原作にある「不死の者たちの館」での予言からティリオン・ラニスターがデナーリスを裏切ることを予測していたビルコンティでしたが
それが成就した今、ティリオンという男とその愛ある裏切りについて、もう一度考えてみます。
※原文に忠実であるため、差別的言質もそのまま訳出しています。
※この記事は3月23日の記事を加筆修正したものです。
知恵と勇気と皮肉の人 ティリオン
ティリオンというと、まず思い浮かぶのは皮肉な、刺のあるユーモア。
世の中を斜めから見ているような、生来のアウトサイダーの視点と、そんな自分を突き放して見る客観性。その間合いが絶妙で
ブロンやヴァリスとのやり取りなど、ボケとツッコミのオモロささがある。
攻撃されたときなど、小さな身体で非力だけれど、大男に凄まれてもピリリとやり返すティリオン・ラニスター。
どんな危険な状況にもひるまず冷静に周囲を分析して知恵を絞って活路を見出し、巧みなユーモアで友達づくり、常に活路を見出すその冒険は、なんとも小気味よく、ティリオン・ラニスター好きだからゲーム・オブ・スローンズを見続けている方も多いかと思います。私も、その一人・・・
例えば、キャトリン・スタークに息子ブラン暗殺未遂の疑いをかけられて誘拐され、弾劾裁判にかけられた時など、誘拐団の中でも抜群に腕の立つ傭兵のブロンとダチになって、決闘裁判の代理人になって貰って無罪を勝ち取ったのも懐かしいエピソードです。
シャッガやティメットといった“山の民”、王都の情報省長官ともいうべきヴァリス、デナリス・ターガリエンの相談役であるジョラ・モーモントと、
本来なら敵に回って襲いかかってくるはずのところが、ティリオンに力を貸す奴らは数しれず・・・
知恵と人望でラニスター王朝の"王の手”となり、ジョフリー王殺しの冤罪から、王都を逃れた後は、最強女王デナリス・ターガリエンの"右手”に収まると、何処でも成功できる男はカッコ良すぎです!!!
Cripples, Bastards, and Broken Things
七王国一の富を誇るラニスター一門でありながら、醜い小人に生まれたこと、その産褥で母親が亡くなったことから、父のタイウィンや姉のサーセイに疎まれて育ったティリオン。
それで卑屈になることもなく、
ひねくれてはいるけれども
むしろ人を見抜く眼を養ったことなど、常人には考えられない本当の強さのある人だと思っています。
落し子であるために、ティリオンと同じようにスターク家のアウトサイダーとして育ったジョン・スノウと出会った時に、
「小人は、親からすれは"落し子"と同じ」と、共感の手を差し伸べて
孤独なジョンの友になったことも、忘れがたいエピソード。
恋人と言えば娼婦だし、本人の意に反して自分と結婚することになったサンサには式後も手を出さない。
「自分は“cripples, bastards, broken things(不具者や落し子や壊れたもの)”に弱い」と語り、弱い者にはやさしい男でもあります。
で、デナリス・ターガリエンと出会ってからのティリオンですが
禁欲的に真面目に、"女王の手"を務めてますね。
品行方正になって切れ味が落ちてるようにも見えました。。
ヴァリスがジョン・スノウ支持に鞍替えしようと力説しても
デナーリスを庇ってましたっけ。
デナーリスとの危うい協力関係
ティリオンは合理的、デナリスはパッションの人
何が何でも鉄の玉座を奪い返したい
正義の邪魔をするものは焼き殺す武闘派のデナリス
交渉重視で常に穏便な解決策を探るティリオン、
正反対の二人が協力できれば最強ですが・・
ティリオンから見て、デナリスは危険すぎる女王になりかねない。
かすかな不協和を常に抱え続けた女王とその"手"。
ティリオンも時折、過激な反応をしますし・・・
ジョフリー殺しの冤罪裁判の影に父タイウィンがいて
元恋人のシェイが父親の手先になって自分に罪を着せようとし
父親と寝ていると知った時には
逆上して二人を殺してしまいましたよね。
ティリオンがデナリスを裏切るのではという仮説は
預言にも基づくものでもあったのです。
不死者の館での預言
第3シーズンで、デナリス・ターガリエンはカースという都市国家の黒魔術団にドラゴン達を拉致され、その奪還のため、「不死の者たちの館」を訪れました。
TVシリーズには出てきませんが、そこで彼女はいくつかの預言を受けるのです。
その一つが
three treasons will you know… お前は三の裏切りに合うだろう
once for blood 一つは血を贖うための裏切り
and once for gold 一つは金を贖うための裏切り
and once for love… 一つは愛を贖うための裏切り
このうちの二つは、すでに成就しています。
血を贖うための裏切りの成就
ドスラクが襲った村で輪姦されているのをデナリスが助けた妖女ミリ・マズ・ドゥール。
ミリはデナリスに感謝するどころか深い恨みを抱えて、怪我したデナリスの夫カール・ドロゴを治療すると称して死に導き、
ドロゴを生き返らせたいと懇願するデナリスにつけこんで黒魔術を用い
生まれてくる二人の息子の生命と引き換えに、ゾンビ状態でドロゴを生き返らせました。
殺された同胞と犯された女達の血を贖うための裏切り。
この時のデナリスの怒りは凄まじく、ドロゴの遺体と一緒にミリを焼き殺してしまいましたね。
金を贖うための裏切りの成就
黒魔術団にドラゴン達を拉致され時、その館で世話になっていた町一番の豪商ザロ・ゾアン・ザクソス。この背景には、実は無一文になっていた彼の裏切りがあると気づいたデナリス。
強欲が元となった裏切り。
ザクソスと、彼と通じていた召使のドレアをヴァレリアの鋼鉄でできた扉のある、閉じ込められたら二度とでることのできない金庫に封じこめてしまいました。
二人は酸欠死か脱水症状で死ぬ運命となったのです。
裏切られた時のデナリスの仕返しは半端ないです。
愛を贖うための裏切り
一つだけ成就していない裏切り。
この裏切りを犯すのは最終シーズンのティリオン・ラニスターではないかという憶測になったわけです。ヴァリスが裏切るのは目に見えてますから。。
ヴァリスがジョン=エイゴン・ターガリエン6世擁立に動き出した時
ティリオンはデナーリスへと注進に及びました。
デナーリスを信じていたんですね。残念なことに信じる相手を間違っていた。
しかしながら、ティリオンの密告を責めることもせず
「私が処刑に値することを願っていますよ。本当に」
「私が間違っていることを願ってますよ」
と、威厳を持って死を受け入れたヴァリスの、義の人を貫く立派さが優柔不断に陥っていたティリオンを変えたと思います。
大逆罪の死を覚悟して
妊娠している姉サーセイの腕に戻ろうとしてデナーリス軍に捕まった兄のジェイミーを逃し、王都の降伏を告げる鐘を鳴らすことを誓わせました。
「罪なき王都の民一万の命に比べれば、怪しげな小人の生命がなにほどのものか」
"女王の手"は公僕、使えるべきは民衆。ヴァリスの民衆愛の遺志は伝わりましたかと。
狂女王が降伏の印を無視して虐殺を続けたので、ティリオンの必死の裏切りは破綻してしまいました。
多分、次のエピソードでは断罪の裁定が待っているのでしょう。
でも、ティリオンは七王国の希望です。