
昨シーズン(2024~25)のマリインスキー・バレエ、本当に大変なことになってました。就任早々、その大変な一年を堪えて立て直してるアンドリアン・ファジェーエフ芸術監督には感謝しかありません。今シーズン(2025~26)は有望なアリがデビューしたのも嬉しいので、監督の素晴らしさを語らせて頂きますかと
- そして、誰もいなくなってた?
- それでも劇場を満タンにするのが芸術監督
- テリョーシキナ女王への対応
- 大事なのは、誰が誰をコーチするか
- 若い時の苦労は買ってもでもしろ的な芸術監督
- ファジェーエフ芸術監督に、ただただ感謝を
そして、誰もいなくなってた?
主要バレリーナの皆様が40代に突入してるのは気づいておりました。とはいえ、こんなことになってるとは思いもよりませんでした。
まずはプリンシパルのエカテリーナ・コンダウーロワとオレシア・ノヴィコワが『ライモンダ』とか『ファラオの娘』といったグランフェッテないもの以外グランド・バレエを踊らなくなっちゃってたんですね。コンダウーロワは『ドン・キホーテ』のストリート・ダンサーとか『シェヘラザード』のゾベイダ、ノヴィコワは『ジゼル』とか『バフチサライの泉』のマリアとか『ラ・シルフィード』の主演といった本当の得意演目しか踊らなくなっちゃいました。今シーズンはこの傾向がさらに深まってます。まあ、無理に踊って晩節を汚すより、これしかないというお役だけの方が良いのかなとも思います。
で、コンダウーロワの創造性が衰えているかというと、そんなことは全くなく、その知性と感性を思い切り活かしてカメラ・ウーマン化、マリインスキーの若手バレリーナ達をモデルにしてファッション・フォトをバシバシとシュートしたり、よその劇場で発声付のコンテンポラリー演目を発表したり、今こそ才能の総てが開花している感じです。ウラジミール・シクリャローフのメモリアル・ガラでも、コンダウーロワ&コンスタンティン・ズヴェレフの『ル・パルク』が圧巻でした。好きなことをして頂いといて、ここ一番という時に単発もので出ていただくみたいな特別枠になってます。
夫唱婦随のノヴィコワはご主人のレオニード・サラファーノフがコーチ業に落ち着いたので、家庭第一になったってところでしょうか。
夫唱婦随と言えば、同じく家庭第一のエカテリーナ・オスモルキナも『石の花』の娘役くらいでグランド・バレエは踊りません状態。
プリンシパル街道を走っていたはずのマリア・ホーレワは怪我以降出稼ぎに専念してるし、どうやって引き留めるの?みたいに見えてました。
あの、腐るほどいらした主演バレリーナ枠がカスカスになってたんですね。『白鳥の湖』『ラ・バヤデール』『海賊』といったドル箱演目の目玉はヴィクトリア・テリョーシキナなんですが、2番手をどうするかというと、アタシの判断では確かな技術と演技力があってポール・ド・ブラも繊細なナデージダ・バトーエワなんですが、昨シーズンはオクサナ・スコーリクを持ってくるしかなかったようです。だから北京公演の2番手はスコーリクが務めたという苦しい台所事情。
なので、マリインスキー好みの体形ではないけれど、器用でドラマティックなレナータ・シャキロワをプリンシパルに昇進させたのは手堅い動きだったと思います。
なんですけど、バリエーションの名手ヤナ・セリーナとコールドを牽引してきたクセニア・オストレイコフスカヤがコーチに専念してるし、前芸術監督代行が中堅を育ててこなかったり、移籍されたりで、なんか全体にしまりがなくなってました。
一旦移籍したアンナ・ラヴリネンコをコリフェに戻さなかったり、アレグロの名手になるはずだったオクサナ・マルチュク、エポールマンの秀麗なマルガリータ・フロローワを育てていたら、中堅以降の移行もスムーズで、眠りの妖精たちもカラフルだったろうにと、前芸術監督代行への恨みはつきません。
そして、何よりもキム・キミンと両翼をなすスターのウラジミール・シクリャローフを失った痛手は大きすぎました。優秀な男性パートナーは沢山いるけど、男性のスター・ダンサーはこの2人しかいなかったというまたも厳しい状況。
アンドリアンはフィリップ・スチョーピンを即座にプリンシパルに昇格させてました。スチョーピンはアカデミックな技術力の高いダンサーで、手堅い人選ですがもう33歳。とっくの昔に昇格させてないとおかしい人ではありました。男性の最盛期は20代。30代でプリンシパルになってからだと、超絶技で劇場を沸かせて大人気を博すというわけにはいかないし、残された時間も短い。前芸術監督代行の人事は禍根を残しますねえ。
