どっちも中途半端になっていますぅ。

 

第1弾などは特に、ニュートの世界が好きな人と、クリーデンスの世界が好きな人とがパクっと分かれて、熱狂的なファンダムが育ちにくい感じがします。

 

アタシがファンダムの強度の指針としているAO3の第2次創作数をみると、ハリー・ポッターシリーズのペアは万単位、ドラコ/ハリーペアは全体の5位という凄い数字なのに、ファンタビのペアってtop100に入って来ない。熱狂的なファンは少ないちゅうことですね。

 

エズラ・ミラーだから見てました

そんな悪口言ってる割には詳しいと批判されてしまいそうですが、アタシはエズラ・ミラーの出てくる映画は、見てしまうんですね。

どう見ても薬物ハイな感じだったり、女性ファンと暴力沙汰とか、いつも身辺がケタタマしい感じなのですが、役作りにはクルものがある。

ライオネル・シュライヴァーの小説を映画化した『少年は残酷な弓を射る』。肉親すら愛せない時限爆弾状態で、最後には父親と妹を殺して、通ってる高校で銃撃事件を起こして大量殺人に至るケヴィン少年のイッチャッてる感とか。世界でただ一人自分を理解しているがゆえに、自分を愛してくれない母親(ティルダ・スウィントン)との根深い情念の駆け引きとか、10代なのにスゴイ役者だと思いました。

かと思えば、スティーブン・チョボスキーの青春小説の映画化『ウォールフラワー』では、風変わりで目立ちたがり屋だけれども、実はキビシイ恋愛環境でもポジティブに生き続けるゲイのパトリック少年とかを瑞々しく演じたりして好感度大だったり。

あと、所属バンドのSons of an Illustrious Fatherでリードを取るときの歌が、妙にイタかったりして、興味がつきないのです。

 

 

第1弾ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅は…

 子供向けファンタジーのしまりのなさが嫌いなアタシですからニュート回りはあまり関心が持てず~~~

やっぱ、エズラ演じるクリーデンス・ベアボーン近辺がオモロいんです。

 

妙なおかっぱで、キチキチに小さくなった服を着て、猫背で前かがみでネクラで小心、見るからにいじめられっ子のクリーデンスは、インパクトありました!

クリーデンスを虐待する養母メアリー・ルーを演じるのはサマンサ・モートン。魔法根絶を目指す過激団体"新セーレム救世軍"代表で、いわゆるキリスト教右派的狂信からヘイトクライムを犯す人ならではの正義を掲げる狂気の演じっぷりが、ド迫力でした~~。サマンサとエズラのシーンは白い火花が散るようで、美味しかったですねえ。

で、メアリー・ルーはマジ(魔法使い)の素養があるあるクリーデンスをわざわざ養子にして、彼の中の魔法を体罰で抑圧し続けるのですが…

 

キリスト教右派って、強固なホモフォビアでも名高いですよね。そんでもって、さまざまな役作りにゲイな要素を導入するエズラ演じるクリーデンスですから、魔法≧ゲイネスみたいな図式が、サブテキストとして成り立つんです。 

そんでメアリー・ルーの体罰は転向療法みたいに見えてくるんです。転向療法っていうのは、個人の性的指向を人為的に変更しようっていう、とんでもない療法です。心理的な操作に留まらず、電気ショックやロボトミーとかも変更手段に使っていたという、極悪なものなんですね。

キリスト教史の暗部に魔法という角度から取り組んでくのかと、ちょっと期待感がありました。

 

で、メアリー・ルー=転向療法的な方向性を強化する、クリーデンスのホモエロティックな雰囲気づくりを後押ししたのは、コリン・ファレル演じるパーシバル・グレイブス実はこのグレイブス、世界制覇を目指すグリンデルバルドが変身していた偽物。強大な破壊力を持つ闇の寄生物"オブスキュラス"を探し出すためにアメリカの魔法局に潜入してベアボーン一家周辺にめぼしをつけて、クリーデンスにオブスキュラス探しをさせようとしていたのですね。

世間からは蔑まれ、養母には虐待されて人恋しいクリーデンスがグレイブスになついていく。その絡みがとてつもなく濃厚だったので、上のサブテキスト解釈が成り立ったのですね。

オブスキュラスは、魔法力を抑圧された子どもに宿るもの。

愛着していたグレイブスに見捨てられ、積年の恨みつらみを爆発させたクリーデンスの中に潜んでいたオブスキュラスがフルパワーで大暴れ、ニューヨークを破壊しまくることになったのです.

