海外エンタメ 千一夜物語

もの好きビルコンティが大好きなゲームオブスローンズを中心にゴシップ話も交えて、海外ドラマ・エンタメを一人語り・・・

ハンニバル2.09 愛する者よ、適応し進化し変成せよ 『強肴』ネタバレ深読み

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進化した人は、より神性に近づくのか?獣性を解放するのか?進化論者であり、常に自分を神と比肩するハンニバルはどちらを選ぶのか?その読み解きが面白すぎ、それに絡んで深まるハンニバルとウィルの関係が濃密になな"獣人編"、考察してみました。

 ※「普通こんな会話しないよね」なセリフやアートすぎなイメージや音楽も、回が進むほどに重要な意味を持ってくるので、詳しく掘ってます。 

 

 

ハンニバルは愛する者と、夢で語る

モノクロームなウィルの夢の中。
樹に縛り付けられたハンニバルに、ウィルは正体を認めろと詰め寄ります。ハンニバルは、ウィルも「自分の中で育っているものを無視している。何故、私の良い面を見ないのだ」と答え、こう続けます。

No one can be fully aware of another human being unless we love them.
愛なしに自分以外の人間のあらゆる側面をしることはできない。
By that love we see potential in our beloved.
その愛によって、われわれは愛する者に可能性を見出すのだ。
Through that love we allow our beloved to see their potential.
その愛を通して、我々は愛する者に自らの可能性を知らしめる。
Expressing that love, our beloved's potential comes true. 
愛を表明することで、愛する者の可能性は実現する。

ウィルは「僕が誓ったのは復讐だ」と合図の口笛を吹き、鴉の羽に覆われた雄牛にロープを引き絞らせ、ハンニバルの首を絞めていきます。苦しそうなハンニバル、ウィルの眼は潤みとても悲しそう。

ウィルが樹木に近づくとハンニバルはウェンディゴに変わっている。ウェンディゴの首の縄は絞まり、赤黒い血しぶきがモノクロな世界に飛び散っていく。

 

なんとも象徴的な夢です。ハンニバルは4回も愛と言い、3回も愛する者と言う

ウィルの潜在意識はハンニバルの愛に気づいている。ハンニバルはウィルを愛するが故に、彼の可能性をずっと引き出そうとしているということに気づいている。

その可能性は、多分、殺人という行為で成就する人間を超えた存在、ハンニバルと対等な存在への変成でしょう。
処刑人は、ウィルとハンニバルの絆の象徴である鴉の羽に覆われた雄牛。つまり、ハンニバルのウィルに対する愛が、ハンニバルの首を絞めることになるとウィルは考えています。これは、自分を囮にした復讐の企みという事実と合致します。

ウィルの意識が気づいていないのは、ウィルもハンニバルの愛を求めているということ。だから愛という言葉に満ちた夢をみるのです。だから、ウィルにはハンニバルは殺せない。ハンニバルの中の悪、チェサピークの切り裂き魔を抹殺したいだけなのだと、読み取れる夢です。

 

ハンニバルとジャックの攻防

ジャックはというと、相変わらずハンニバルと飯食ってます。ウィルと違って魚持ってくるなんてセコイことせず、出されたものをガンガンいきます。ハンニバル逮捕のためなら、人肉料理食べるのもヘイチャラって感じですか?ジャックのこういうキモが座ったとこ好きですね。
今回の料理は、サクロモント風オムレツ。サクロモントはグラナダ近郊の地域。ハンニバルはジプシー料理って言ってますから、ロマの方々が住んでる地方でしょうか?ハンニバルはレバー入れてますが、本来は羊の脳ミソを入れたスペイン風オムレツらしい。グロい料理です。

若き日ののグラナダ旅行の思い出の話などになり、ハンニバルは語ります。

Memory gives moments immortality, but forgetfulness promotes a healthy mind.
記憶は瞬間を不滅のものに高めるが、忘却は健康な精神を齎す。
It's good to forget.
忘れるのはいいことだ。

自分は何も忘れないくせに、人には忘れるように勧める。もちろん、自分にかけた嫌疑を忘れるようにってわけですが、適当なこと言うオヤジですね。自分勝手。

この流れで、FBIの依頼で行っていた今でのセラピーと違って「ウィルが自分ので治療費を払うようになったので、ジャックに内容は開示できない」ことも、伝えます。

 

