海外エンタメ 千一夜物語

もの好きビルコンティが大好きなゲームオブスローンズを中心にゴシップ話も交えて、海外ドラマ・エンタメを一人語り・・・

イーラとカーチャの現実...とテリョーシキナ動画付き

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ドキュメンタリーというジャンルが、どうもアタシは信用できません。嘘をデッチ挙げているとまでは言いません。でも、選択した事実を集めて作っているのは確かで、マクロに見たリアリティの一部を隠して、視聴者に一定の先入観を植え付けるものではありますかと。その辺をバックグラウンドが少しは分かっている、ワガノワバレエ学校関連のドキュで掘ってみるかと...

 

 

イーラとカーチャの物語って 

今回セレクトしてみたのは、バレエ少女の間では大人気のイーラとカーチャ、ワガノワバレエ学校に通う2人少女のドキュメンタリー。

2019年には『 栄光と挫折 ワガノワバレエ学校 光と影』として、2020年には『プリマバレリーナを目指して』としてNHKで放送されたものです。タイトルでググっていただけば、動画も出てくるかと思います。

サンクトペテルブルクのバレエ一家出身のカーチャ(エカテリーナ・ボルチェンコ)と、地方出身のイーラ(イリーナ・ピサレンコ)が、減量や怪我などそれぞれの困難に立ち向かい、卒業試験と卒業コンサートを切り抜けるという感動的な成長ストーリーです。

これを見て、アタシなんかも努力はきっと報われるみたいな夢を見たりして、力づけられものです。

 

なんで、このクラスなのか?

製作されたのは21年前の2000年。2人は2000年度の卒業生。

この年度の女子の卒業クラスは2つ。ドキュメンタリーに描かれたリュドミラ・コワリョーワ先生のクラスと、リュボフィ・クナコワ先生のクラスがありました。

クナコワ先生は数々のDVDでも主役を踊り、ファルファルフ・ルジマトフの相手役で来日することもあった20世紀後半の大スター。今では、マリインスキーバレエの顔ヴィクトリア・テリョーシキナを育てた名コーチとして、大きな評価を受けています。

 

 一方、コワリョーワ先生はといえば、
現役時代は中堅どこで活躍されていたのですが、ワガノワバレエ学校で生徒を指導されてから名声を確立された方。教え子筆頭にはワガノワが生んだ世界的なバレリーナのディアナ・ヴィシニョーワもいます。1994年にヴィシニョーワをローザンヌ国際バレエコンクールでの金賞受賞に導いて伝説的な存在と先生はなったのでした。

なので、ワガノワといえばコワリョーワ先生というのが、バレエ少女たちにとっての憧れ。このドキュでも、時間を惜しまず生徒の技術と演技の指導にあたるばかりでなく、生活の指導や面倒まで見るコワリョーワ先生。イーラのおうちが貧しくて、次々トゥシューズを買えないと分かると、ヴィシニョーワのお下がりを貰ってきてイーラに履かせるまでします。

コワリョーワ先生の熱さ、献身と愛情がビシビシとわってくるドキュ。こんな先生に習いたい!こんな先生ならアタシでも正しく導いて貰える!

バレエ少女のたちのワガノワ留学への期待が、気球のように膨らみます。

 

同じように素晴らしいクナコワ先生ですが、主演バレリーナとしての自信と経験こそがキモの方。ということは、ワガノワの教師よりも、マリインスキーバレエでソリストを育てるコーチとしての方がはるかに適材!多分、この時点でコーチとしての依頼もすでにきていたかと…。

 

ということで、コワリョーワ先生のクラスがクローズアップに最適なのですね。

 

なんで、この2人なのか?

このドキュを見ると、一見、イーラとカーチャが学年トップを争っているように見えますが…

実のところ、この学年のスター候補性はクナコワ先生のクラスにいたタチアナ・トカチェンコ(弟君のワシリーも現役ダンサーなので以降はトカチェンコ姉と呼んできます)。高速グランフェッテをビシビシ決める姿はイーラの緩いムーブとは格違いでした。

おまけに、クナコワクラスには抜群のバランスを誇るアナスタシア・コレゴワ(マリインスキーバレエの第1ソリストとして引退)もいて、迫力ありました。

 

特に、トカチェンコ姉の卒業公演にはマリインスキーバレエの若手人気No.1、アンドリアン・ファジェーエフを招いて『ドン・キホーテ』のグランパが用意されていたという、大変な力の入れようでした(この辺のことはテリョーシキナのインタビューで聞いたのですが、トカチェンコ姉のキトリ・ヴァリエーションのレッスンヴィデオもあるので、間違いありませんかと)。

 

なんですけど、技術力の高い生徒がドンドン成長していくドキュって、バレエ少女にとって憧れにはなるけれど、自分のことのように共感はできませんかと。こういう人たちがプロになるのねって、あきらめてしまいます。

技術が高いといっても上半身がチジミがちでダイエットが苦手なイーラ、優等生だけれどステップ強者ではないカーチャは、ちょっと頼りない感じがあります。

 

ワガノワ2000年度のデュエットクラスみたいなのを見たことがありますが、1学年下のテリョーシキナ、エレーナ・エフセーエワ(マリインスキーバレエの第1ソリスト)と一緒にイーラとカーチャも受講しています。

センターも定まらずボテボテのイーラ。情感はあるけれども技巧が込み入るとフラつくカーチャ。スピードあるマルチ回転、高いジャンプと抜群の高難度バランスに加えて、すでにソリストみたいな情感と貫禄さえ見せるテリョーシキナ。軽やかでスピードがあって、細かい足技が得意でめちゃ可愛いエフセーエワ。この時点でもう、マリインスキーバレエが求める未来の女王様と娘役決定、勝負ありって感じなんですね。

