エンタメ 千一夜物語

もの好きビルコンティが大好きな海外ドラマやバレエ、マンガ・アニメとエンタメもろもろ、ゴシップ話も交えて一人語り・・・

シオン・グレイジョイ 心を病む罪人に救いはあるのか?

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私の心に一番ヒビく登場人物は、大胆に活躍することもなく予告編にも出てこないシオン・グレイジョイ。

裏切り者・卑怯者、さらに人以下の召使、虐待の犠牲者・去勢者として、日のあたらない牢獄や犬舎、城の片隅や姉ヤーラの影で息をひそめて生きてきたシオンは痛すぎる。

その痛さを探っているうちに、根深くゲーム・オブ・スローンズを愛するようになったと言える私め。

最終シーズンまでなんとか生き延びた彼の、私の目から見た痛さを語りつつ、救いはあるのだろうかと、考えてみた。

 

 

愚かで傲慢な若者の転落

ショーン・ビーンやエイダン・ギレン、レナ・ヘディといったビッグネームに釣られて見始めたゲーム・オブ・スローンズの第1シーズン。ごしゃごしゃとでてくる若者たちは、ウザい存在だった。

 

中でも超腹立たしいのが、スターク家の里子として登場したシオン・グレイジョイだった。

 

 

 思い上がりという罪

  マペットみたいな顔したチビのくせに態度がデカい、口達者。弱い立場のジョン・スノウや小人のティリオン・ラニスターを嫌がらせを言ったり、性格が悪い。思い上がっている。

女癖も悪い上に女性蔑視と、腹の立つことばかり。

 

実のない男に見えるが、タダひとり本当の兄弟のように接してくれる長男ロブには腰巾着状態。

後見人のエダード(ネッド)が謀反人として捉えられると、ロブに挙兵しようと言って舞い上がる。

 

学匠ルーウィンの言葉から、シオン・グレイジョイは里子ではなく、戦時捕虜だということが薄々察せられて、本当は敵なの、こいつ何考えてるんだと疑問が沸き・・・

 

おまけに、

now and always  今もいつでも

My sword is yours, in victory and defeat, from this day until my last day. 

勝利でも敗戦でも俺の剣はあなたのもの、今日から俺の死ぬ日まで

なんて熱い忠誠をロブに誓って右腕になり、自分らの戦功は歌い継がれるみたいなことまで言い出し、やたらに調子がいい。

 

「俺の親父のベイロンから艦隊をだしてもらって、王都を一挙に攻めよう」

なんてお人好しのロブを説得して、チャッチャと故郷の鉄諸島に帰っていく。

 

 

サイテー男の最悪な裏切り

帰ったところからシオン・グレイジョイの人生の歯車は狂い始める。

王国とは名ばかりの、草木も生えない島パイク。

海賊を生業とする民は閉鎖的で、王子の凱旋を想像していたのに誰にも歓迎されない。

 

ロブとの共同戦線を父に提案するが、女のように着飾った軟弱者と相手にされない。

この親子の口論から、バラシオン王に反旗を翻して大敗したベイロン・グレジョイの挙兵を抑えるために、子供時代に捕虜としてネッドに連れ去られた末の息子がシオンだということが明らかになる。

 

薄っぺらな人間に見えていたシオンが、長年愛情に飢え、成敗される不安を押し殺してきた捨てられた息子、傷ついた少年だということが分かって共感しそうになるのだが、

 

権力の空白が生じた北を攻めるというベイロンに加担、命ある限りの忠誠を誓ったロブを裏切り、命じられてもいないのにウィンターフェル城を簒奪。

剣の師匠ロドリック・カッセルを斬首刑に、逃げたスターク家の末息子たちブランとリコンの身代わりに粉屋の息子二人を殺して正体が分からいように、黒焦げにするといった非道ぶり。

 

ウィンターフェル簒奪自体いただけない。

 

戦争の決めては、人・物・金。鉄の民に負けないくらい閉鎖的な北部諸侯。人脈も人望もないシオン・グレイジョイには、北部総督の城を奪えても、保持することはできない。鉄の民が支配するのは海路なので、内陸のウィンターフェルへ兵站線を確保することも難しい。

姉ヤーラの言葉どおり、ブランとリコンを人質として確保したら、さっさと逃げ出すのが得策というもの。

 