サンクトペテルブルクが誇るバレエ・フェスティバルの『ダンス・オープン』でバトーエワとスチョーピンをお披露目した感じの『グラン・パ・クラシック』を貼っときます。ご両所とも技術力があり正確かつ立派な踊りなんですが華に欠けると言うか...。若いうちに昇格させとけばガラのスターとして、ガンガン新技を繰り出しながら自分の表現に辿り着けるのに、年齢高いと地味にまとまるしかないという、遅い昇進の弊害ですね。
おまけに、シクリャローフは若手の成長株から女性プリンシパル陣と幅広くパートナーを務めていました。新しいパートナリングをするにもリハーサルには時間がかかりますし、マリインスキーのバレエ団自体がしばし休演なんてこともありました。
こんな為体のカンパニーをよく1年間面倒見てくれたと、アンドリアンには感謝しかありません。
それでも劇場を満タンにするのが芸術監督
マリインスキー・バレエが休演状態になっても、劇場を閉めとくわけにはいきません。オペラとオーケストラの公演だけなんて許されないバレエの殿堂ですから。
こういう時こそ、バレエ公演を続けるのが芸術監督の使命。
アンドリアンはその人脈をフル活用してマリインスキー・バレエがお休みの間も、劇場ではギチギチにバレエ公演やってました。
11月頭にシクリャローフが体調崩した辺りでは、ボリショイ・バレエの公演をやり、没後の12月、1月は困った時の『くるみ割り人形』。お子さん連れでも歓迎される『くるみ割り人形』を上演しまくり。ワイノーネン版もさらに少人数なシミアキン版も出してきて、ワガノワ・バレエ学校の公演に加えてヤコブソン・バレエ団も2月にはウラジオストックのマリンスキー・バレエも連れてきて、とにかく上演し続けてましたっけ。
『くるみ割り人形』攻勢のあとは『青銅の騎士』とか『アニュータ』みたいな小品に『白鳥の湖』を混ぜて、『ラ・バヤデール』みたいな巨大演目を公演したのは2月の半ばでしたかと。
良いバレエを上演するには、若手の昇格は必須、コーチも沢山いないと追いかない。その予算が必要なのですね。使えるものは何でも使って稼ぎまくるアンドリアン芸術監督。
おかげさまで、今シーズン(2025~2026)初日の『ラ・バヤデール』の『影の王国』の衣装が昔ながらの格調高い物に戻ってましたし、終わったばかりの北京公演では、オデットの衣装もスカート部分にみっしり羽を付け、『海賊』の花園のメドーラの衣装も一段とゴージャスになってて、老舗の貫禄を見せつけてくれ、ファンとしては嬉しい限りです。
テリョーシキナ女王への対応
同世代のプリンシパルたちがドンドン小品へと移行していく中、未だにグランド・バレエの頂点に君臨するヴィクトリア・テリョーシキナ女王。
昨シーズンの蓋開けの『白鳥の湖』でも万全の体形でキム君と共演。この2人がマリンスキーのKing&Queenだという姿を見せつけてくれました。やはり、恩師のマリーナ・ワシリーエワ先生に捧げる夕べということで、バカンス中もリハーサルする心構えで臨んでたようです。
なんですけど、シクリャローフが亡くなってから身体にハリがなくなって来ましたねえ。告別式でも夫君のローマン・ベリャコフに支えられて、やっと立ってる感じでしたから、余程ショックだったんでしょう。姉弟みたいに仲良かったんで、お気持ち察します。
2月9日のメモリアル公演『Magic of Vladmir Shklyarov』の第3部『影の王国』をご覧になった中には、女王に衰えを感じられた方も多いかと思います。踊り方も変わりましたしね。例えば、エントランスの後のデュエットのエカルテでは、顔の方向が後ろ向きではなく、前向きという容易な方法になってますし、ヴェイルのヴァリエーションでは高名なアントルラセ~3回転~アラベスクのシーケンスも2回転になってましたし。まあ、3回転して正確な角度のアラベスクに入れてたのが異常事態ではあったのですが…。
でもですね、ヴィカ様ファンとして言わせていただけば、あのスケジューリング自体が無茶苦茶だったんですね。ヴィカ様は7日に『石の花』の銅山の女王役を慣れないニキータ・コルネーエフ相手に努め、中1日の休養で『影の王国』をやったんですよ。