ハンニバルお得意のジャック切り離し作戦。表立って攻防し始めた両雄。今シーズン第1話で起こったガチバトルにどうつながるのか?楽しみです。

 

適応、進化、変成

 前話で登場した連続殺人民生委員クラーク・イングラム。

証拠なしで無罪放免のイングラム銃で撃ち殺そうとして、ハンニバルに銃口を素手で掴まれ、止められてしまったことをウィルが、悩まし気にセラピーを受けています。

「あなたも後悔したりするのですか?」と聞くウィルに

「いくつかの選択肢があれば、常に後悔は存在する...悔いのない人生は人生ではない...」と答えるハンニバル。
ウィルはその場で引き金を引かなかったことではなく、効果的に引き金を引けなかったことを後悔しているのだと気づかされます。

「後悔したくなければ、今後は行動パターンを適応させる必要がある」と説得されたウィルは答えます。

Adapt. Evolve. Become. 適応し、進化し、変成するんですね。

※becomeは「~になる」という動詞ですが、進化論の文脈から、変成と訳しています。

環境に適応して進化を遂げ、その前とは異なった生物の形態へと変成する。これが進化論の基本概念です。ウィルの夢の中のハンニバルが"可能性の実現"と称していたものが、セラピーでは進化論として提示されたのです。目を閉じて瞑想するように促されたウィルが見たものはイングラムを殺す自分。

A missed opportunity... to feel... like I felt when I killed Garret Jacob Hobbs.
ホッブスを殺した時に感じたような... あの感覚に... 浸る機会を逃したんだ。

To feel like... ..like I felt when I thought I'd killed you.
あなたを殺したら感じられると思っていた... あの感覚...

I felt... ...a quiet sense... of...  power.
あの時... 僕は... 静かな力の... 感覚を味わったんだ...

深い夢から語りかえるようなウィルの告白を聞いて、ハンニバルは満足げに「それを忘れないように」と頷きます。

 

ハンニバルはウィルが、殺せない自分の代わりにイングラムを殺そうとしたことを知っていた。だからウィルを止めたのですね。イングラムを殺しても、ウィルの満足には何の効果もないと知っていた。
そして、殺人が与えるパワーの快感をウィルに思い出させるためには自分の命が狙われてもかまわない。マシュー・ブラウンの殺人未遂も気にかけないのです。
ハンニバルはウィルを再生し、より高い存在へと引き上げるためには自分の命も惜しまない。だから銃口も手で塞げる。

 

復讐を誓ったプロファイラーというよりは、裏切られた恋人が恨み事を言い続けるように傷ついてます感がダダ漏れのウィル。そんな彼をつつむハンニバルの途轍もない愛。不思議に官能的で濃密なセラピーシーンにゾクっとした視聴者でした。

 

獣人の襲撃

今週の殺人は、熊とも狼ともつかない巨大な獣の襲撃

暗い夜にトラックの運転手が狙われれ、巨大な牙で食道が破壊され内臓も引きずり出されているのに、食べられた痕跡がない不思議な死体が残され、FBI行動分析課と顧問のハンニバルが現場を検証します。

同じような襲撃が家畜にも 起っていることから、「何ものかが猛獣を都市化している」とウィルは察し、ジャックは「blood sport 血まみれのスポーツ」、ハンニバルは「何ものかが動物を進化させている」と言います。

 

現場写真を携えて、ウィルは精神科に収監されている動物愛護家のピーター・バーナドーネの意見を聞きに行きます。ピーターはイングラムの虚偽報告が発覚して保護されたのでしょう。

ケヴィンと名付けた子ネズミとすっかり仲良くなり、患者用のジャンプスーツの中に隠しているピーター。「熊と狼が一緒に狩りをすることはあり得るか」と問うウィルに、「訓練すれば可能だけれども...(この件で)動物を責めないで欲しい。動物には友愛があるんだ。殺し合いをするのは人間だけだ」と、知恵の言葉を与えるピーターでした。その言葉にはっとするウィル。

 

シーン変わって、鉤爪がついた義手のようなものなどが置かれた仄暗い作業室。機械仕掛けで動く、巨大な狼の顎を持つヘッドギアの牙に手を加え、猛烈な噛み応えを試す青年。この青年が「血まみれのスポーツ」を楽しむ獣人だったことが分かります。