クリーデンスが怒りを解き放っていく過程、見ていてゾクゾクしましたねえ。

 

ハリー・ポッターという制約の中で、成熟したテーマを持つサブプロットが展開するのか、と楽しみにしてました。

 

第2弾ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生は…

タイトルから推しはかって、ヴォルデモート出現以前は"史上最も危険な闇の魔法使い"の王座を占め、若い頃はダンブルドアと恋愛関係にあったグリンデルバルドが、ついに前面に出てくるのだぁ~~~。ジョニー・デップがグリンデルバルド役なのだあと、期待しておりました。

なんですけど、家庭内暴力係争真っ只中のジョニデ、今ひとつインパクトなかったですぅ。得体のしれない威圧感というとこはさすがでしたが、誰とも、これといったケミストリーもなく、通りすがりの人って感じ。

 ダンブルドアとの鏡を通した再会のシーンも、ジョニデにはこれといった決め手がなくて、 ダンブルドア役ジュード・ロウのノスタルジックな佇まいが光り、青年時代を演じたジェイミー・キャンベル・バウアーの一瞬芸が圧勝。Mr.セクシーなコリン・ファレルの後にこれですかあ?アレレでしたよ。

 だから、ダンブルドア/グリンデルバルドの2次創作とか、全然盛り上がりません。

 

それ以上に、「ノー・マジである一般人間が第2次世界大戦によって行おうとしている巨大な破壊に対して戦いを挑むのだ」という演説を行う炯眼の持ち主、有能な政治家であり、ダンブルドアを愛した人間性があるのだとしたら、グリンデルバルドはマンガチックなヴォルデモートにはなかった人間としての陰影があるはず...。そこを見せて欲しかったと、非常に残念なものがありました。

 

クリーデンスも、サーカスに潜んでナギニという仲間を得たせいか、根の暗さに今一パワーが感じられず、せっかくいいケミストリーだったナギニとの関係性も半端で、これも残念でした。

 

そして、脳天気なニュート周辺。ニュートとティナ・ゴールドスタイン、ジェイコブ・コワルスキーとクイニー・ゴールドスタインという2組のペアが盛り上がるのかと思ったら、こちらもケミストリーがなく...。

ニュート/ティナペアよりも、クリーデンス/グレイブスペアの2次創作の方が多いっての問題ですかと。

 

謎のめいた魔女でニュートとテセウスのスカマンダー兄弟の両方から愛されるリタ・ストレンジ役に、スーパーホットなゾーイ・クラヴィッツ起用ということで大喜びしたのですが、出てきたと思ったらグリンデルバルドの炎に焼かれて灰になってしまい、超がっかり~~~

 

色気が足りない!第1弾をミネラルウォーターで希釈したみたいな第2弾だと思いましたよ。第3弾はもう見ないって!

 

マッツ・ミケルセンに何ができるのか?

一瞬の微細表情で驚くほどの感情表現をすることができ、とてつもなく優雅に動ける身体能力を備えたマッツですから、ニュート周りはおいとくとして、 

基本的には何でもできてしまいます。

 

 

心理操作が巧みな政治家という側面に、世界の行方を憂慮するメランコリーを足しこむことも可能だし~~

闇の魔術をフィジカルに表現することもできるでしょう

 

かつまた、『ハンニバル』TVシリーズのショーランナーであるブライアン・フラーが、「誰とでもセクシャルなケミストリーが出せる」と太鼓判を押したマッツですから、ファンタビ第2弾に欠けていた色気を復活させるのだって、期待できます。

  

・第1弾の魔法≧ゲイネスのサブプロットを復活させて、ファンタビを再び抑圧と抵抗の物語に戻すことも

・ダンブルドアとのロマンスを、1シーンで可視化することも

 

問題は製作側のワーナーブラザーズが何を望んでいるかです。

撮影に入る前に、製作者なり監督に納得できるまで質問して、自分の考えを提案してすりあわせるのが信条のマッツ。

「デップが成し遂げた役作りと私がやろうとしていることの間に橋渡しをしなければならない。まだ、そこを話し合っているところ」と、12月の頭に語ってました。

 

第1弾のエズラ&コリンコンビが、無理矢理もってっちゃった感じの問題提起にワーナーが怖れをなして、ご家族向けに路線変更みたいなところに固守していたら、あまりドラスティックな変化は期待できない。

そうなったら、グリンデルバルド側に加担したクィニーとのシーンとか、かかわる登場人物とのシーンが、通りすがりの人通しの会話みたいになるのは避けられる...くらいかと。

 

『デス・ストランディング』 の小島監督も『ハンニバル』のフラーも、マッツの意見をどんどん取り入れて、メチャおもろい作品を作ったわけです。

 

だから、ワーナーさん、マッツの好きにさせて~~~

 と、心底思っているアタシです。