40歳を過ぎたヴィカ様は何でもOKじゃないんですよね。中6日の休養で週一公演が基本なんです。中1日じゃあ、疲労が取れないでしょ!と、怒りたいとこなんですが、じゃあ「撮影も入るこの特別な日の大トリは『影の王国』しかないでしょ、主演はヴィカ様&キム君しかないでしょ」と、言われれば「はい、その通りです」と答えるしかないわけで、責任感が強い座長体質のヴィカ様は、無理を押してやってくれるわけです。
その後、基本のスケジュール通り休養を取った『ラ・バヤデール』では復調してたので、以降はこのような問題が起こらないよう、休養期間を考慮したスケジュールはしっかり守られているようです。
パートナーの問題もありました。重要な公演ですとヴィカ様&キム君は外せないんですけど、休養十分でグランド・バレエに臨んで欲しいヴィカ様とゲスト出演や新作も抱えてその間を縫って新しいパートナーとも組みたいキム君ではスケジュールは中々合いません。
で、長年組んできたシクリャローフも亡くなって、スチョーピンやコルネーエフといろいろ試してみたのですが、これも難しい。
以前のように誰とでも踊れるバレリーナではなくなっているヴィカ様。たとえば、ピルエットも自力ではなく、パートナーに頼る形になってます。だから、ティムール・アスケロフみたいな高速回転のサポートに優れ、リフトのタイミングもピッタリの優秀なパートナーが必要なわけです。
これは、2001年ダンス・オープンの『グラン・パ・クラシック』なんですけど、この演目はヴィカ様がダンス・オープン名物にしてしまったので、マリインスキーからはGPCを出す的な慣習になっとります。
なんともゴージャスな伯爵夫人のお戯れってか、目千両。昔みたいな比類ない正確さは失われましたが、その分お役の完成度が高い。それに体幹のコントロールを信頼できるパートナーに任せると、ヴィカ様はこんなにクルクル回ってくれるんですね。
体勢をくずしても物ともせず立て直してくれるアスケロフの細やかな心遣いと抜群のタイミングで、ヴィカ様は演技に集中できる。凄く気持ち良さそうに踊ってますねえ。
なんですけど、アスケロフも引っ張りだこのパートナー。マリインスキー随一のパートナーで、このほど名誉芸術家を受勲したコンスタンティン・ズベレフをディアナ・ヴィシニョーワが占有するようなわけにはいかないのです。
パートナーとスター・ダンサーの中間くらいに位置するアンドレイ・エルマコフも3月の怪我以来休養しているし...
となると、誰がいるのか?というと、ご主人のベリャコフがいるわけです。大きくて下半身がガッシリしてて安心感のあるパートナーです。何よりヴィカ様にベタ惚れなので、大事に大事にしてくれる。
おまけにあるズベレフに昨今は師事しているとのことで、技術も精緻になってきています。
ベリャコフがいてくれて良かった!基本ヴィカ様の演目には相手役や仇役などでベリャコフが絡み、時々アスケロフ、ここ一番はキム君とパートナー陣も安定してきました。
今シーズンも、マリインスキー劇場オープニングの9月10日(水)キム君との『ラ・バヤデール』から、10月11日(土)北京ツアーオープニング、キム君との『白鳥の湖』までジワジワ日程調整してきまして、中2日のお休みでキム君と夫君お相手の14日(火)『海賊』。
両日とも、北京のファンは大興奮、劇場が揺れるような大喝采という、とてもいい感じの滑り出しです。
本当に嬉しいアンドリアンの采配です。
大事なのは、誰が誰をコーチするか
なんか不満そうだったホーレワにも、アンドリアンは最高の懐柔策を出してきました。
それは、マリインスキー・バレエ史上でも屈指のテクニシャン、できないことはないと称されたタチアナ・テレホワに師事するというチャンス。
ホーレワはスタイルが良く、抜群の才能で何でもこなすけれども、実は体幹が弱くて怪我が多かったりしました。エルヴィラ・タラソーワ前コーチとは相性が良くなかったのかと思います。
ところが、いつの頃からか、instagramのレッスン・ヴィデオの背景にテレホワ・コーチの高いしゃがれ声が入ってるようで「アレ」と思っていたら、マリインスキーのサイトのテレホワ様のところにホーレワの記載が入り、各公演の終わりにはコーチと嬉しそうに映ってる写真がinstaアップされるようになり、踊りからは脆弱なところがドンドン消えて芯が通ったようになってて、これでホーレワも落ち着いてくれるだろうと、一安心しております。