 

身体中に猛獣のガジェットを装備した青年が、若いカップルを襲います。ヴァージョンアップしたヘッドギアは、男性の腕を簡単に喰いちぎり、女性を襲って瞬殺。

現場で振り子ヒュンヒュンの想像再現をするウィルカラスの羽を持つ雄鹿に「殺せ」と命じてカップルを襲わせ、ウェンディゴの角をはやし、血まみれで人体にかぶりつき快楽を得る自分を彼は想像裡に見ます。

これは獣ではなく、獣になろうとする人間だ...彼はかみ砕きたいのだ...彼には、人間は肉に過ぎない。誰かが彼の精神障害に気づいているはずだ。彼は獣を研究し、そのスーツを作れるエンジニアだ」

ピーターの言葉がウィルに啓示を与えて、飛躍的なプロファイリングができたと考えられます。が、この想像再現は、「血まみれのスポーツ」を楽しむウィルの覚醒とも解釈でき、今後の彼の人格崩壊の兆しとも見える不穏なシーンでありました。

 

ウィルという愛弟子への挑発

ハンニバルのセラピーは エリート殺人者製造学校。ウィルはハンニバルの愛弟子なわけですが、心療室のデスクに腰かけて獣人事件の相談を持ちかけます。 
「(自分が持つ)怒りに匹敵する力を持った人間以上に野蛮な動物はいない」と語るハンニバル。 
 「(獣人に)怒りはありません。怒りは挑発への感情的な対応。...本能ですよ。彼は本能で思考している」と、議論を展開させるウィル。会話する2人の呼吸はピッタリ。
The way any animal thinks depends on limitations of mind and body.
動物の思考は、その精神と身体の限界に依存している。
If we learn our limitations too soon, we never learn our power.
我々が自分の限界を知るのが早すぎると、自分の力も知ることはできない。

お得意の哲学を披露し、いつもながらの殺人の勧めに持ち込むハンニバル。
君は素手で人を引き裂く想像をしたことがあるかね?それとも銃で満足なのか?
Guns lack intimacy. 銃には親密さが欠けています」つい、話題に引き込まれてしまうウィル。

前話で、「自分の手で」ハンニバルを殺したかったというウィルの告白に、博士は拘っているのですね。

When you sent the man to kill me,
私を殺そうと男を送り込んだ時

were you imagining killing me yourself?
君は自分が私を殺すのだと想像していたのではないか?
Living vicariously through him as if...
彼を身代わりにして体験していたのでは? あたかも...
your hands tightened the noose around my neck?
君の手が私の首にかけた縄を締めるように?
Or were you simply hiding?
それとも、君はただ隠れていただけなのか?

You were hiding...  behind the gun.
君は…銃の背後に隠れている。
You must allow yourself to be intimate with your instincts, Will.
君は自分の本能に忠実になる必要があるようだ、ウィル。

 

ハンニバルは、ウィルが自分を殺そうとしたことを責めているのではありません。他人の影に隠れたり、銃の影に隠れたりという、姑息で抑圧された殺人方法を疎んでいるのです。そこには満足も解放もないと。
ウィルのハンニバルに対する殺意を利用して、復讐や自己防衛などで正当化できない、親密な極上の殺人を体験させようとしているのでしょう。見事な挑発です。

このシーン、礼節を重んじるハンニバルが自分のデスクにウィルが腰かけることを許容しているのに驚きました。
Intimate親密な"殺人に導く心理効果とはいえ、他の人だったら無礼者判断で食材にされてしまうような行動も、ウィルなら許せるのですね。

デスクに並んで座り、事件を分析しあう2人。 第1シーズンの仲良し状態に戻ってるみたいな様子なのにも驚きます。結局、一緒にいるのが心地よいのねえ~~。としか思えません。

 

とはいえ、自分が死ぬことなしに、ハンニバルはどうやってウィルの親密な殺人を実現しようとしているのか?気になるところです。

 

愛弟子ランドールへの裏切り

 FBI行動分析課のラボ。被害者の死体を噛み砕いた痕跡を調べるゼラーとプライスは、それが、2万8千年前にで絶滅した体重300~600㎏にも達するホラアナグマの顎に合致すると確認。ただ、ホラアナグマは草食、しかも、噛み砕く力と頭蓋の大きさの比例が合わない。噛み砕く力が強すぎる。極端な圧がかかっていることから、巧妙すぎる仕組みが浮上します

