海外エンタメ 千一夜物語

もの好きビルコンティが大好きなゲームオブスローンズを中心にゴシップ話も交えて、海外ドラマ・エンタメを一人語り・・・

『アナザーラウンド』マッツが生きる輝きを教えてくれる ネタバレ注

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大好きなマッツ・ミケルセン主演の『アナザーラウンド』が9月から日本でも公開!ってウレシイ~~!アカデミー賞国際長編映画賞獲得の前から、各国の映画祭をブッチギッてきた名作。本当にね、苦しいことも辛いこともひっくるめて、人生は素晴らしいって教えてくれる映画。コロナ騒動で鬱々しがちな今、ジワジワ腹の底から元気にしてくれる作品なんです。

 

 

マッツはミッドライフクライシスなオヤジ

若い頃は自分の可能性は無限で世界が輝いてる!みたいに思ってキラキラ生きてる奴もいます。そんな奴も、定職について、結婚して、家のローン払って、子育てして 、親の介護してなんていうもろもろにかまけているうちに、勢いを失って疲れた中年になってたなんて、よくあることです。

マッツ演じるマーティンは、まさにそんなヘタレ中年オヤジ

昔はチョイ悪でジャズバレエなんか習ったり、教授コースの候補にあがったりしてたけど、子育てでスキルアップは諦めてしまい、今ではただの歴史の先生。情熱というものを何一つ持たない、面白みのないあきらめたおっさんに成り下がってます。

 だから息子たちも軽く無視されてるし、夜勤ばかりしている妻アニカはよそよそしいし、クラスの生徒や親御さんからは「授業がつまらない、分かりづらい、これじゃあ卒業試験も危うい」と非難されまくり~~。

 

北欧の至宝、デンマークで一番セクシーな男、ガキ大将がそのまま大人になったみたいなマッツがヘタレオヤジですか?って思うんですけど~~

さすがですねえ。喋り方がモゾモゾして、動きがロボットみたいに堅苦しくて、眼に生気がないと、見事にヘタレてます。身体全体から疲労と諦めが立ち上ってくるんですね。そんでもって、なんか堅苦しい人物。さすがです。

 

孤独なオヤジどもの飲酒実験

そんなマーティンの救いは職場であるギムナジウムの同僚たち。体育教師のトミーに、音楽担当のピーター、心理学のニコライの4人組。

ニコライ40歳を祝う 男だけのディナー。素敵なレストランでの会食なのに、マーティンは「自分は運転手役だから」なんてお酒を辞退。絵にかいたような堅物。

人間は0.05%の血中アルコール濃度で幸福になれる」ってな、ノルウェーの精神科医フィン・スカルデルードの仮説を持ち出してマーティンに呑ませようとするニコライ。頑くなマーティンもメチャうまキャビアとウォッカをサービスされて、つい飲んでしまう。一杯飲んだら、良年ワインとかもボトルで来てるし、もう止まりません。

何か問題あるんじゃないかと心配する仲間に、何もないと言いきっていたマーティンですが、ほろ酔いになると正直になる。

嫁は浮気してるかも…でも、父親の介護もしてもらったし、老後のプランもあるし、別れられない」なんて、優柔不断な涙を見せるようになる。

こうなったら、もう、男の友情は炸裂。「お前、自信持てよ」なんちゃって、呑んで飲んで、飲み倒し、陽気に盛り上がって店で踊ったり、帰り路で競歩したり、子どもに戻って大騒ぎ。

 

この仲良し4人組、よく考えるとな孤独な男たち。家族の中で孤立しているマーティン。幼子3人の育児で妻と会話する暇さえないニコライ。離婚して犬と2人暮らしなトミー。一見独身貴族だけど、「出会いはあっても子供はいない」と嘆くピーター

よくあることですが、アルコール頼りで喜びを感じるしかない中年オヤジたちなんですね。

 

で、「血中アルコール濃度0.05%の幸福」理論を自分たちが実証しようなんて、昼から酒を呑み始めます。

最初のうちは多幸感で創造性もアップ授業なんかもエンタメしたり、コミュニケーションも向上して生徒も大満足。

マーティンは家族みずいらずのカヌー遊びのヴァカンスで息子たちや妻との距離を縮めたり、いいこと尽くし~~

 

行き過ぎがもたらす不幸

なのですが、人間の快楽追求はほどよく収まるものではありません。 4人集まれば酒を呑む。家族との時間を作るはずだったマーティンの決意もどっかに消えてしまい、酒量はどんどん増えて、釣りにでかけても、スーパーでも、酒場でも、前後不覚のどんちゃん騒ぎ。
ニコライはベッドで失禁しちゃうし、道端で寝ころんじゃったマーティンは頭に怪我。

家族をかえりみない、無責任な飲酒を妻アニカに責められて逆切れ。ついに彼女の浮気を問いただしたら、あっさり認められてしまい「出てけ」と怒鳴って暴れ、妻子に見捨てられて一人ぼっちになってしまいます。

学校でも4人の飲酒が表ざたになり、"0.05%実験"は中止となるのですが、トミーはすでにアル中状態。

愛犬とボートで沖に出て、そのまま戻らぬ人となってしまいます。

 

少しばかりのアルコールは幸福感をもたらすけど、節度をわきまえないとただの自己破壊にしかならい。ってもう、最初から見えていた結論ではあります。

 