ラリッサ・レジュニナがテレホワ様に教わりたいのに、芸術監督のヴィノグラードフに却下されて退団してしまったことがあります。それくらい、相応しい人に相応しいコーチって重要なのです。
で、取り上げるだけだとタラソワ・コーチの面目が立たないので、前コーチが引退したらしいプリンシパルのバトーエワをタラソワ・コーチ傘下につけたという。なんか人間関係も扱いもこなれているアンドリアンです。
コーチとしても、教え甲斐のある弟子が欲しいものなんですね。
前芸術監督代行のファテーエフと新コーチで大スターのサラファーノフの2人は、サラファーノフのプリンシパル時代からあまり反りが合わないようにずっと感じておりました。
ファテーエフは降格でもあり、ご両人に納得できるお弟子が必要だなと思っておりました。アンドリアン政権はそこもクリア。
まずは美少年大好きオヤジなファテーエフ。昨シーズンの終わりに、韓流アイドルみたいに麗しいチョン・ミンチュルを迎え、早速にバトーエワと共演の『ラ・バヤデール』でデビューを果たしました。流麗でエレガントな踊り手ですね。スピードとパワーに欠けるのが心配なところです。
このミンチュル君のコーチがファテーエフ。団員リストにちっとも名前が掲載されないので、階級やペイで揉めてるんじゃないかと心配してましたが、ファテーエフと仲良くリハーサルしてる光景がinstaアップされて一安心。1stソロイストにいきなり抜擢で25日にはノヴィコワと共演で『ジゼル』のアルブレヒト・デビューも予定されてます。アンドリアンみたいな王子様を育てるぞと、ファテーエフさん張り切ってるんでしょうね。
そして、サラファーノフは今シーズンから、アメリカ出身で2023年度ジャクソン国際バレエコンクール優勝のアレクセイ・オロホフスキーのコーチを始めました。この師弟コンビ、あったらいいなとアタシも願っていたものです。
オロホフスキー君んはサラファーノフの元奥さんであるナデジダ・ゴンチャールに見出されてマリインスキーとのコネクションができたということですが、やっぱり、元奥様もサラファーノフに推してくれたのかと、憶測して喜んどります。だって...
これは2022年の『パキータ』なんですけど、これ見た時、思わずガッツポーズしましたね。だって、頭の振り付けがサラファーノフがウィーンでやったヴァリエーションと同じだし、衣装もクリソツだし。そりゃね、技の精度も難易度もキレ味も段違いですけど、15歳の少年がこれに挑んでくるなんて嬉しいじゃないですか。
「オロホフスキー君もあのヴィデオを穴が開く程見たんだね。アタシもいつも見てるよ。4番のランディングで首を横に向けるのもサラファーノフに倣ってるんだよね。そうなんだよ、サラファーノフは腕や首を動かしただけカッコいいんだ。君もそうなりたいんだね。頑張れ、少年!」って、なりました。
オロホフスキー君は既に2ndソロイストで名簿に名前も掲載され、北京のバトーエワ主演『海賊』でアリ・デビューも果たしました。めちゃ荒っぽいんだけど、パワーで押し切って飛んで回ってみたいなアリ。北京の皆様も大喜び、大成功のデビューでした。
彼にサラファーノフの手が入って洗練されていくかと考えると、期待でゾクゾクします。こういう、活きのいいスター・ダンサーが欲しかったんですよ!アタシは。
と、思わず私情まみれになってしまいましたが、本当に嬉しい師弟とデビューでした。
本当に、適材適所なアンドリアンの采配、感服します。
若い時の苦労は買ってもでもしろ的な芸術監督
そして、昇格もマリインスキーにしては大盤振る舞いのアンドリアン。
この9月には、まずはマリア・イリューシキナをプリンシパルに昇格させてます。
イリューシキナは美しいですね。まさに、マリインスキーバレエが望む長くしなやかな四肢と万人が可愛らしいと認めるお顔立ち。リュボフィ・クナコワ・コーチに師事してるだけあって、踊りもしっかりしています。
ただ、お芝居が平坦ですね。オデット/オディールをとっても叙情性の煮凝りのようなウリヤーナ・ロパートキナとか、内なる激情でぶん殴ってくる最近のヴィカ様とか、個性の濃い~姉様方に慣れてしまったので物足りませんが、鉄は熱い時に打つべきもの。プリンシパルに相応しい演技を磨けってことなんでしょうね。