2人の会話を聞いていたハンニバルは、「動物は我々が気づいているよりはるかに人間に近く、人間は動物的なものだ」と奇妙な感想を述べ、獣人殺人鬼の存在を認め

「自らの種に嫌悪感を持つ者は情緒不安定、鬱症状、統合失調症などを併発している。この殺人鬼は外から見えている自分となりたい自分の橋渡しをしたのだ。彼は変成transformationnを求めている」とプロファイリングします。

「奴は獣のスーツを創ったのだな」というジャックにだけ、「医者の守秘義務違反になるが」と内密に「プロファイルに合致する10代の自己同一性障害を持つ少年、人間の身体を持って生まれた獣だと信じる少年を数年前に治療した。彼は孤立して生活し、世間に行動を察知されないようにしていた。自然な変身metamorphosis)を信じてはいないが、努力は続け、もう成人している」と打ち明けます。

 

ハンニバルがタレ込んだのは自然史博物館員のランドール・ティア―。ハンニバルのセラピーを受けて立派な獣人殺人鬼になったってことは、レクター殺人鬼養成所の最優秀卒業生でしょ?こんなに簡単に裏切っちゃうの?と思ったら

ハンニバルはランドールに会いに来る。ランドールは華奢で背の高い暗鬱な青年。裏切ったくせに、ランドールを見つめるハンニバルは誇らし気、愛おしそうに微笑みます。

「自分の何がおかしいのか言うのが怖くて泣いてた僕の...気持ちをあなたは楽にしてくれた」とは言うものの、ランドールは無表情。

君は牙に固執していた...精神科医は患者に道を示すが、それを辿るかどうか患者次第。君は長い道のりを越えてきた。君の素晴らしい進捗を話し合いたい。君の偉業を見たんだ」と、ハンニバルは獣人殺人犯と知っていることをほのめかしますがランドールは知らぬふり。彼の態度はよそよそしく、人嫌いを思わせます。

That crying boy doesn't cling to you anymore.
あの泣き虫少年は、もう君にしがみついてはいない。
What clings to you now? What clings to your teeth?
今の君に、君の歯にくっついているのは何だい。

ここまで具体的な質問をして、初めてランドールは事実を認めます。
Ragged bits of scalp... ...trailing their tails of hair like comet
ズタズタの頭皮だよ... 奴らの髪を彗星の尻尾みたいにぶら下げてる。

2人の会話が詩的ですねえ。残虐な殺人を一片の詩のように捉えている。
思わず、「Beautiful 素晴らしい」と称賛するハンニバル。ランドールはまさに愛弟子でしょう。

「(殺人を)止める気はない 」というランドールに「その必要はないが、捜索の手は伸びている。みつかったら私が言うとおりにしなさい」と、ハンニバルは命じます。

愛する弟子を使って何を企んでいるのか?油断のならないオヤジです。

 

絶滅した剣歯虎の骨格標本が展示される博物館の一角。ランドールの聞き取りをしにウィルとジャックが訪れます。
殺人容疑を問い詰めるジャックにランドールは、

僕は社会生活にも馴染んだし、投薬も受けているし、雇用されて一生懸命頑張っている。僕は精神障害が治療可能だという証拠だ」と反論します。

ウィルは、「自分が被っている人の皮が、自分に適合しないってどんな感じだか分かりますか?」というランドール に共感しながらも、疑念を深めているようです。

 

愛弟子マーゴの画策

第2シーズン後半に現れた、ハンニバルのお気に入り患者=愛弟子マーゴ・ヴァ―ジャー。ゴージャスなデザイナーズのファッションに身を包む美女だけれども、虐待を生き抜く被害者でもある彼女は狡猾い性格。

 

セラピーを終えたウィルと出会って、彼の情報を聞き出します。

ハンニバルは会う度に、彼女を虐待する兄のメイスンに対する憎しみを引き出し、メイスンを殺させようとします。その上、「メイスンがマーゴを非人道的に扱った(dehumanize)ことで、マーゴ自身メイスンを非人道的に扱う(dehumanize)ようになった」と刺激します。
アタシを人外にしよう(dehumanize)としているの?」と問いただすマーゴに