ベイロンにとって、重荷以外の何でもないこの暴挙。「ロブと同じように自分もできる」「ウィンターフェルの本当の城主になる」という、シオン自身のセンチメンタルな満足としか思えない。

おまけに、城の人々から拒絶され、反対に傷ついている。

 

本当に節操がなく、愚かで無能な奴だと思った。

 

 手が震えて、一刀でロドリックの首を落とすことができず、五太刀もかかったのを見て、根性の据わった悪人にもなりきれない、卑怯な弱虫であることも分かり、

 

自分では何もコントロールできない世界に放り込まれて

身近な人物の関心を買おうといつも必死な

自信を欠いた不安と焦燥に駆られる若者だということも確信して、不思議と気になり始めたのですね。

 

 

 拷問という、重すぎる罰

城攻防の最中に自責の念にかられ始めたシオン・グレイジョイ。

弱みを見せた人間は、生き抜けないのがゲーム・オブ・スローンズの世界。

 

当然のことながら、城奪還を率いた最凶サディスト、生皮剥ぎが大好きなラムジー・ボルトンに捕らえられ、足をネジ留めされ十字磔けになって、水も眠りも奪われ、殴られるのは当たり前、皮を削がれ、小指を削ぎ落とされ、・・・

助けが現れたと見せかけて、脱走させては連れ戻す、女たちをあてがう振りをして性器を切断すると、心理的にもあらゆる希望も奪うような、見事なまでの拷問の限りを尽くされ

 

おまけに、リーク(臭い)と改名され、人としての尊厳を奪われ

渇きと空腹、痛みと恐怖に震える、人以下の存在、ラムジーの玩具と成り果てる。

 

ラムジーにとっては娯楽である拷問は続き、猟犬に喰い尽くされる女たちや生皮剥ぎで殺される人々を目撃し続け

恐怖で脳が萎縮したように、正気を失って次第にシオンであることを忘れ、リークになりきって

always and forever  いつでも、いつまでも

ラムジーのものだと、永遠の従属を誓うまでになる。

 

痙攣しながら忠実にラムジーにに奉公して、従順に折檻を受け、

地の底から振り絞るような声で苦しそうにラムジーの残酷な言葉に答える

リークになったシオンの哀れさは、例えようもない。

 

でも、マクロな視点から見たら、ヒーローでも全くの悪人でもありえない自分にとって

七王国で最も近しい存在はシオン=リークにほかならない。

 

若気の傲慢で間違った選択をして周囲の人を傷つけ、その結果として自分はさらに痛い思いをし、間違った選択を重ねては自分を追い込むという悪循環にはまってしまう癖がある自分は、「罪と罰」のラスコーリニコフや「悪霊」スタヴローギンに惹かれてきたが

もっと卑怯で矮小なシオン=リークに近いものがあると気づき、

 

 

どっぷりシオン=リークに嵌ってしまった私でした。

 

 

救われた被害者の心の闇

ラムジーの嫁として虐待を受けることになったロブの妹=サンサに、リークではなくシオンであることを何度も諭され正気を取り戻し、サンサとともにラムジーの元を逃げ出したグレイジョイ。

 

ラムジーの拷問は、犯した罪よりはるかに過酷だった。

常識ある北部諸侯に捕らえられたら、シオンは斬首にされていただろう。

赦免されるには"冥夜の守人"となって、貞潔と忠誠を誓って七王国の守備に生涯を捧げるしかない。

だが、シオンは"罪を許されたくない。許してもらうには重すぎる罪を犯している"と"壁"行きを拒絶した。

 

鉄諸島に戻って姉ヤーラの庇護を受けるようになっても、頬がこけ、やつれは酷くなり、眉間に縦ジワが入り・・・

もろくはあるが、従順な子供のようだったリーク時代に比べて、さらに苦しそうだった。

 

ラムジーといる間は、部外者の視線は関係ない。ラムジーに気に入られることだけ考えていれば良かった。シオン=リークは、外部から隔絶した繭の中にいたとも言える。

ラムジーがいないシオンは、一人で外部、他者の視線と立ち向かわなければならない。

 

勿論、ラムジーから与えられた心と身体の痛み、恐怖。トラウマは、常にシオンの中に存在し続けている。残虐に屈した自分の弱さへの恥、リークに落とされた屈辱も強いはずだ。

 裏切り者、腰抜け、玉なしと嘲る周囲の眼差しや言葉が、屈辱を倍増させる。

 

 

