海外エンタメ 千一夜物語

もの好きビルコンティが大好きなゲームオブスローンズを中心にゴシップ話も交えて、海外ドラマ・エンタメを一人語り・・・

ハンニバル1.09 父という負の遺産 トゥルー・ノルマン深読みネタバレ

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さまざまな腐敗状態のいくつものバラバラ死体を組み合わせ、頂点に男の生首を置いたトーテムポール。いつものエレガントな美しさはないけれど、ショッキングなヴィジュアル。祖霊信仰や部族神話にまつわる象徴物の彫刻っていわれているトーテムポールをシリアルキラーが創るっていう、妙に生臭いヴィジュアルのエピソードを掘ってみました。

 

 

記憶を失い始めるウィルを気遣う?ハンニバル

西ヴァージニア州グラフトンの海岸に突然出現した、バラバラ死体をジグゾーパズルのように組み合わせたトーテムポール。頂点に置かれた殺されたばかり男から、墓から掘り起こされた人々という死亡時点が異なる17人の死体。

いつも通り現場の想像再現をしたウィルは、このオブジェが連続殺人犯の最後のレジュメ、被害者を辱める記念碑で、最後に殺されたジョエル・サマーズは、

Your death is my crowning glory. お前は俺の偉業の栄冠だ。

犯人の偉業を目撃する証人であり、記念の冠ということを悟ります。

 

プロファイリングするウィルの頬にオブジェから滴る一粒の血が注がれると、

何故か、彼はハンニバルの心療室の前に立っている。どうやってグラフトンからここまで来たのかも分からない。車を運転してきた時間と記憶が飛んでいるのですね。

彼の状態は「精神を酷使(abuse)に対するサヴァイヴァルメカニズムの精神乖離現象」で職場を離れるべきだと示唆するハンニバル。酷使というところでハンニバルが使うabuseという言葉、乱用とか虐待の意味があります。共感能力の酷使・乱用に加えて、ジャックの職権による虐待もにおわせるあたり、さすがに、ハンニバルは人心操作の名手です。

「自分は人命を救っている」と言い張るウィルを、「人はどうでもいい。君の命が心配なんだ」と諭すあたり、ハンニバルは思いやりある友人のお手本みたいですが…

 

夢遊病や幻覚の件もあるので、「脳内スキャンが必要かも」とウィルが言い出すと、急にトーテムポール殺人に話題を切り替え、注意をそらします。検査をうけさせたくないのですね。

第5話の『コキーユ』で、ハンニバルはウィルが何らかの病を抱えているのを察知していたと知る観客としては、何を企んでいるのか恐るべしと、興味津々です。

 

アビゲイルの不安とフレディの暗躍

精神病院で同じ年頃の少女たちと集団セラピーを受けるアビゲール。

「毎朝、目が覚めるとお父さんの声がするの…生きててくれたら、アタシのことどう感じてたか分かったのに」と気持ちを語ると、「あんたを殺すべきだったのよ」と答える少女。一緒にいたのは、父親に殺された被害者たち。それが、自分が殺しkたニコラス・ボイルになり、悪夢から目覚めるアビゲール。

殺人犯の娘は殺人犯でしかありえない。アビゲールは父親の負の遺産に、悩まされているのですね。

 

見舞いに来たフレディにアビゲール は「実家を二束三文で売った」と伝えますが、「被害者の家族からの損害賠償請求の訴訟が起こるから、手元には何も残らない」とフレディは反論、それよりも、手記を書けば大金になる、身の潔白も証明できるとそそのかします。

ウィルのネタも入れて、大山を当て、一獲千金をねらうフレディ。「自分の父親みたいに感じたウィルに避けられている」と告げるアビゲールに

Feeling like your father, makes him feel like a killer.

あなたのお父さんみたいに感じるって、自分が殺人者みたいに感じてるってことよ。

フレディはまたも、超的確な事実を指摘をします。特ダネねらいで他人の人生を壊すサイコパスの眼力は、いつも冴えまくってますねえ。

 

アラナの、残酷なダメ出し

ジャックには自分の心理状況を隠しているウィルですが、FBIアカデミーの講堂で、学生たちにトーテムポール殺人犯のプロファイリングを講義している。と思ったら、実は講堂は無人。

 幻覚もどんどん進んでいるようで、さらに不安を増すウィルに向かってアラナは、第8話『フロマージュ』でのキスの件を蒸し返します。

「あなたに嘘をつきたくないから告白するわ…あなたへの思いはあるの。でも付き合えない…だって、あなたは精神不安定だから

そう言っておいて、友人としての温かいハグをする。

いつも正しいことをするために剛球ストライクのアラナですが、この正直っぷりは、もう残酷の域。不安のどん底にいるウィルは、恋愛対象にならない男ってダメ押しされて泣き崩れそうです。

 

家族を選んだウィルとアビゲールの反抗

アラナに最終的な拒絶をされたシーンのすぐ後、ウィルはハンニバルとともにアビゲールの病室を訪れます。

目的は、自分たちのことも含んだアビゲールの手記執筆をとめることですが、ウィルにはうまく言い含められません。しどろもどろで語ったのは

Things are changing for me, too.