Psychiatrists who dehumanize patients are more comfortable with painful but effective treatments.
患者に人道的見地を持たない精神科医は、痛みを伴うがより効果的な治療を心やすく行える。

 なんて、嘯くハンニバル。マーゴは、
「ウィル・グラハムに会ったわよ。彼にはどういう風に、痛みを伴うけど効果的な治療をしてるの?...あなたっって、一体どういう精神科医なの?」と、切り返します。

 

dehumanizeは「非人道的な扱いをする」という訳を与えられることが多い単語。なのですが"獣人"を語るこのエピソードでは、人外と判断するみたいなレンジでも使われています。

 

猜疑心の強いマーゴは、ウィルの自宅の住所を調べ上げ、家でくつろぐ彼を訪ね、ウィスキーとハンニバルの人物紹介を「患者同士のよしみで」所望します。

この時点ではウィルもマーゴの身上を調べ、巨大精肉産業の跡取り娘とふんでいます。

I have the wrong parts and the wrong proclivity for parts.
私は跡取りには不適切なボディパーツと、パーツに不適切な性癖があるから。

女性であるから跡取りにはなれないこと。レスビアンであることをサラリと語るマーゴ。ウィルも猜疑心が強いので、警戒心を解きはしない。第1シーズンの女性にやり込められるウィルはどこへやら。自信満々で皮肉に応対。どうも、ウィルの心の琴線に触れるのはハンニバルだけになってきているみたいです。

兄を殺そうとしたこと」「レクター博士を殺そうとしこと」を、2人は自慢げに語り合います。

 「私たち、似たような問題を抱えてるわね。博士は私には失敗したら何度でもトライしろっていうけど、あなたにも同じアドヴァイスをするとは思えないわ」マーゴはつぶやきます。

何を企んでマーゴはウィルに急接近したのか?これも気になります。

 

腸チフスも白鳥も神の被造物

マーゴとの会話でハンニバルの殺人鬼養成所に気づいたウィルは、早速ハンニバルに問答をしかけ…

あなたの患者がメモを交換し始めたらどうなるでしょう?ランドールは僕になんて言うかな?彼は成功例ですよね...あなたは説得力があるから」と、嫌味を言い始めます。

How many have there been? Like Randall Tier? Like me?
何人くらいいたんです?ランドールみたいな、僕みたいな患者が?

これまでのお友達モードとは打って変わって、責めるような口調のウィル。彼は囮捜査でハンニバルに近づいたはずですが、語り口が恨み言っぽいんですよ。

自分だけが特別に愛情かけて育てられてたはずなのに、ランドールみたいな完成品がsでにいるってこと?あなた、嫉妬してるんですか?って言いたくなります。

感情が激したのか、べデリアも「自分を信じてくれるって言った。他にも僕みたいなのがいるって彼女は気づいてたんだ。彼女を殺したの?」なんてバラしたりします。もちろん、答えはNOですが。

ハンニバルが切り裂き魔だって知ってるんだから、べデリアが生きてたらこのチクリで彼女の命も危うくなるって考えないんんですかね?もう、捜査官の守秘義務が守れない、人命を守る意識がない、捜査官の風上にはおけない男だ!って、激怒した視聴者のアタシです。

 

殺人を考えるとき、あなたは何を考えてるの?」ウィルは続けます。
神のことを考える」と、またまた神様コンプレックス丸出しのハンニバル。
善の神、悪の神どっち?」って、答えは決まってる質問を繰り返すウィル。

Good and evil has nothing to do with God.
神と善悪には何の関連もない。
I collect church collapses.
私は教会が倒壊する事例を集めている。
Did you see the recent one in Sicily?
最近のシシリアの例を見たかね?
The facade fell on 65 grandmothers during a special mass.
特別ミサに参列する65人のばあさんの上に、正面壁が崩れ落ちた。
Was that evil? Was that God?
これは悪かね?神は悪かね?
If he's up there, he just loves it.
もし神が存在するなら、彼はこれを楽しんだよ。
Typhoid and swans, it all comes from the same place.
腸チフスも白鳥も出処は同じだ。

不可知論のニヒリストで神様コンプレックスなハンニバル節全開。アタシもそう思いますよ。人間の善悪も幸不幸も、美も醜も宇宙的な規模では些少な差異。神がいたとしても、その意志とは何の関係もないって。