 

で、もう1年度下のクラスでは、オレシア・ノヴィコワ(マリインスキーバレエの第1ソリスト)とエフゲーニャ・オブラスツォーワ(ボリショイバレエのプリンシパル)が控えているっていう、超弩級の実力者がひしめくキビシい状況。

技術弱いカーチャが、就職先にモスクワのスタニスラフスキーを選んだのは、意外じゃなくて当然の結果だと覆います。

 

さっきも言いましたが、天才の成長物語は手の届かない夢。さまざまな欠点を持つ2人が努力で困難を乗り越えてこそ、果てしない感動につながり、共感できるのですね。だからイーラとカーチャ主人公で正解なのだと思います。

 

でも、こうやって1部の事実のみを伝えて夢を抱かせるのって、現実から目を背けさせる"ワガノワに留学しようね”な宣伝。ある意味、視聴者に残酷なドキュだと思うわけです。

 

だから、アタシはドキュメンタリーに懐疑的なんですね。

 

トカチェンコ姉の不運

 2000年度卒業のスター候補、トカチェンコ姉はどうなったかというと、現在マリインスキーバレエの第2ソリストとして、グランドバレエのヴァリエーションや小規模なバレエの主演などしています。

 

トカチェンコ姉は不運に付きまとわれている感じの人です。卒業公演の『ドンキ』は直前に怪我をして踊れなくなり~~

マリインスキーバレエに有望株として入団して、コーチ筆頭格のニネル・クルガプキナに見込まれて指導を受けるようになり、キトリとかライモンダ、バレエ・インペリアルなんかの主演もどんどん獲得。勢いある若手だったのですが、さあこれからという2009年にクルガプキナが交通事故死してしまい、後ろ盾がいなくなってしまった。

ってな感じで失速して、才能あるのにセカンド止まりになってしまったんですね。

 

同期のコレゴワは、安定した技術なんですけど演技が薄く。外部出演しながら地道にレパートリーを増やし、マリンスキーでは第2主役くらいまでの感じだったのですが~~
2012~13シーズンにプリンシパル~ファースト陣の出産ブームが起こった時、確か、たまたま未亡人だったコレゴワがほぼ連日に近いような具合で主演をこなして劇場を支えて、いつの間にか第1ソリストに喰い込んでいた。クルガプキナよりも20歳ほど若く、演技派のプリンシパルとして評価が高かったエレーナ・エフテーエワを選んだのも幸運でしたかと。

出世街道にはいなくても地道な努力でジワジワとランクを上げてきたコレゴワとは、対照的なトカチェンコ姉でした。

 

才能だけでは出世できない。ふとした出来事で出世街道から外されてしまった素晴らしいバレリーナがごろごろいるマリインスキーバレエ。彼女たちが劇場を愛し、コーチを敬い、伝統を守ってコールドやコリフェの芸をシメてくれている!

だからマリインスキーバレエは素晴らしいのだと、いつも思っています。

 

とはいえ、個人的な成功のレベルで考えたら、スタニスラフスキーからボリショイへの道が開けなかったら、濃い芝居を好むミハイロフスキー劇場にプリンシパルとして移籍。ロシアの名誉芸術家の称号を獲得したカーチャは、賢明な人だと思います。

イーラはマリインスキーのコールドで入団しましたが、すぐ退団となり、今は南米にお住いのようです。

 

テリョーシキナの実力と運と努力

で、売れっ子のファジェーエフを呼んだ『ドンキ』、スケジュール組んじゃってるから飛ばすわけにもいかない…っていうことになったんですど、

イーラもカーチャもコレゴワも、ファジェーエフにはデカすぎ!同学年に小柄で、サクッと代役できるくらい優秀な子がいない!

ってことで、代役になったのは1学年下のテリョーシキナ(インタビューより)。スゴイ重責だったかと思ったら

「真っ赤な衣装で髪に花飾って、皆の憧れアンドリアンの相手役でしょ。もう、金髪巻き毛がフワフワで天使みたいな素敵な人。夢のようだったの。アタシはちょっと大柄だから、一生懸命、背が低くなるように沈んでね」

なんて、手放しで喜んでるだけでした。まあ、デュエットクラスの実力見てるから、グランパ1曲習得は超楽勝だったかと。

とはいえ、マリインスキーバレエが誇るキトリの見事な扇使いが完成するには、ここからさらに8年以上かかりました。

 

実力と運とたゆまぬ努力があって初めて生まれる大スター!現実はキツイ!キツスギル!

 

と、ちょっと重くなりすぎたのでテリョーシキナの『ドンキ』第1幕からキトリのヴァリエーションをご覧ください。  

キレイで華やかでセクシーですね。でも、これね、最高のパフォじゃないんです。

絶頂期にはダブルピルエットで止まるとき、空中にクッキリ静止してたんですね。右足の着地なんてほんの一瞬で、魔法みたいでした。

3年前の日本公演の時は、どうしてもこの完全空中静止が見たかったんで、もう、登場の瞬間に拍手しちゃいました。そしたら会場中が拍手になって、皆がどれほどテリョ姉さんのこのヴァリに期待してるか伝わったみたいで、キッチリ静止してくれました。おわったところでも大喝采!

 

テリョ様、素晴らしい!

って、最後はテリョーシキナ自慢になるアタシでした💦