僕の状況もどんどん変わっているんだ。

Doing some accounting for what’s important in my life and whatisn’t.

それで、何が大事で、何がそうじゃないのかよく考えてみたんだけど

You’re important, Abigail.

 アビゲール、君が大事なんだ。

 

またまた、自分中心の発言。アビゲールには「お父さんを殺したからって、代わりに」なる必要はないのよ」と突き放されますが~~~

 

一つ、重要なポイントは、ハンニバルに頼ったり、アラナに頼ったり、フラフラしていたウィルが、ここにきてハンニバルとアビゲールを無意識に家族として選んだということでしょう。

 

ウィルは口下手ですから、ハンニバルは助け舟をだします。「何を書いてもいいけれど、

But if you open this door, Abigail, you won’t control what comes through.

アビゲール、一旦ドアを開けたら、何が入ってくるかコントロールできないよ。

Are you ready for that?

覚悟はあるんだね」

 

凄い脅しです。効きすぎて、反抗心からか不安からか、アビゲールはハンニバルと一緒に隠ぺい工作したニコララス・ボイルの死体を掘り起こしてしまいます。

 

アビゲールを追い詰めるジャックの捜索の手

 ニコラスの死体が見つかったことで、再度動き出すFBI。

元々、父親の連続殺人の共犯としてアビゲールを疑っているジャック・クロフォードは、彼女にニコラスの遺体確認をさせようと図り、ハンニバルとアラナ、ウィルの見解を問います。

これまで観察してきて、ジャックは論理的に思考して判断する男だと納得しています。そして、アビゲールに対する彼の疑いは常に正しかった。ジャックはハンニバルに対しては盲目ですが、その他の判断は正しい。

過保護癖があるアラナは、トラウマを負ったアビゲールに死体を見せることは間違いだと指摘します。

ウィルにいたっては、「アビゲールは関係ない…そんなことをしたら取り返しのつかないダメージを与える…実行するなら自分は同席しない」と、とんんでもない剣幕。

これまでの行動パターンを総合すると、ウィルは論理的な思考などしていない。犯人をプロファイルするのも共感能力と直感ですし、基本的に感情で行動してる奴だと。ホッブスに憑りつかれてアビゲールの父親の気持ちになり、その感情でアビゲールが見えていない。ハンニバルも見えていない。FBIの心理テストで落ちるのが、納得できてしまいます。

 全部見通しているハンニバルは、当然素知らぬ顔を通します。

 

確認に現れたアビゲールは、不安に震えながらも、いつもの虚言でジャックの訊問を誤魔化し続けます。アラナもアビゲールが隠し事をしているのを認めながらも、殺人までは疑わない。

「アビゲールは(ウィルが考えているよりも)ずっと強い」

共犯であるハンニバルは、彼女の強さを信じるしかありません。

 

トーテムポール殺人犯の潰える遺産

 今週の犯罪であるトーテムポール殺人、最後の被害者であるジョエル・サマーズは、最初の被害者であるフレッチャー・マーシャルが養子に出した息子だけれど、フレッチャーと血のつながりがないことが判明。ジョエルの実の父親は誰かと観点から、40年前にフレッチャー殺害の容疑者として挙がったローレンス・ウェルズが捜査線上に上がって強大ます。

 

捕まるのを覚悟して、自宅を整理しきってジャックとウィルの捜索を待っていたウェルズ。連続殺人の記念碑トーテムポールを遺産として引退、貧しいために入れない養老院がわりに監獄で老後を過ごす目算だったのです。

ウィルとジャックからジョエルが実の息子であり、遺産を築くかわりに継ぐべき者を殺害しただけだと知らされ、愕然とするウェルズ。

 

ウェルズを演じるのはランス・ヘンリクセン。『X-ファイル』のクリス・カーターが製作したオカルトホラー『ミレニアム』で、ウィルを思わせる主人公のFBIプロファイラーを演じた俳優です。

犯人ウェルズの遺産は潰えたけれども、オカルトホラーのスター、ヘンリクセンの偉業の末尾を飾る栄冠としてこのエピソードは機能していると考えると、またまた、ヲタクとして、思い入れ深いものがあります。

 

娘を持つ父親になるというハンニバルの誘惑

精神病院まで付き添って戻ったハンニバルはアビゲールに、ニコラスの死体遺棄の件を手記に書くのかと詰問します。それは否定しますが、アビゲールは「開けた扉から入ってくるものは無理だけど、いつ入って来るかはコントロールできた。ニコラスの死体がいつみつかるか、もう、ビクビクしないですむ」と反抗的な態度をっ崩しません。

その行為が、自分たちを危険ささらす裏切り行為だとハンニバルは指摘、

 「I need to trust you, Abigail. What if I can’t?