この思想を突き詰めると、カニバっても神の善悪には抵触しないと。そこまで超越してるハンニバル哲学に圧倒されます。

「ランドールは神をどう思ってるか?」と聞くウィルに、「直接聞くべきでは?」と答えるハンニバル。なるほど、2人の直接対決を謀ってたね!と、やっと気づいた視聴者です。

 

ランドールという供物

The solitude of what you do is to be respected, and I intend to honour that.
君の行動の孤立性は敬われるべきだし、褒め称えるつもりだ。
I've only come to offer words of encouragement.
私は、激励するために来たに過ぎない。
You are becoming, Randall, and this beast is your higher self.
君は変成しつつある、ランドール。この獣は昇華した君自身だ。
Your bodies, voices, and wills are one.
君の身体も、声も意志も一つのものになった。
Revel in what you are.
君という存在に歓喜したまえ。

なんて言ながら、獣人ガジェットをフル装備したランドールをウィルの家がある、人里離れた夜闇の林に連れてきたハンニバル。「honour褒め称えるって言い方が気になります。まるで、故人に弔辞を捧げるみたいな表現

このエピソードで語られてきたのは、ウィルの「適応、進化、変成」、親密な殺人による変成です。ランドールはそのための供物でしょうか?

 

ランドールは獣人ガジェットを脱いだら、華奢で本来は虚弱そうな青年。一方、FBIの特別捜査官として訓練を受け修羅場をくぐってきたウィル。この勝負、4分6でウィルの勝ちでしょう。
ランドールはハンニバルの、今のところ傑作のはず。とはいえ、獣化してしまった彼は、進化の階段を逆戻りしている。神に届く知性の、人を超えた存在による殺人というハンニバルの理想の対極にいます。加えて、ランドールは厭人症のようなので、ハンニバルを必要としていない。ウィルは人並み外れた知性による高貴な殺人者となり、ハンニバルの伴侶となる可能性がある。であれば、最高傑作を生みだすために、古い傑作を犠牲にするというのは、実にハンニバルらしい詩的想像です。

とはいえ、ウィルが殺される可能性も4割ある。この4割は、一方の選択肢をとった場合に起りうる後悔として、受容すべきものとハンニバルは考えているのでしょう。

またまた人の命を弄ぶ、恐るべき神様ゲームです。

 

飼い犬たちの異変から襲撃を察知したウィル。逃げ出した小型犬のバスターを連れ戻した時の異様な獣人の息遣いが聞こえ、彼はランドールを想定したでしょう。家に戻り、明かりを消し銃を捨てて襲撃を待つ。ウィルが素手で殺す決意をするまでの経過が、とてもスリリングです。

 

外光でかすかに輝くガラス窓を押し破ってランドールが飛び込んでくる。そこに流れるガブリエル・フォーレの『レクイエム:イントロイトゥス(入祭唱)とキリエ』の壮麗な楽曲。黄泉の国に向かった亡者が天国に迎えられるべく、神とキリストの慈悲を請うミサ曲。

 

この戦いで死んだ者には、ハンニバルの記憶の殿堂に祀られる栄誉は少なくともあるのかなと拝察しました。

 

おあいこ=Even Steven

画面がいきなり変わって、ダイニングの扉を開くハンニバル。ウィルが待ち構えていて、食卓の上にはランドールの死体が。

このシーンのウィルのツィードのジャケットが素敵ですね。ウエストが絞られてて、エンポリオ・アルマーニみたいなライン。これまでのダボ服から、とてつもなく進化してます。最上のオシャレをして主人に獲物を届ける忠犬てか、求愛の貢物てか...なイメージ。

僕はあなたに殺し屋を送り、あなたも僕に殺し屋を送った。おあいこだ」とウィルは言います。少しはランドールを悼んでいるのか、メランコリックな表情で頷くハンニバル。2人の間に無言の了解が成り立った模様。

 

「おあいこ」をウィルは「Even Steven」って言ってます。2000年代の頭に『Even Stevens』っていうホームドラマがあったんですね。それにひっかけた、オヤジギャグ。凄いシリアスな話なのに、えっとか、外すネタがオカシ過ぎです。

 

ウィルの変成はどんなものなのか? ランドールという貢物の意味は? 2人は何を了解しあったのか?

興味津々で次回を待ちかねるエピソードでした。

 

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