シオンに戻ると、シオン・グレイジョイとして犯した罪の重さにも悩まされなければならない。

 いや、シオンはシオンとして犯した罪に苦しむ道を選んだのだ。

 

ラムジーという処罰者がいなくなった後は

自分で自分を苦しめ、苛めたい。ように見える。

 

ラムジーに従い目撃した、数々の拷問や残酷な殺人の犠牲者の記憶。

サンサや要塞ケイリンの同胞のように、リークがリークであったことで

救済が遅れた人々、巻き添えになって虐殺された人々、救えなかった人々への罪の意識、生き延びた者の罪悪感も加わる。

 

 ナチスの収容所から生還者は、さまざまなトラウマから逃れることができず、被害者であれり加害者にされてしまった自分を責めつづけて自殺する人も多かったという。

 

エルサレムに住む、生還者2世代目である私の友人の親御さんも自殺している。

 

シオンも同じように、自分を責めつづけて心を病んで壊れている。

 

 

 弱さを許さないヤーラの下で、傷き苦しむ心と身体の痛みを押し殺し、

総てに堪えて、一人前の男として振舞わなければならない。

なんとも辛い人生だ。

 

 

回復への道は・・・

 

押し殺したトラウマは、いつか洪水のように溢れ出す。

 

王位を狙う叔父ユーロンに船を襲われ、舌をかき切られる男たちや、殺されそになったヤーラを目撃して、戦いを放棄して海に飛び込んでしまったシオン。

 

心の奥に押し殺していた恐怖とショックが戻ってくる、典型的な心的外傷後ストレス障害の症状だ。

 

ヤーラの部下たちに救助され、ジョン・スノウと再会し

「自分は間違いばかりおかしてきた。自分はスタークなのかグレイジョイなのか」という疑問に

「お前とは比較にならないが、俺も取り返しのつかないことを沢山しでかしてきた」「選ぶ必要はない。お前はスタークでグレイジョイなんだ」と、答えてもらい

少し自信を取り戻して、ヤーラ奪還に向かうが・・・

 

今シーズンの展望としては

・ユーロンを倒してヤーラを救う

・ヤーラ救出は成功するが、その際ユーロンの手に掛かり、英雄的な死を遂げる

・ヤーラ救出には失敗するが、何隻かの船を入手して"夜の王"に破れたジョンとデナリスの救援に駆けつける。

・とにかく生き残って"夜の守人"になる。

など挙げられているが、これがシオンの救いになるとも思えない。

 

 

まず、always and foreverと誓ってしまった相手ラムジーとの関係性にどう決着をつけるのか?

心の内側にトラウマとして巣くっているラムジーをシオン=リークは殺すことができるのか?

ラムジー殺害のストーリーラインは、ラムジーを憎みきれるサンサにいってしまい、シオンの決着は置き去りにされている。

 

 

これでは、彼は立ち直れない。立ち直る必要もないのかもしれない。

 

トラウマから完全に立ち直るという考えは、現実世界ではリアリティが感じられない。

心の奥に押し込めたトラウマは、時折、鮮烈に蘇ってくる。

現実の人間にできることは、トラウマを抱えて生きていくことに慣れて、少し鈍くなることだけだと思う。

 

そこで、この壊れた青年は分裂した二つの人格リークとシオンを統合することができるのか?

この展開は、TV的にありえないだろう。

 

 

彼が苦しい心の葛藤の中で安らぎを得るために 、さらに重要なのは、

情愛のないシオンの人生の中でただ一人健全な人間関係を築けた相手、now and always と誓った相手のロブへの償いだろう。

シオンが本当に許しを請いたいのは、サンサでもジョンでもなくロブのはず。このストーリーラインも、置き去りにされている。

 

 

サンサに打ち明けたように、スターク家の誰かを救うために生命を落とすことができたら、シオンも自分を許せるかもしれない。

多分、これがシオンにとっても一番納得がいく、苦しみから解放される結末だろう。

 

満足できる結末が与えられるのか?中途半端に放り出されてしまうのか?

 

 

シオン・グレイジョイを考えると、自分のことのように悩みは尽きない。

 予告編にも出てこない彼の未来は読めない。

 

英雄的な活躍などしなくてもよいから、

ただただ、心の平安を見つけて欲しいと思う。

 

彼が生き延びているということ、それだけでも、現実の世界では奇跡なのだから・・・

 

 

 

www.biruko.tokyo

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