君を信頼する必要があるんだ。もし、信頼できなかったら、どうなると思う?」

 前回よりも、さらにキビシイ脅しをかけます。

 

死体置き場でニコラスの遺体と向き合ったウィルは、想像再現でアビゲールのニコラス殺人に気づき、さらに、アビゲールに腹を抉られる自分を実感します。

犯人の立場でしか殺人を見てこなかったウィルが、初めて被害者の視線に立った。アビゲールの虚言に傷つけられている自覚でしょうか?それ以上に、嫌な予感にとらわれる想像再現です。

 

感情が高ぶったウィルは、いつも通りハンニバルの心療室に押しかけ、アビゲールの殺人を告げ、ハンニバルとアビゲールが共謀していたことを知って、鈍い怒りのようなものに捕らわれている様子。

「ジャックに話したのか?」と問いただすあたりで、ハンニバルがこの部屋での武器であるメスに触れる。ウィルに思いを寄せていても、不都合な奴は始末するという条件反射は出てしまう。気持ちを切り替えてメスを手放したハンニバルですが、この条件反射にぞっとします。

ジャックが事実を知ったら、アビゲールは父親の分も含めて殺人犯にされてしまうから事実を隠ぺいしたというハンニバルの言い訳を聞かせれて、ウィルは傷つき、打ちのめされたような表情をみせます。

自分の意志で選んだ家族が秘密を抱えて、自分だけがのけ者にされて遠ざけられているって感じでしょうか。それを悟ってか、

We are her fathers now.

私たちは、アビゲールの父親なんだ。

We have to serve her better than Garret Jacob Hobbs.

ホッブスよりもいい父親にならなければ」

と、ハンニバルは説得します。

「私は弁護士を呼ぶ必要があるだろうか(ジャックに報告するのか)」と聞かれて、幼子のように首を振って否定するウィル。FBIのプロファイラーだから信じてもらえない。その辛さが、ネグレクトされていた子供時代にウィルを退行させてしまったかのようです。この、30代後半の大人とは思えない傷つきやすさが、ウィル・グレアム最強の魅力なのだと思います。

2人が父親であることをあえて口に出し、自分たちが家族であるという共通認識を持たせる。ウィルにとっては一番の誘惑である家族を与えることを、ハンニバルはメスに代えて選んだのですね。

正義ではなく家族愛を選んでしまったことに悩んでいるかのようなウィルの肩に、ハンニバルはそっと手を置きます。

このシーンに被るのは、12世紀の神秘家であり作曲家のヒルデガルト・フォン・ビンゲンの『O Euchari』。ヒルデガルドは、マリアの処女性と"キリストの花嫁"という思想に傾倒していたのですが、この楽曲にも、聖者の身体を通しての神との合一とその歓喜というものが溢れております。

 

てことは、ハンニバルとウィルが娘の父親になるという"聖婚"の象徴ですか?と、観念連合にギャフンとするアタシです。

そういえば、このシーンも超ゲイって、あっちこっちで取り上げられています。

 

ハンニバルという父がもたらす負の遺産?

 言いくるめたウィルとアビゲールを従えてフレディをディナーに招き、自分たちが家族であることを案に主張、「アビゲールを守るのは自分たち。将来も含めて最善を考えている」と口出し無用の最後通告を出すハンニバル。

「最高のサラダを肉でだいなしにするなんて」と嫌味を言って、この件は引き下がる意志を見せるフレディ。

 

2人きりになった食後の片づけで、アビゲールはニコラス殺害の秘密をウィルが守れるかどうか不安をハンニバルにぶつけます。ハンニバルは

He will keep it because otherwise the one good thing in his life is tainted.

秘密を守らなければ、ウィルの生涯ただひとつの良いことが汚れてしまう。

He will lie to Jack Crawford about you just as he has lied to himself.

だから、自分に嘘をついてきたようにジャックにもう嘘をつき通すよ」

と、アビゲールを諭します。

 

さすがに、ハンニバル。ウィルの不幸な人生、自分を守るために嘘をつき、大好きな人が悪人であることを認めたくないときは自分を騙して事実に目を瞑る性質をよく理解しています。

 

アビゲールの人間性も、誰よりも理解している。ハンニバルが自分の最大の守り手だとアビゲールが思い込むのも無理ありません。

お父さんが何者で何をしてたかも知ってたけど、被害者をおびき寄せる餌になってお父さんを手伝ってたの…そうしなければ、アタシが殺されてたから」と、ハンニバルに究極の告白をします。

いつ教えてくれるかと、待っていたよ…君を守るから」と、優しく、本当に愛おしそうにアビゲールを抱きしめるハンニバル。

 

小説や映画のハンニバルファンとしては、少年時代に妹ミーシャを殺人者から守れなかったことが、ハンニバルの心に大きな傷跡を残しているのを知っています。アビゲールにミーシャの面影を重ねて、彼女を守ろうとしているのは確か。

 

ただ、抱きしめながら時々視線がさまよいます。常に何手も考えているハンニバル。純粋な保護欲のほかにも、さまざまな保身や企みがあるのも確か。

 

抱擁の後は、アビゲールの記憶の中の、父親と一緒にしていた少女狩りのモノクロシーンが続きます。

 

 

連続殺人犯のホッブスが残した負の遺産を、ハンニバルという強大な殺人鬼の庇護で埋めようとしているアビゲールの将来に恐ろしく暗い影を見た、エピソードでした。