同じく9月にはマリア・ブラノワを1stソロイストに。この人は上半身の豊かな表現には欠けますが、今のマリインスキーバレエでは最強のターナー。メドーラやキトリのコーダのグラン・フェッテなんて全部ダブルだし、この人なしには『海賊』も『ドン・キホーテ』もジリ貧になるんだから、当然ですね。
同じく、ヴラダ・ボロドゥリナも1stソロイストに。この人は丁寧に叙情性を持って踊る人ですね。回転とかデカいジャンプといった飛び道具のない、こういう地味目な芸風の方もちゃんと見てますよってこと。こういうタイプは2nd止まりだったけど、これからは中堅でも頑張ろうと思う人が多くなるでしょう。
そして、マリインスキー・バレエの底力である女性コールド。『Magic of Vladmir Shklyarov』第3部の影の行進をご覧になった方はお気づきでしょうが、ちょっと酷いことになってますね。まず、ア・テールへのランディングが雑なので、全体の動きがカチカチして阿片の夢に漂う霧みたいに見えない。パンシェ・アラベスクも低いし不安定な人や上体の動きがバラバラな人とかいます。
こりゃ、アカンですよ。でも、アナスタシア・ニキチナとかヴィクトリア・クラノクツカヤとか、ユリアナ・チェレシュケヴィッチとかの手練れのベテランは出さなかったんですね。
終演後、アンドリアンは即座にコールドを集めて長いことお説教してるようでした。チャンスは与えるから努力するように。若い人たちをそうやって育ててるんですね。
ちょっと、ワジーエフの無理やりプロモーションで、若手が爆伸びした2000年代を思い出しました。
バトーエワとスチョーピンのところでも言いましたが、体力のある若いうちに難役を経験させるってすごく大事です。ワジーエフ時代は見てて厳しい、本人も辛そうな配役が沢山ありましたが、それが有能な踊り手揃いのマリインスキーをつくっていったことが、今となってはよく分かります。
ガンガン若手を鍛えてるので、今シーズンは主要ダンサーが中国公演に行ってても、ボリショイの『明るい小川』やヤコブソンの公演を交えながら、『ドン・キホーテ』なぞも本劇場で上演。だんだん、本来の底力を取り戻しているようです。
ファジェーエフ芸術監督に、ただただ感謝を
『ドン・キホーテ』本劇場公演の嬉しいところは、マチネーではありますが初主演のエレーナ・スヴィンコをコンダウーロワが指導してたことですね。
レパートリーにキトリはありませんが、役柄の解釈や表現に秀でたコンダウーロワが、後輩の指導に乗り出したことが、とても心強いです。
今シーズン(2025)10月の中国ツアーも主要キャストを去年から刷新。
この10月の北京公演は『白鳥の湖』をテリョーシキナ&キム、イリューシキナ&エヴァン・カピテンで、『海賊』は上記のテリョーシキナ版に加え、バトーエワ版では上記のオロホスキー君に加え、まだコールドのアントン・オセトロフのコンラッド・デビューもありました。威勢のいい、気持ちいいコンラッドでしたねえ。
オープニングとエンディング公演をテリョーシキナ&キムが努めるという、売れるラインアップ。さすがに、商売人のアンドリアンです。
南京ではテリョーシキナ&キムの『海賊』は不動ですが、マティネーには第2ソロイストであるダリア・クリコワのメドーラお目見えとグジェレフ瞭舞のアリ・デビューという、あまりにも大胆なキャスティングも実現。イリューシキナ&カピテン組に加えバトーエワ&アスケロフ主演の『白鳥の湖』もありました。アンドリアンから見ても、テリョーシキナに次ぐヴァーサタイルで満足度の高いプリンシパルはバトーエワなんだなと、安心しました。
テリョーシキナの『海賊』のギュリナーラは両公演ともシャキロワになってまして、多分、腕の長さとかマリインスキー的ではないけれど、器用なので誰かが倒れてもどの役もこなせるシャキロワを準主役で帯同してるんでしょうね。贅沢ですねえ。
中国のプレイビルとは実際のキャスティングが異なっているので、上海に関してはテリョーシキナ&キムの黄金コンビとイリューシキナ&カピテンの『白鳥の湖』はありだなくらいしか言えませんが、昨シーズンと比較すると、格段にパワーアップしているのが訪中キャストからも伺えます。
もう、ゴリゴリのデビュー大盤振る舞い。勢いを感じますねえ
カスカスだったマリインスキー・バレエをここまで盛り上げてくれたアンドリアン・ファジェーエフ芸術監督。お写真拝見すると随分老けておられますが、ヤコブソンと監督でこれだけの力技をこなせば、消耗もされましょう。
本当に感謝、感謝です!ご自愛ください。