エンタメ 千一夜物語

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タイレル家潰しは、七王国の復興を考えると間違ってるのだ!ゲーム・オブ・スローンズを振り返る

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最終シーズン最終話のエンディング近く、ティリオンの下に集まったブロン、ダヴォス、ブライエニー、サムといった小評議会のメンツを見て七王国の黄金時代に向けた復興の兆しを感じられなかった私目。

なんでかな?そうだ、タイレル家がいないと・・・。

何故、タイレル家が復興と繁栄に益するのか?考えてみました。

 ※イラストはTed Nasmithの作品です。

 

 

美しい城ハイガーデンと黄金の薔薇

第7シーズンのタイレル攻めの時に登場したハイガーデンは陰気臭いゴシックスタイルの城塞でしたが

原作に描かれているのは、観光客が訪れるほどの白石の美麗城。

メロンや桃といった果実が豊かに実る緑深いリーチ(河間平野)の丘の上に、イラストのように燦然と輝いているのです。

古い時代の四角い建造物に新しいドームや円形の塔が加えられ、城内は迷宮のようだといいます。

香り高いさまざまな薔薇が咲き乱れ、歌い手や楽師の美しい調べが流れる喜ばしい迷宮です。

 

広場では定期的に騎馬試合が催され、ハイガーデンは華やかな騎士道でも名高い場所。

 

王都、ラニスポート、オールドタウンへの街道が交わる場所でもあるので、旅人や商人も訪れます。

 

タイレル一族の紋章はグリーン地に黄金の薔薇。その家訓はGrowing Strong(力強く成長する)。

ハイガーデンとタイレル一族が象徴するのは植物の生命力

威嚇的な猛獣を紋章にして氷を象徴するスターク家や、炎のターガリエン、金のラニスターとは異なり、静かで果てることのない植物の力、春の蘇りといえましょう。

 

五王の戦いと夜の王の侵略で疲弊する七王国の復興に、これほど相応しい一族はいないでしょう。

 

 

 

 

あらゆる豊かさが集積するハイガーデン

 

リーチ(河間平野)が七王国の穀倉地帯であり、タイレル家が七王国で二番目(ラニスターの金をロバート・バラシオンが唐人してしまったので実質的には一番)に豊かな一族と言われていますが、ハイガーデンの豊かさはそれだけにとどまりません。

 

知識の要衝シタデルがあるオールドタウンと七王国随一の商業港ラニスポートと王都への三つの街道が交わる場所ですから、

最新の知識や書物、文人、東方からくる香料や目も綾な織物や美術品もここを通って王都へと運び込まれ、七王国から輸出される名産物も通る。縁戚関係でアーバーのワインも持ち込まれる。

それらの交易がもたらす豊かさも図りしれません。

 

さまざまな文化も交わるわけですから、多様性への理解も深く、自由な気風も育ちます。

 

ですから、花の騎士ロラス・タイレルがレンリー・バラシオンと恋中でも、家長のオレナは泰然と受け止めますし

ロラスは、その富を後ろ盾に繊細な金細工の小花を散りばめた高価な銀の甲冑を身にまとい、王子たちよりも華やかな衣装を取っ替え引っ替えできたわけです。

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妹のマージョリーが、サーセイ・ラニスターが眼を潜めるようにセクシーで、オートクチュールみたいに凝ったラインのドレスを着用できたのもハイガーデンの文化あってこそ。

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硬直しがちな七王国の文化はタイレル家の自由な気風やドーンの快楽性があって、始めてバランスが取れると言えましょう。

 

とはいえ、富が集中する城下は貧民の流入で王都のような混沌に帰しやすい。この場所を美しく気品ある場所に保つには、鉄の意志と規律も必要です。

 

 

実は、子沢山で人材豊富なタイレル家

 

TV番組では、老獪な政略家で合理的な実務家のオレナと、オペラ親父のメイス、美貌の兄妹のロラスとマージョリーしか出てこず、簡単に断絶してしまったタイレル家ですが

原作では、長男のウィラス、次男のガーランと頼もしい三兄弟に恵まれています。

 

その他に、従兄弟や再従姉妹も多いのがタイレル家の特徴。

 

ハイガーデンの交易とリーチの農作のコントロールは、オレナの技量だけではなく、強大な一族あってこそ可能になることです。

 

さらに軍備もブラックウォーターの戦いで見せた陸軍の装備に加え、オレナの生家であるレドウィン家を通じて鉄の民や王家に匹敵する水軍も配備できるという充実ぶり。

 

原作ではマージョリーは存命、ロラスも死亡確定はしておらず、断絶させるのは難しい一族なのです。

 

 

ウィラスとガーランの重要性

 

ウィラスとガーランのストーリーを一緒くたにして三男坊のロラスを一人息子にするというTV番組の方針に原作者のジョージ・R・R・マーティンは強く反対していたそうです。

第6作に予定している『Winds of Winter』以降、二人が活躍することになるというのです。

 

ウィラスはドーンの"赤い毒蛇"オベリン・マーテルとの騎馬試合で負傷し、脚が不自由だけれども学者肌で戦略センスもあり、鷹や猟犬、馬の種畜家としても名高い人物。オベリンに対しても私怨を持たず、文通して交流を深めるなど、人格も立派です。

サンサが嫁ぐはずだったのは、実はウィラス。これが実現していたら、彼女も幸せになっていたことでしょう。

 オレナのリスペクトを勝ち取った、ただひとりの男子というところもポイントです。

 

実はロラスよりも優れた騎士で、ブラックウォーターの戦いでレンリーの甲冑を着て戦った(ロラスは体格が小さいので190cmを超える原作のレンリーの甲冑を着るのは無理)ガーラン。キレやすく栄光に弱い原作のロラスと違って、ティリオンの戦功を称えるなど、彼もできた人物。"王の楯"のメンバーではありませんが、トーメン王の守護を買ってでるなど、男気も十分。

 

ウィラスやガーランのような資質を持つ男たちが、七王国の復興には必須。

 

 

薔薇戦争の終結にはチューダー家が必要なのだ!

 

因みに、ゲーム・オブ・スローンズは薔薇戦争を下敷きにしていると言われています。

 

プランタジネットの分家、ランカスター家とヨーク家が英国王座を巡って争った、血みどろな戦争です。両家を放っておいたら延々と続いていたような、因縁深いものです。

本当の講和がなされたのは、ランカスターの傍系と縁組したテューダー家(Tudor)が加わって、リッチモンド伯ヘンリー・テューダーがヨーク家のリチャード三世を破った上にヨーク家と縁組という形でした。

第3者の介入による、複雑な縁組で犬猿の両家が統合されたと。リッチモンドはヘンリー七世となり、以降、英国は未曾有の繁栄期に突入すると・・・・

 

ランカスター(Lancaster)とヨーク (York)、ラニスター(Lannister )とスターク(Stark)、音韻とかも似ています。

 

原作ではラ二スター家のトーメン王はまだ健在。別角度からの講話もありうるかと。

そして、テューダー(Tudor)に似た音韻を持つのはタイレル(Tyrell)家。

パワーバランスを破る第3の勢力としてもタイレル家に期待していた私。

 

実に残念です。

 

タイレル家を潰したのは、どう考えてもエンディングを薄くしてしまいます。

 

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