宴の後とマッツのダンス

とはいえ、飲酒がもたらしたのは悪いことばかりではありません。

トミーの葬儀の日と重なったギムナジウムの卒業パーティ。「教師なんて卒業したら忘れられるだけ」とピーターは嘆いていましたが、飲酒の多幸感から心を裸にして生徒と触れ合い、生徒たちを親身に助けた4人組は、それぞれの生徒から、さまざまな感謝をしめされます。
トミーが育てた少年サッカーの選手たちはチーム全員葬儀に列席。特に落ちこぼれかけていたのを救われたチビ君はトミーの棺に、愛が花言葉の赤いバラを捧げます。トミーは死んでしまったけれども、この少年の思いでの中でトミーは言い続けていくのだろうと、希望の光のようなものがみえてくるのですね。

 

これは希望で終わる映画なのですね。

 

残されたマーティン、ピーター、ニコライはトミーを偲ぶ会食の席で、またワインをたしなみ、それぞれ前に進んでいく。家族円満なニコライ。新たな出会いに期待するピーター。マーティンには復縁を望む「あなたがいないと寂しい。すごく…」というアニカからのメッセージが届きます。

トミー以外、誰も明確なエンディングを迎えたわけではありません。なぜなら、彼らの人生はまだ途中だから

未来は不確かだけれど、希望を持って前に進める心境になっているのですね。

 

この後で、アルコールを浴びて祝う卒業生たちと合流したところで、話題のマッツが踊るシーン登場です。

 「踊ろうぜ」と誘われても、頑固に拒否し続けてきたマーティンがついにジャズバレエを即興で踊りだす。踊っていたのは数十年も前のこと、ぎこちなく錆びついた感じで、息切れしたのかすぐにベンチに座り込んで、もの思う様子。

若気の至りでは色々やってみたけれど、自分には突出した才能などなにもない。未来に向かう気力を失い、妻とも距離を置いて、自分を閉鎖してきた年月。酔うことではじけ過ぎてしまい失敗を繰り返したけれど、妻と出直すチャンスはある。人目を気にして、自分を抑えて生きることに何の意味があるだろう...。そんなことを考えたのでしょうか?

 

一人の死と多くの人生の門出が交錯するこの一瞬、気を取り直して踊りを再開したマーティンは吹っ切れています。マーティンはグルグル回って、ジャンプして、海に向かって飛翔します。

なんとも、なんとも鮮烈な幕切れ。

 

年をとっても希望さえ持てれば、若かった時のように飛翔することができる。アルコールに頼らなくても、自分を解放すればつながることはできる。幸福の道はある。

死が目の前にあるからこそ、一瞬、一瞬の生の輝きが抱擁できる

そんなことを語りかけてくるような幕切れ。

撮影直前に亡くなったヴィンターベア監督の娘さんに捧げられた映画。それだけに、生きる輝きが、より真摯に伝わってくるのですね。

  

映画を見る歓び

 9月公開予定の映画のネタバレしてしまって、興味がそがれてしまうというご心配もあるかと思いますが、この映画、筋書のアップダウンを見せるものではないのです。

描かれたストーリーは、当たり前っていえば当たり前の話に過ぎません。

 

むしろ物語が起こる背景や、行間にある人々の思いが印象に残る映画なのですね。

小津安二郎作品や ベルトラン・ダヴェルニエ監督の『田舎の日曜日』とか、ごく普通の人々の何げない生活風景を切り取って人生の哀歓をじっくり描く映画が昔は沢山ありました。

これも、そんな映画の一つです。

 

まずは、アカデミー賞監督賞にノミネートされたトマス・ヴィンターベアならではの、美しい映像世界があります。

透明な北欧の空気感と陽光。緑深いデンマーク郊外の整然とした街並み。豊かな水。大きな窓とシンプルでウッディな家具。豊かな自然に包まれるように生きる人々。

そしてヴィンターベア監督ならではの、言葉ではない、映像が語る心理描写。

 

マーティンとアニカの復縁を応援しながら、どうしようもなくにじみ出るトミーの深い孤独。アニカが言葉にはしない心の揺れ。

何よりも、この映画でヨーロッパ映画賞ほか、多くの主演男優賞を獲得したマッツ・ミケルセンの巧みな心理表現。

妻の浮気に気づかないふりをする諦めきった無力感。友人に打ち明け話をする時の肩の荷を降ろすような涙。カヌーヴァカンスで愛を交わした後で泣き出し、「ずっと寂しかった、あまりにも長い間」とつぶやく妻に、その不貞をほぼ確信した時の裏切られた表情。それを認められた時の凄まじい怒り。トミーの死を悼む抑えた涙。復縁のEメールを受け取ってのかすかな笑み。

微細な表情で千変万化の心情を表現してくれるので、マーティンの人生がすごくリアルに身近に感じられます。

そして、ベンチのシーンのように無言の行間に万感の思いを感じてしまいます。

 

言葉にならない行間に、見る人がそれぞれの思いを投影しながら、生きる輝きに満ちた"飛翔するマッツ"の最終場面にたどり着くのですね。

時にはぶっ飛んでしまうことに大きな解放感があって、そこには危険もあるけど、ギリギリのところで自分の人生も愛しく思える

 

 

マッツのダンスシーンのBGMのコーラス部分が、すべてを要約していますかと。

What a life, what a night
最高の人生、最高の夜
What a beautiful, beautiful ride
スッゴイ、いかしたノリなんだ
Don't know where I'm in five but I'm young and alive
20分後にどうなってるかは分からないけど、俺は若くて生きてる
Fuck what they are saying, what a life
奴らの意見なんかクソ喰らえ、人生最高!

 

I am so thrilled right now
今、すごくスリリングなんだ。
'Cause I'm poppin'  right now
今、ハジケちゃってるからさ。
Don't wanna worry 'bout a thing 
何も心配したくない
But it makes me terrified
けど、ちょっとビビるぜ
To be on the other side
あっち側に行っちゃうのってさ
How long before I go insane?
そろそろ狂っちゃうんじゃないかって

 

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